『石門』©YGP-FILM望まぬ妊娠に直面した20歳の主人公を通して、現代を生きる多くの女性が直面する“石のように重い扉”を描いた映画『石門』。
日本公開を記念し、本作のように「女性の前に立ちはだかる、打ち破りたくてもなかなか突破して先に進めない壁」を描き、話題を呼んだ3作を紹介する。
『哀れなるものたち』(2023)
『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンの2度目のタッグ作。
天才外科医ゴッドウィン(ウィレム・デフォー)の手により、自身が身ごもっていた胎児の脳を移植されて蘇った若き女性ベラ(エマ・ストーン)は、未知なる世界を知るため、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)とともに大陸横断の旅に出る。
時代の偏見から解き放たれ、真の自由と平等を知ったベラは、やがて驚くべき成長を遂げる。
鬼才ヨルゴス・ランティモスが、大人の身体に生まれたての心を宿したベラの姿を通して女性への抑圧と自由への開放を描き、第80回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。主演のエマ・ストーンは第96回アカデミー賞主演女優賞に輝いた。
『82年生まれ、キム・ジヨン』(2020)
韓国で社会現象を巻き起こしたベストセラー小説の映画化。
結婚を機に仕事を辞め、家事と子育てに追われるジヨン(チョン・ユミ)は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。心配する夫のデヒョン(コン・ユ)にも自分自身にも「ちょっと疲れているだけ」と言い聞かせていたが、ある日から他人が乗り移ったかのような言動をとるようになる…。
無意識の偏見、就職の壁、結婚・出産に伴う退職、再就職の困難さ、義母との関係など、ひとりの女性のありふれた人生を通してその生きづらさを描き、多くの女性の共感を得た話題作。
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2018)
1973年、全世界9,000万人を釘付けにした、女子テニス世界チャンピオン ビリー・ジーン・キングvs元男子チャンピオン ボビー・リッグスの戦いを基にした作品。
女子の優勝賞金が男子の8分の1であることに憤ったビリー・ジーン(エマ・ストーン)は、テニス協会を脱退して仲間とともに「女子テニス協会」を立ち上げ、テニス界の男女格差に声を上げる。
そんな彼女に、再び脚光を浴びようとする元世界王者のボビー(スティーヴ・カレル)が“男性優位主義の代表”として挑戦状を叩きつける。一度は挑戦を断るビリー・ジーンだが、ある理由で戦いに挑むことを決意する…。
70年代の実話を描く痛快作であると同時に、男女の賃金格差や性の多様性など、現在まで続くさまざまな問題にも疑問を投げかける。
『卵と石』『フーリッシュ・バード』そして『石門』へ
今回紹介した3作品をはじめ、英国映画協会(BFI)が10年に一度発表する「史上最高の映画」に『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(75)が選出されるなど、女性と性にフォーカスした作品は改めて注目を集めている。
時代の潮流を先取りするかのように、ホアン・ジー監督と大塚竜治監督は『卵と石』、『フーリッシュ・バード』、『石門』へと “女性と性”を描いてきた。
ホアン・ジー監督の長編デビュー作となる『卵と石』(12)は、中国においてタブー視され表に出てくることのなかった性虐待の問題を描き、世界に衝撃を与えた作品。
ホアン・ジー監督と大塚竜治監督の初の共同監督作『フーリッシュ・バード』(17)では、思春期の少女の「初体験」に焦点を当て、親と離れて暮らす子ども(留守児童)が抱える孤独や、携帯電話やSNSの利用拡大が少女たちの生活にもたらす負の側面を描いた。
そして最新作『石門』では、望まぬ妊娠に直面した20歳のリン(ヤオ・ホングイ)を主人公に、現代を生きる多くの女性が直面する普遍的な問題を描き出す。
合わせて到着した新場面写真は、客室乗務員の学校に通うリンが、卵子提供ドナーの仲介人から検査結果のメッセージを受け取る場面。
コロナ禍で誰もいない礼拝堂の前で別れた恋人と再会する場面。「赤んぼうがいたら君が不利になる」と他人事のように中絶を勧めたかつての恋人と久しぶりに対面したリンは、このあと何を話すのか。
重々しい「石」の「門」を開く一条の光を求める本作のメッセージを、劇場で受けとめてみてほしい。
『石門』は2月28日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国にて順次公開。
(シネマカフェ編集部)