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日本ミュージカル界をけん引する山崎育三郎、明日海りお、古川雄大が、新作オリジナルミュージカル「昭和元禄落語心中」で初共演を果たす。本作は、戦前から平成に至る落語界を舞台に、人々の多彩な生きざまを描いた大ヒット漫画を原作にしたミュージカルで、芸に打ち込む者たちの業や絡み合う愛憎、因縁といった骨太な人間ドラマを展開する。原作は、2016年、17年にアニメ化、2018年にドラマ化され、山崎はドラマ版にも出演。本作と同じく助六を演じた山崎、そしてみよ吉役の明日海、八雲役の古川に公演への思いを聞いた。
−山崎さんが「この原作をミュージカルに」という提案をされたそうですが、改めて本作の製作に至った経緯や思いを聞かせてください。
山崎 7年前のドラマに出演させていただいたときに、この作品はきっとミュージカルにしてもとてもすてきな作品になるだろうという直感がありました。そうした思いをずっと抱えていたのですが、お二人と一緒に新しい作品を作るという中で、自分がずっと温めていたこの作品を提案させていただいたところからスタートしました。ふと考えたときに、お二人ともすごくハマり役だと感じたことも大きかったです。
−明日海さん、古川さんは最初にお話を聞いたときはどのように感じましたか。
明日海 以前に雑誌の取材で(山崎と)対談させていただいたときに、「いつかみんなで一緒にやりましょう」とお声がけいただいてすごくうれしかったのですが、これだけミュージカル界で主演を張られているお二人が共演されるとき、たくさんいるすてきな女優さんたちを差し置いて私で大丈夫かなという気持ちがありました。それに、和物をやるというのもすごく意外で。普段、出演しているミュージカルとはまた違うので、習得しなくてはいけないものもたくさんありますし、その時代のことも学ばないといけないと思ったので、これは大変になるぞと思いました。ただ、もちろん育さま(山崎)が夢にしていらしたことがかなう瞬間にご一緒させていただけるのは本当に幸せです。
古川 僕はこれまで何度も(山崎と)ご一緒させていただく中で、(山崎の)そうした想い(おもい)を聞いていたので、やっと実現するんだという思いと、このお二人とお芝居できちんと向き合うということへの期待や楽しみがありました。それに、日本初となる作品を作れるのはすごくありがたいことです。不安なことももちろんありましたが、今は全てがプラスの方向にいっている気がします。面白い作品ができると思います。
−それぞれの演じる役柄をどのように捉えていますか。
山崎 助六は本来の僕に近いところがあると思います。前向きでポジティブ。助六は「自分は観客のために落語をやっているんだ。それが全て。そして、時代とともに落語は変化しなければいけない」という信念を持っていますが、僕もエンターテインメントは時代とともに変わっていかなければいけないと思っていますし、その助六の言葉に救われました。ただ、「臭い」と言われるシーンがあるんですが、それは違います(笑)。今日は髪がボサボサですが、普段はすごくきれいです(笑)。
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明日海 腹が据わったところもあり、女のダメな部分や女のもろい部分が味になっている女性だと思いますが、みよ吉にもいちずですごくかわいらしい面もあります。今回のミュージカルでは、(脚本・演出の)小池修一郎先生が、辰巳芸者風情を強く描かれていますので、そうしたところがお客さまがどのような印象を持たれるのか楽しみです。二人(助六と八雲)との関係性がどう変わっていくのか、私自身も試行錯誤しながら挑戦させていただいています。
古川 八雲はそれまで続けていた踊りがけがでできなくなり、縁があって七代目八雲に弟子入りすることになって落語と出合います。同時に天才・助六と出会い、葛藤しながらも落語の魅力に魅了されていくという人物です。クールで真面目でプライドが高く、すごくストイックで黙々と稽古をします。助六に、独特の色気を持っていることに気付いてもらって後押しされ、さらにみよ吉と恋愛することで、自分なりの落語を見つけていきます。さまざまな人に動かされて、影響を受けて、落語を背負ってしまうという役柄なので、皆さんのお力をお借りして作っていけたらと思っています。今、この役と向き合っていると改めてすごく難しい役だなと感じています。江戸っ子言葉を話すということもあり、技術的な難しさもあるので、まずはそれを体に染み込ませて、その後はフラットに舞台に立てたらと思っています。
−先ほど、山崎さんからお二人はハマリ役だというお言葉がありましたが、ご自身ではいかがですか。
明日海 最初に台本を読んだときは、なかなか理解の難しい、自分とはかけ離れた女性だと感じ、演じるためにはすごくエネルギーを使うのではないかと思いましたが、原作を読めば読むほど、みよ吉の心の奥底にあるいじらしいところや男前なところなどが感じられて、今はすごい人だなと思っています。ただ、あまり自分の役だけを思いすぎず、お二人からその時々でいただいたもので役を構築して、新鮮にお芝居ができるようになれたら一番良いのだと思います。
古川 僕自身、性格が暗いので、ハマっているんですかね(笑)? クールで影のある役を演じることが多いかもしれないですね。
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−この三人での共演は初めてになります。お稽古をしていて、お互いにこれまで知らなかった新しい一面を知ったということはありましたか。
明日海 たくさんあります。育さまは怠けるときはないんですか?
山崎 え? どういうこと(笑)?
明日海 休憩時間であっても、ずっとお稽古をしているじゃないですか。そういう姿勢がすばらしいと思います。それに誰よりもスタートダッシュがすごい。それものめり込むのではなく、良い雰囲気でいつも周りを見て進めてくださっています。
山崎 何もしてないですよ!
明日海 やってます(笑)! 私は焦ってばかりですが、育さまはやってます!
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山崎 やってないです、やってないです(笑)。
古川 なんですか、そのやっていないキャラ作り(笑)。
山崎 僕の理想は、ファッときてファッとやる。それがかっこいいんですよ。木梨憲武さんや所ジョージさんのような。なので、ストイックと言われるのは恥ずかしいんです。「あの人、いつも楽しそうに、ふわふわってやっているね」と言われるのが理想です(笑)。
古川 でも、僕はそんなイメージですよ。
山崎 僕は入り込めないとできないんですよ。余計なことを考えてしまうから。舞台の上では楽しくいられるところまで努力しなくてはいけないなと思います。
明日海 古川さんは全てにおいてスピードが早いですよね。
山崎 うん、覚えるのが早い。
古川 何もしてないですけどね。
全員 あははは。
明日海 お二人が様子見をせずに、最初からガーッと前のめりで進んでいかれるので、私はそこについていくのに必死です。
山崎 いやいや、なんでこんなにも謙虚に話すんだろうというくらい(明日海も)すてきです。華やかさがあって。それに、二人はギャップがあるのがうらやましいですね。普段はすごく繊細で柔らかくて、謙虚ですが、舞台に出たらその存在感がバンと出る。そのギャップは二人とも同じで、稽古をしていて、どこか似ているところがあるとは感じました。黙々と自分の中で自分と戦いながら稽古をして、いざ舞台に上がったときには覚悟を持って立っている。その姿がかっこいいですね。
−古川さんから見たお二人はいかがですか。
古川 いっくん(山崎)は今回、企画から参加しているということもあり、より深くこの作品や役についてお話をされているイメージです。特に今回は背負っているものが大きい。これまでの共演では、雑談をすることも多かったですが、今回は役についてたくさん会話をしているように思います。
明日海さんは、出番の関係で稽古がない日もあったのですが、そうした日も稽古場に来て、自分の作業をされているストイックな方です。それに、こんなにも温厚な人は見たことがないというくらい温厚です。どんなことも全部受け入れてくださるので、すごく安心します。
山崎 そうだよね、すごく周りを見ていて、全てを受け止めてくれる方ですよね。
−最後に読者に向けたメッセージをお願いします。
山崎 1998年、僕は小椋佳さんの作品でミュージカルデビューしました。その作品は、「日本のオリジナルミュージカルを作りたい」というテーマを持っていて、それが僕の原点になっているのだと思います。「いつかオリジナルミュージカルを作りたい。日本人の僕たちが作る作品を海外に持っていきたい」。そんな夢を持っていましたが、今回、その夢の第一歩を踏み出したように思います。ミュージカル界に新しい風が吹く作品になっています。ぜひ劇場で体感していただけますとうれしいです。
明日海 原作ファンの方にも落語ファンの方にもミュージカルを初めて見に来られるという方にも楽しんでいただける作品になっていると思います。お二人とご一緒させていただける機会にも感謝して、繊細な役どころを丁寧に描き出していきたいと思います。
古川 この作品はにじみ出る面白さがあると思います。原作のパワーがすごいというのはもちろんありますが、小池修一郎先生の脚本・演出、小澤時史さんの音楽、そしてお二人が歌うというさまざまな魅力が詰まっている作品です。日本ならではの作品になると思いますので、ここから世界に向けての初演をぜひ観劇していただきたいと思います。この機会を逃さないでください。
(取材・文・写真:嶋田真己)
ミュージカル「昭和元禄落語心中」は、2月28日〜3月22日に都内・東急シアターオーブ、3月29日〜4月7日に大阪・フェスティバルホール、4月14日〜23日に福岡市民ホール・大ホールで上演。
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