ピットレーンのもっとも出口に近い位置に配置された、プジョー・トンタルエナジーズのピットガレージ 2025年WEC公式テスト“プロローグ” 2月21日(金)から翌22日(土)にかけて、中東のカタールでWEC世界耐久選手権恒例の公式プレシーズンテスト、“プロローグ”が行われた。
金曜の初日に続き、最終日も日中と夜間のふたつのセッションが実施されたルサイル・インターナショナル・サーキットのパドックから、各種トピックスをお届けする。
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■前年の予選タイムを上回ったハイパーカーと届かなかったLMGT3
WECのプロローグテストを構成する4つのセッションは、4つの異なるメーカーによってペースが決められ、フェラーリ499P、キャデラックVシリーズ.R、ポルシェ963、BMW MハイブリッドV8がそれぞれセッショントップタイムを獲得した。最終セッションで20号車BMW(BMW MチームWERT)のロビン・フラインスが記録した全セッションの総合トップタイム1分38秒971は、昨年マット・キャンベル(5号車ポルシェ963)が記録した1分39秒347のポールポジションを上回っている。
フラインスは次のようにコメントした。「うまくいったと思う。カタールに到着する前にテストプログラムがあり、ほぼそれに従った。すべて順調だ。今はパズルを組み立てて、少し異なるレースウイークエンドに備える必要がある。FP1とFP2では夜間にドライブしない。今日が唯一の機会だったので、それは僕たちにとっては非常に重要だった。今はチーム内で議論話し、レースに向けてパッケージをどのように改善できるかを確認することが重要だ」
LMGT3では21号車フェラーリ296 GT3(ビスタAFコルセ)のサイモン・マンがマークした1分54秒790が、2日間の一番時計に。なおこちらは、TFスポーツ・コルベットのドライバー、トム・ファン・ロンパイが昨年記録したポールタイム1分54秒372に約コンマ4秒及ばなかった。
■ブエミの8号車トヨタが接触
レーシング・スピリット・オブ・ル・マンの10号車アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボは、オープニングセッションの早い段階でデレク・デブールがターン5でクラッシュしたため、土曜日の残りのセッションは走行しなかった。アストンマーティンのスポークスマンは、デブールは無傷であり、クルマは水曜日のオープニング・プラクティス・セッションに間に合う予定であると報告した。
トヨタ・ガズー・レーシングの8号車トヨタGR010ハイブリッドは、セバスチャン・ブエミがドライブしていたセッション1の終盤に88号車フォード・マスタングGT3(プロトン・コンペティション)とターン1で接触する小さなアクシデントに遭遇した。「フルコースイエローからのリスタート時、セブ(ブエミ)は冷えたタイヤとブレーキの影響でロックアップし、フォードの1台に衝突してしまった」とチームテクニカルディレクターのデイビッド・フルーリー。「本当に申し訳なく思っている」と彼は語った。
フェラーリLMGT3ドライバーのアレッシオ・ロベラは体調不良のため22日土曜の走行を取りやめた。このためビスタAFコルセでは、マンとフランソワ・エリオがふたりだけで21号車フェラーリをドライブすることとなった。しかし、ロベラは午後にパドックにいるのが目撃されており、水曜日のオープニング・プラクティス・セッションにはクルマに戻れるだろうと考えられている。
トヨタ・ガズー・レーシングは、カタールではピットレーンの端という従来の位置を占有しなくなった。これはWECレギュレーションで現メーカーチャンピオンがピットのポジションを指定することができるという条項が削除されたためだ。代わりに、プジョーはピット出口にもっとも近いガレージに配置されることとなった。
この新しいシステムについて説明を求められたWECプロモーターLMEMの広報担当者は、Sportscar365に次のように語った。「パドックの条件とホスピタリティ、そして両カテゴリーの車両を保有するチームに合わせてガレージを割り当てるのは、主催者である私たちに責任がある」
■ポルシェが直面した初めてのトラブル
ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツは、マチュー・ルロワに代わり、デビッド・ラドゥースを5号車ポルシェ963のレースエンジニアに任命した。ラドゥースの直近の経験はフォーミュラEだが、2018-19スーパーシーズン中はBMWのLMGTEプログラムの一員としてレースエンジニアを務めていた。
ポルシェLMDhファクトリーディレクターのウルス・クラトルは、金曜日に6号車ポルシェ963が被ったエンジントラブは、カスタマーカーを含むこれまでの963プログラム全体で、トラック上で発生した初めての故障であることを明らかにした。
同氏は記者団に対し、「42万キロかおよそそれくらい走った後にトラックで発生した初めてのエンジン故障だった。もちろん、それは不必要なことだったが、彼らが問題を理解してくれたと確信している。(壊れた)エンジンはヴァイザッハに返送中で、月曜のランチタイムから調査が行われる」と語った。
クラトルは、問題のエンジンは故障が発生した時点でライフサイクルの半ばに達していたと推定されると付け加えた。同氏はさらに、カタールで走行中の2台のクルマは2月6日にヴァイザッハでシェイクダウンテストを受けたことを明らかにした。
一方、6月のル・マン24時間レースで予定される、チームの3台目のシャシーとクルーに関する決定はまだ下されていない。
ポルシェはカタールでのシーズン開幕戦にハイパーカーの専属リザーブドライバーを置かず、LMDhファクトリードライバー6名全員がすでに2台の963に配置されている。「通常はふたりのドライバーでできると感じている」とクラトルは語った。「無理をさせることもあるかもしれないが、ここには6人がこる。これがすべてだ。リザーブドライバーはいない。それはイベントごとに変わる」
■新しいグラベルトラップの影響は?
今年新たに昇格したポルシェ・ハイパーカーのドライバー、ジュリアン・アンドラウアーは、ルサイル・インターナショナル・サーキットの特定のコーナーの外側に砂利の帯が敷かれたことについて「悪いことではない」と述べたが、来週のレースではコース上にさらに多くの砂利が出てくる可能性があると予測した。
彼はSportscar365に対し次のように語った。「これはかなりトリッキーなことだ。最終的に砂利を避けられるかどうかはドライバー次第だと思う。でもクルマの中でも、何周か限界までプッシュしているときにちょっとした瞬間があると、グラベルには行きたくないけど、クラッシュを避けるためにホイールを開けなければならないことがある。それが妥協点なんだ」
ミシュランのタイヤテストは、カタールラウンドの翌日曜日に予定されている。フランスのメーカーは、2026年モデルの開発を継続している。このモデルは当初、今年導入される予定だったが、ポルティマオのテストが雨で中止となったことを受けて延期された。さらなるテストは5月中旬に南仏のポール・リカールで予定されている。
昨年のサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)とバーレーンでのタイヤ開発テストについて、ミシュランの耐久レースプログラムマネージャー、ピエール・アルベスは次のようにコメントしている。「これらのテストにより、複数のパラメータを同時に最適化することができた。これはタイヤエンジニアリングの真の課題だ。今年もテストを継続し、夏までに新モデルを完成させることを目標としている」
ミシュランは、昨シーズンから5レース続けてミディアムタイヤとハードタイヤを持ち込んだ。ソフト・コンパウンド・タイヤが最後に使用されたのは、昨年のル・マン24時間レースだった。
■10年ぶりのF1ドライブ
TFスポーツの2台のシボレー・コルベットZ06 GT3.Rは、今季2025年のLMGT3クラスの厳しいサウンド要件を満たすために新しいマフラーシステムを搭載しており、メーカーの広報担当者によると、当該車両の騒音レベルは約12〜14デシベル低減されるという。
一年間の休養を経て今シーズンWECに復帰するベン・キーティングは、2023年のLMGTEアマ・キャンペーンで一緒にタイトルを獲得したエンジニアであるタイラー・ネフと再会した。彼は今シーズン、キーティングがメンバーに加わった33号車を担当している。
TFドライバーのダニエル・ジュンカデラは最近、バルセロナのカタロニア・サーキットでのプロモーション走行中にアストンマーティンのF1カーをドライブした。スペイン人ドライバーは、これが10年以上ぶりのF1ドライブだったと語った。ジュンカデラは2014年に、当時のフォース・インディア(現在のアストンマーティンF1)のリザーブドライバーを務めていた。
プロローグが終了したルサイル・インターナショナル・サーキットでは3日間、WECのトラックアクティビティが停止される。再開は水曜日。11時30分(日本時間17時30分)から始まる最初のフリープラクティス・セッションでレースウイークが開始される。