「ドローン迎撃の音を聞き、恐怖を感じた」ウクライナ・オデーサ滞在の日本人指揮者、来日公演直前のリハーサルにかける思い

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2025年02月26日 16:17  TBS NEWS DIG

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ロシアによるウクライナ侵攻から2月24日で3年が経った。ドローンなどによる攻撃が続くなか、2月にウクライナ入りした日本人がいた。南部オデーサにある国立歌劇場で指揮者を務める吉田裕史さんだ。3月に予定されているオデーサ歌劇場オーケストラの来日公演のために2週間滞在したオデーサとキーウの現状、そして来日公演にかける思いを聞いた。

【画像でみる】オデーサとキーウの現状

ウクライナ南部にある「国立オデーサ歌劇場」で首席客演指揮者を務める吉田裕史さん。歌劇場のオーケストラの来日公演を開催するため、2024年に日本でクラウドファンディングを実施し、フルオーケストラ編成で来日公演ができることになった。

公演は3月2日から横浜、神戸、北海道の北見で順次予定されている。

吉田さんがウクライナのオデーサを訪れるのは2023年9月、2024年6月に続き、侵攻後3回目となる。去年、オデーサに入って指揮を振った際には、ウクライナでオーケストラのメンバーとともに音楽を作り上げることへの思いや、現地の停電などの被害状況について語ってくれた。

今回は、2月中旬、オデーサ歌劇場の来日公演の準備のために約2週間、南部オデーサと首都・キーウに滞在した。オデーサに入った日から攻撃があり、その翌日の19日にはウクライナ軍がロシア軍のドローンを迎撃する音を聞いたという。

指揮者 吉田裕史さん
「19日のドローン攻撃は今までで一番激しいもので、食事に行って帰ってくるときに、ロシアからのドローンがたくさん飛んできて、それを迎撃するための音がものすごい音だったんですね。ものすごく長く続いたし、激しかったし、それから音も大きかったし。本当に19日の迎撃は非常に恐怖でした」

オデーサ 電力インフラ施設への攻撃で大規模停電 夜は氷点下

ロイター通信によると、オデーサでは、18日・19日に2夜連続でロシア軍のドローンによる激しい攻撃があった。18日の夜の攻撃では、子どもを含む4人がけがをし、小児病院や集合住宅が破壊されたほか、電力インフラ施設にも被害があったため、大規模な停電が起こった。

こうした電力インフラ施設への攻撃による被害について、ウクライナのゼレンスキー大統領は、19日、自身のSNSに「オデッサにいる住民の少なくとも16万人が現在、暖房も電気も使えない状態にある」と投稿している。

「夜の気温は−6℃だった」としていて、オデーサ市では、厳しい寒さの中で過ごす市民のため当局により暖を取るためのテントが設営されるなど、対応に追われた。

19日にドローンを迎撃する大きな音を聞いたという吉田さんは、攻撃について「急に激しくなってきたんです。私は甘く考えてて、停戦交渉とかって世界は騒いでるから、そんなときは攻撃しないんじゃないかと思ったんです」と話した。

アメリカのトランプ大統領が、ロシアのプーチン大統領とウクライナの停戦交渉に意欲を示し、米ロの高官協議が18日に行われたばかりだった。こうしたこともあり、吉田さんは「世界に非難されるようなことはしないだろう」と考えていたため、今回のドローン攻撃は想定とはかけ離れたものだったと率直な気持ちを話してくれた。

また、オデーサでリハーサルが始まる前には、3日ほどキーウに滞在し、歴史のあるホテルに泊まったが、「全く暖房が効いていなくてお湯もぬるくて、ほとんど水しか出てこなかった」と語った。

ウクライナの中で北に位置するキーウは、真冬には日中でも氷点下の気温が続くこともある。吉田さんは、侵攻開始後、冬にウクライナを訪れたのは今回が初めてだった。

指揮者 吉田裕史さん
「凍てつくような寒さというか。本当に外に出ただけでも、ぴりっと凍る感じの非常に辛い寒さでした。暖を取れない冬の夜というのが、もうこんなにも非常に陰惨なんだ、大変なんだ、辛いんだってことを生まれて初めて経験しました」

オデーサ歌劇場 節電のため電気・暖房なし 自然光を頼りに舞台上でリハーサル 

吉田さんはキーウだけでなく、オデーサの歌劇場も同様に厳しい状況にあると話した。

指揮者 吉田裕史さん
「少なくとも私が劇場の中で歩いた場所では、暖房はきいてないですね。今も劇場内は寒いですよ。(外と)ほぼ変わらないですね」

歌劇場の中からコートを着た状態でインタビューを受けてくれた吉田さん。暖房だけでなく照明も使わず、劇場のステージの裏側にある窓から入ってくる外の光を使って、リハーサルを行っていると言う。

指揮者 吉田裕史さん
「今はとにかく節電のためにお客様が入ったときしか電気は使わないんです。つまりコンサートの本番、オペラの本番、バレエの本番のとき以外は、劇場全体に明かりを入れるってことはしてないんです、できないんですね。なのでリハーサルはとにかく日が出ている昼間にやるというスケジュールになっています」

「音楽が必要とされている場所だから」オデーサで音楽を続ける理由

ドローンなどによる攻撃が続き、照明や暖房をつけられない状況にあっても、オーケストラは休むことなく、練習や公演を続けている。来日公演のために「普段の3倍、4倍の時間を使って、リハーサルが進められている」と話す吉田さん。

オーケストラのメンバーの変化について尋ねると、徴兵されたり、やむを得ない事情で国外に退避したりと、様々な理由でオデーサで音楽が出来なくなった人が多くいると答えてくれた。ただ、一度引退した年配の方や音楽学校を出て間もない若者が入ることで、劇場の音楽は続いているのだという。

爆撃のアラートによってリハーサルを中断せざるを得ないこともあるが、オーケストラのメンバーは「この話題になると、みんな笑顔になって、本当に毎日真剣に集中して、日本でいい演奏をしたいっていう思いで、いつになくいい練習ができている」と語る。

オデーサでオーケストラなどのメンバーとともに音楽を続ける理由について、吉田さんは「音楽が必要とされている場所だから」と戦争が続く地での音楽の重要性を強調する。音楽によって、「人々は勇気づけられて、希望を感じて、心が癒されて、つかの間の幸せを感じるわけだから」と話し、音楽を生み出すことが音楽家としてのミッションだと熱く語った。

指揮者 吉田裕史さん
「とにかく私は指揮者として、自分と一緒に演奏するこの音楽家たち、今この戦争という状況にありながら、可能な限り市民のために演奏し続けているその同僚の音楽家たちと、私の解釈、私の理想とする音楽にとにかくベストを尽くして演奏する。それを日本の人たちに届けるということです」

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