2025年シーズンのMotoGPがタイで開幕を迎える。 2月28日から3月2日にタイで開幕戦を迎える2025年シーズンのMotoGP世界選手権は、今年も5メーカー22台が参戦。昨年中止となったアルゼンチンGPがカレンダーに復帰し、全22戦で争われる。
MotoGP史上最多開催となる2025年シーズン。ここでは主に最高峰のMotoGPクラスについて、どんなカテゴリーなのかや今シーズンの変更点、レースウイークのスケジュール、2025年の開催カレンダーなどをの見どころを紹介する。2025年シーズン開幕前に確認しよう。
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■MotoGPとは
ロードレース世界選手権MotoGPは、レース専用に開発されたプロトタイプマシンを用いて、サーキットで行うモーターサイクルロードレースだ。
このロードレース世界選手権の歴史は1949年からと古く、2002年にそれまでの同選手権における最高峰クラスが『MotoGPクラス』へと改編されたのを機に、シリーズ全体に対しても“MotoGP”と呼称されている。
スーパーバイク世界選手権(WorldSBK)が市販自動二輪車レースの最高峰であるのに対し、MotoGPクラスはプロトタイプマシンの最高峰であり、4輪レースで例えるとGTレースとフォーミュラレースの違いのようなものだ。
レギュレーションでは、最大排気量1000cc、4気筒以下、最大ボア径81mmの4ストロークエンジンを搭載するプロトタイプマシンと規定されている。現在は、1000cc4気筒エンジンが主流であり、ドゥカティ、アプリリア、KTM(GASGAS)、ホンダはV型4気筒エンジン、ヤマハのみ直列4気筒エンジンを使用している。
その他にも最低車体重量は157kg(排気量800cc以下は150kg)、共通ECUの使用、年間エンジン使用数が定められている。エンジン使用数は、基準となる上限が7基であり、年間21〜22戦の場合は第19戦以降に使用できる1基が追加され、計8基となる。
最大燃料タンク容量は22リッターで、後述するスプリントレースの場合は12リッターとなっている。チームはこの容量の専用燃料タンクを用意するか、通常のタンクの容量を減らすか、どちらかの手段を選択可能だ。タイヤはミシュランのワンメイクで、タイヤ径は前後とも17インチのみとなっている。
また、レーススタート時に一度だけ作動する装置(いわゆるホールショットデバイス)は許可されているが、走行中にフロントの車高を調整する装置の使用が禁止されている。ただし、ライダーが手動で操作するものに限り、サスペンションのプリロード調整装置の使用は許可されており、これを用いることによりコーナーの出口などでリヤの車高を意図的に下げることができる。
■2025年MotoGPクラス参戦チーム・ライダー
2025年のMotoGPクラスは、ライダーだけでなくチームの変更も多い。
チームに関する注目の変更点は、ヤマハとホンダだろう。ヤマハ陣営は、3年ぶりの4台体制となる。プリマ・プラマック・レーシングがドゥカティからヤマハへと乗り換え、『プリマ・プラマック・ヤマハMotoGP』として参戦。ワークスチームであるモンスターエナジー・ヤマハMotoGPチームとともにファクトリーマシンを走らせる。
ホンダのワークスチームであるレプソル・ホンダ・チームは、30年間続いたレプソルとのパートナーシップが終了。今シーズンから新たにカストロールをメインスポンサーに迎え、『ホンダHRCカストロール』として参戦する。
さらに、KTMにおいては、2024年までレッドブルGASGASテック3として参戦していたサテライトチームのテック3が、『レッドブルKTMテック3』へ名称を変更。KTMは、レッドブルKTMファクトリー・レーシングとともにダブルファクトリーチームの体制を敷く。
参戦ライダーで注目なのは、やはり2024年Moto2王者を獲得した小椋藍だろう。アプリリアのサテライトチーム『トラックハウスMotoGPチーム』から最高峰クラスに昇格し、最新型のアプリリアRS-GPを駆る。2025年は、小椋含め3名のルーキーがMotoGPへデビューし、イデミツ・ホンダLCRからソムキャット・チャントラが、グレシーニ・レーシングMotoGPからフェルミン・アルデグエルが参戦する。
ドゥカティを使用するグレシーニ・レーシングMotoGPへ移籍し、その初年度に復活優勝を果たしたマルク・マルケスも注目だ。2025年からファクトリーチームのドゥカティ・レノボ・チームに昇格し、フランセスコ・バニャイアとの元王者コンビでタイトル争いに挑む。
また、2月にマレーシアとタイで行われた公式テストでは、ヤマハやホンダもトップ10に入るタイムを残しており、日本勢の活躍にも期待がかかる。
近年のチャンピオンは、2013年と2014年がマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)、2015年がホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ・MotoGP)、2016年から2019年がマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)、2020年がジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)、2021年がファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)、2022年と2023年がフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)、そして、2024年はホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング/ドゥカティ)が獲得しており、2025年は5名のワールドチャンピオンがグリッドに並ぶ。
●2025年MotoGPクラス エントリーリスト
No.RiderTeamMotorcycle1ホルヘ・マルティンアプリリア・レーシングアプリリア5ヨハン・ザルコカストロール・ホンダLCRホンダ*10ルカ・マリーニホンダHRCカストロールホンダ12マーベリック・ビニャーレスレッドブルKTMテック3KTM*20ファビオ・クアルタラロモンスターエナジー・ヤマハMotoGPチームヤマハ21フランコ・モルビデリプルタミナ・エンデューロVR46レーシング・チームドゥカティ*23エネア・バスティアニーニレッドブルKTMテック3KTM*25ラウル・フェルナンデストラックハウスMotoGPチームアプリリア*33ブラッド・ビンダーレッドブルKTMファクトリー・レーシングKTM35ソムキャット・チャントライデミツ・ホンダLCRホンダ*36ジョアン・ミルホンダHRCカストロールホンダ37ペドロ・アコスタレッドブルKTMファクトリー・レーシングKTM42アレックス・リンスモンスターエナジー・ヤマハMotoGPチームヤマハ43ジャック・ミラープリマ・プラマック・ヤマハMotoGPヤマハ*49ファビオ・ディ・ジャンアントニオプルタミナ・エンデューロVR46レーシング・チームドゥカティ*54フェルミン・アルデグエルグレシーニ・レーシングMotoGPドゥカティ*63フランセスコ・バニャイアドゥカティ・レノボ・チームドゥカティ72マルコ・ベゼッチアプリリア・レーシングアプリリア73アレックス・マルケスグレシーニ・レーシングMotoGPドゥカティ*79小椋藍トラックハウスMotoGPチームアプリリア*88ミゲール・オリベイラプリマ・プラマック・ヤマハMotoGPヤマハ*93マルク・マルケスドゥカティ・レノボ・チームドゥカティ
*はインディペンデントチームライダー
■コンセッション(優遇)システム
MotoGPは、マシンを製造するコンストラクターに対し、コンセッション(優遇)システムを導入している。MotoGPでは、開発コストの高騰を防ぐためにマシン開発、特にエンジンには厳しい制限が課せられており、元々は新規参入したメーカーがより開発できるための制度だ。
2020年以降、ホンダとヤマハが競争力に欠け、苦戦している状況に加え、コロナ禍の影響が日本とヨーロッパで異なり、開発に差が生まれていたといった背景もあり、2024年から期間内に獲得したポイントに応じて適用される現在のコンセッションシステムへ改訂された。
このコンセッションシステムでは、『シーズン最初のイベントから最後のイベントまで』の第一期間と『サマーテスト禁止後の最初のイベントから、次シーズンのサマーテスト禁止前のイベントまで』の第二期間で最大ポイントのパーセンテージに応じて算定され、参戦メーカーをA、B、C、Dのランクに区別される。
このランクによって、許可されるテスト日数とテストに参加するライダー、ワイルドカードの出場回数、使用可能なエンジン基数、エンジン仕様変更と凍結、エアロボディのアップデート、テスト用に供給されるタイヤ本数が決定される。
2024年シーズン終了時点の第一期間の区分けでは、Aにドゥカティ、Bは無し、CにKTMとアプリリア、そして、Dにホンダとヤマハが分けられており、少なくとも第12戦チェコGPまで適用される。第二期間でランクに変更が生じた場合、タイヤなどの優遇措置は即座に施行されることになる。
さらに2027年から開始される最大排気量1000ccから850ccへ変わるなどのマシン規則変更に伴い、2026年のエンジン開発が凍結。シーズン中のエンジン開発も凍結されているため、2025年の開幕戦で使用したエンジンを2026年のシーズン終了まで使い続けることになる。
しかし、Dランクではこれらのエンジン開発凍結の制限がないため、2025年において、ホンダとヤマハは短くともコンセッションが見直される直前の第12戦チェコGPまで、シーズン中もエンジン開発を続けることが可能だ。
苦境の続く日本メーカーがこのコンセッションにより再び優勝争いに戻ることができるのかも今シーズンの見どころのひとつだ。
■レーススケジュール
MotoGPクラスでは、2023年から全戦で“スプリントレース”が開催されている。そのため、各グランプリごとに土曜日にスプリント、日曜日に決勝レースと2レース制で行われる。
金曜日は、午前中に45分間の『フリープラクティス1』、午後に1時間の『プラクティス』が行われる。プラクティス中に記録したベストラップタイムによって、トップ10名が上位グリッドを決める予選Q2へダイレクト進出し、11番手以下が予選Q1へと振り分けられる。
土曜日は、30分間の『フリープラクティス2』ののち、スプリントレースと決勝レースのスターティンググリッドを決める『予選』が行われる。前段で軽く触れた様に、予選はQ1とQ2に分かれており、15分間ずつ行われる。Q1では、上位2名がQ2へ進出し、13番以下のグリッドが決まる。続くQ2では、上位12グリッドが決定。そして、午後には、決勝の50%の走行距離で争うスプリントレースが開催される。
日曜日は、朝に10分間のウォームアップ走行が行われ、その後、ファンと交流するサーキットを1周する『ファンパレード』と『ヒーローウォーク』を開催。『決勝レース』は、ナイトレース以外は14時もしくは15時から開始される。
■ポイントシステム
決勝レースでは、1位に25ポイントが与えられ、2位に20ポイント、3位16ポイント、4位13ポイント、5位11ポイント、以下順位が下がるごとに1ポイントずつ減り15位までがポイント獲得となる。
スプリントレースは、1位に12ポイント、2位に9ポイント、3位7ポイント、以下順位が下がるごとに1ポイントずつ減り9位までポイントが付与される。ポイント制度は、1週末で最大37ポイント(12点+25点)を獲得することができる。
●スプリントレース/ポイント制度
1位:12ポイント
2位:9ポイント
3位:7ポイント
4位:6ポイント
5位:5ポイント
6位:4ポイント
7位:3ポイント
8位:2ポイント
9位:1ポイント
●決勝レース/ポイント制度
1位:25ポイント
2位:20ポイント
3位:16ポイント
4位:13ポイント
5位:11ポイント
6位:10ポイント
7位:9ポイント
8位:8ポイント
9位:7ポイント
10位:6ポイント
11位:5ポイント
12位:4ポイント
13位:3ポイント
14位:2ポイント
15位:1ポイント
■2025年レース日程
前述の通り、2025年のMotoGPは、史上最多となる全22戦が開催される予定だ。2024年も当初22戦を予定されていたものの、4つのグランプリが中止。うち2戦は代替地でグランプリが行われ、20戦の開催となった。
2007年から2022年まで2023年を除く17シーズンでカタールが開幕の舞台となっていたが、2025年シーズンは、タイ・ブリーラムのチャン・インターナショナル・サーキットで2月28日から3月2日に行われる第1戦タイGPで開幕する。東南アジアでは25年ぶりに、タイでのシーズン開幕は初となる。そして、11月14日から16日にスペインのサーキット・リカルド・トルモで最終戦バレンシアGPを迎える。モビリティリゾートもてぎで行われる日本GPは第17戦として行われる予定であり、9月26日から28日に開催される。
昨年中止となったアルゼンチンGPが第2戦として、5年ぶりにチェコGPが第12戦としてカレンダーに復帰。さらに2023年にオープンしたバラトンパーク・サーキットを舞台に第14戦ハンガリーGPが開催される。ハンガリーでは、F1ではお馴染みのハンガロリンクで1990年と1992年に開催されており、実に33年ぶりにロードレース世界選手権のカレンダーに名を連ねることとなった。
●2025年MotoGP暫定カレンダー
ラウンドグランプリサーキット決勝日第1戦タイGPチャン・インターナショナル・サーキット3月2日第2戦アルゼンチンGPアウトドローモ・テルマス・デ・リオ・オンド3月16日第3戦アメリカズGPサーキット・オブ・ジ・アメリカズ3月30日第4戦カタールGPロサイル・インターナショナル・サーキット4月13日第5戦スペインGPヘレス・サーキット-アンヘル・ニエト4月27日第6戦フランスGPル・マン-ブガッティ・サーキット5月11日第7戦イギリスGPシルバーストン・サーキット5月25日第8戦アラゴンGPモーターランド・アラゴン6月8日第9戦イタリアGPムジェロ・サーキット6月22日第10戦オランダGPTT・サーキット・アッセン6月29日第11戦ドイツGPザクセンリンク7月13日第12戦チェコGPブルノ・サーキット7月20日第13戦オーストリアGPレッドブル・リンク8月17日第14戦ハンガリーGPバラトンパーク・サーキット8月24日第15戦カタルーニャGPカタロニア・サーキット9月7日第16戦サンマリノGPミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリ9月14日第17戦日本GPモビリティリゾートもてぎ9月28日第18戦インドネシアGPマンダリカ・インターナショナル・ストリート・サーキット10月5日第19戦オーストラリアGPフィリップ・アイランド・サーキット10月19日第20戦マレーシアGPセパン・インターナショナル・サーキット10月26日第21戦ポルトガルGPアルガルベ・インターナショナル・サーキット11月9日第22戦バレンシアGPサーキット・リカルド・トルモ11月16日
■日本人ライダーが参戦するMoto2・Moto3も注目
ロードレース世界選手権(MotoGP)ではMotoGPクラス以外にも、Moto2クラスとMoto3クラスも全戦で併催される。
最軽量級となるMoto3クラスは、若手ライダーの登竜門的な位置付けにある。したがって上限年齢が定められており、そのシーズンの1月1日時点で28歳以下でなくてはならない。Moto3クラスで使われているマシンは、エンジンが4ストローク250cc単気筒。2024年はホンダとKTMがマシンを供給する。
Moto3クラスに参戦する日本人ライダーは山中琉聖、古里太陽の2名だ。同クラスで7年目を迎える山中は、引き続きMT Helmets - MSIから参戦。2月の公式テストでは、総合4番手タイムをマークし、好調さを見せた。
2024年に3度の表彰台を獲得した古里は、Honda Team Asiaから継続参戦。開幕戦タイGPは、昨年に2位表彰台を獲得した舞台でもある。
なお、昨シーズンに同クラスを戦い、2025年の暫定エントリーリストでは参戦するとみられていた鈴木竜生は、既報の通り、自身のSNSおよびYoutubeチャンネルでレース活動にひと区切りつけることを発表している。
Moto2クラスは、トライアンフ製直列3気筒765ccエンジンのワンメイク。フレームはコンストラクターのカレックス、ボスコスクーロ、フォワードによるオリジナルのものを使用する。
この中量級クラスに参戦する日本人ライダーは佐々木歩夢と國井勇輝の2名だ。前述した通り、昨年は小椋がMoto2年間チャンピオンを獲得し、MotoGPへステップアップを果たしている。
昨シーズンにYamaha VR46 Master Camp TeamからMoto2へ昇格し、参戦2年目を迎える佐々木は、ヤマハVR46マスターキャンププロジェクトが2024年限りで終了したこともあり、RW Racing GPに移籍。新チームで2025年に更なる成長を見せるか期待がかかる。
一方で、ルーキーイヤーとなる國井は、全日本ロードレース選手権 ST1000クラスの2024年チャンピオンだ。MotoGPクラスへ昇格したチャントラのシートを引き継ぎ、Idemitsu Honda Team AsiaからMoto2に参戦する。國井は、2021年まで2年間に同チームからMoto3へ参戦しており、4年ぶりの世界選手権復帰となる。Moto2クラスのマシンにどう適応していくか注目だ。
なお、Moto2およびMoto3のタイヤもワンメイクで、2024年からピレリがタイヤサプライヤーを務めている。