KREVA、ソロデビュー20周年PJのアルバムに込めた“尋常じゃない”熱量 AI駆使し楽曲の可能性広げる挑戦も

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2025年02月28日 07:00  ORICON NEWS

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KREVA
 HIPHOPアーティストのKREVAのソロデビュー20周年プロジェクトの中で“最重要”の作品となる、約3年半ぶりの最新アルバム『Project K』が19日にリリースされた。トータル約30分の全11曲は「ラップで攻めた」という自信作。ORICON NEWSではKREVAにインタビューを実施し、楽曲の制作過程や歌詞に込めた意味、20年間の変化について聞いた。

【画像】KREVAの企画展示『KREVA20周年記念 原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」』

――ソロデビュー20周年に放たれた『Project K』は、KREVAさんのラップの魅力、言葉のパワー、そして意志までもが圧倒的な熱量で伝わる作品となりました。
KREVA:アルバムを作りたい気持ちはかなり早い段階からあったんですが、独立したり、制作に入るまでの時間が長くあって。その中でレコード会社のスタッフに「全編ラップのアルバムを聞いてみたい」と言われたことが少なからず頭の片隅にあったのは確かで、早い段階からラップで攻めるアルバムにという気持ちがありました。

――その気持ちが全11曲、約30分の作品に凝縮されたわけですね。
KREVA:これまでの人生で一番と言っていいほど、毎日頑張って曲を作って、よし出来たと曲を並べたら30分で。その時に自分でビックリしたと同時に、嬉しかったと言うか。これまでライブをたくさんしてきて、セットリストを組む時に「ここで短いラップの曲が欲しいな」っていう気持ちが何度もあって。それが意図せず形になってうれしかったんです。プラス、アルバム制作に入る前に、小林賢太郎さんと舞台『KREVA CLASS -新しいラップの教室-』をやって。その時に、自分はラップに振り切った曲の方がパフォーマンスの精度が高いなと感じたんです。

 ラップは、その時の体調や気持ちに関係なく淀みなく出来る。表現が難しいですが、メロディアスな音程をコントロールするより、言葉をリズムにハメていく方が圧倒的に得意だなって。小林健太郎さんからも、舞台でラップをやる部分は「水を得た魚のようだ」と言われたり(笑)。ソロ20周年を迎えるにあたって、まさに"Back to Basics"ということをずっと言っていて。アルバムは「Project K Interlude」を挟んで後半からメロディアスな曲が増えていくんですけど、やっぱり俺はラップだなっていう感覚はありますね。

――特に新作でのKREVAさんのラップは、尋常じゃない圧倒的なパワーを感じました。
KREVA:あははは。「尋常じゃない」って、いいですね(笑)。そのエネルギーは……ずっと何か、自分の中の評価と世の中の評価が見合ってない感じとか、自分の音、作り出そうとするものが、まだ理想に届いてないとか。ずっと未到達な感覚があって、それがモチベーションになってる気はします。足りない部分を「いいよ俺は」ではなく、「何にクソ!」じゃないですけど、向上していこうっていう気持ちは常に持っています。

――『Project K』では、その気持ちがダイレクトな言葉として放たれていますね。
KREVA:まさに1曲目の「No Limit」は、俺が俺に言っているというか。自分に対して「そんなもんじゃないだろ、お前のクリエイティビティとは!」っていう感じをラップしてるんですよ、いま振り返ると。曲を書いてる時は、もちろんみなさんに向けて作ってるんだけど、自分に対して言ってるんだなって、最近になって思います。ただ、言葉を書いている時に想定しているところがあるとしたら、それはやっぱり「みんなに言ってる」っていうところですかね。

 ちょっと話が違うかもしれないですが、「次会う時」は母が亡くなる前に書いた歌なんです。でも、それでも作っている時は、ライブ会場に来てくれるみんなにも届くようにっていう想いがありました。ライブ後のミート・アンド・グリートでファンのみなさんと話した時に、みんなも辛いことだとかいろんなことを乗り越えて来てくれてるんだよなって思ったことがあったんです。俺の歌って、基本的に上昇志向って言うか、アジテートするような歌が多いけど、今だったら、次が何年後になるかわからないけど、また来てくれたらなって言えるなと思って。それはやっぱり、ライブをしていて「この人には絶対に届いたな」って自信を持って言える光景を何度も見て来たから。俺よりも大声で歌ってるヤツとかね(笑)。そういう「届いてる」っていうものを自分の目で見て、感じてきたから、それは強いと思います。

 音を作る作業って楽しいから、これからもずっとやるとは思うんですけど、ただもし「みんなに聴かれなくてもやるのか?」って言われると、ちょっとわからない。みんなに届けるためにやってるのかもなって、最近、そう思うんです。

――そこをラップの根幹としながら、最新テクノロジーを積極的に取り入れたトラックメイクもKREVAさんならではですね。
KREVA:「こうだったらいいのに」「これが出来たら」という思いが新しい技術や機材で実現されて可能性が広がるのであれば、どんどん試していこうという気持ちです。そういう意味では、今回、音楽生成AIツールを使ったんです。「口から今、心。」の途中に出てくるサンプリング音や、「IWAOU」のオールドスクールなヒップホップをサンプリングしたようなフレーズはAIで作りました。「Knock」では声質を変えられるAIを使っていて。自分が歌った声を、例えば白人女性シンガー、黒人女性シンガー、男性ロックシンガー、老人の声などに変えられるAIを使って、みんなが部屋に集まって歌ったようなコーラスを作ったんです。

――全部KREVAさんの声で?
KREVA:そうです。15人分の声を録れると言われたら、もうやってみたくなるし、それが曲のアイデアにつながっていくというか。そうかと思えば、ラストの「New Phase」では、“メランコリック”や“メロウ”といったいろんな心象をプロンプトに入れまくって、そのアウトプットでピタッときたものを自分なりに調理し直して使ったり。ただ、AIにコード進行や歌詞を考えてもらうっていうところには行かなかったかな。「こんなテーマで」と投げかけても、出てくる答えは“最大公約数のトップ”という感じで、あまり面白くないというか。

――まだAIは、1を100にするのは得意だけど、0から1を生むのは難しい?
KREVA:そうですね……いや、そうでもないかな? 例えば、自分が作った動画にオリジナルの曲を付けるくらいだったら、「夏」「海」「楽しい」みたいにプロンプトを入れると、満点に近い曲が出てくるレベルだとは思います。ただ、自分のアウトプットとしてクリエイティブなものにするには、「それをどう使うか?」っていう、もうひとつの視点が必要な気がします。それでも積極的に使ったもうひとつの理由は、音質ですね。過渡期ゆえに、まだちょっと……なんですが、でもそこがエモいというか。たぶん、この音が悪い感じって今しかないんですよ。今後は絶対に音が良くなっていくから。例えるなら2000年代の眉毛みたいな感じですかね(笑)。今、あの眉毛を描いても2000年代のものにはならないじゃないですか。あの眉毛はあの時代しかないものであって、AIの音質も、過渡期にしかない今の音として積極的に使いました。

――過渡期という点では、この20年で音楽の聴かれ方も大きく変わりました。そこへの意識の変化はありますか?
KREVA:その変化たるやとは思うけど、それ以上に「ヒップホップとは?」みたいなものの変わり方の方があまりに激しすぎて。ジャズとか他の音楽と違って、ヒップホップは常に最新が正解みたいなところがあるんです。俺は90年代ヒップホップで育ってきたけど、当時の感覚のままでそこを研ぎ澄ましても古くなるだけ。だからと言ってそこを切り捨てることはしないけど、常にアップデートして今の感覚を持たないと、すぐに消えちゃうと思うんですよ。

 ポップスは昔のものもポップスだし、ギターを手にすれば、昔も今もロックだって言える。でもヒップホップは、90年代のものには「ブーンバップ」って名前が付けられたり、「トラップ」とかって細分化されて、どんどん最新のものと差別化されていく。「これさえあればヒップホップ」っていう主軸すら変わっていく、すげぇ音楽だなって思いますね。ヒップホップは現在進行形なんです。だから厳しい。そこで20年やってこられたということは、前に目を向けつつ、技術をアップデートし続けてこられたからなのかなと思っています。

――もうひとつ、今はSNSで言葉があふれていますが、同時に言葉の重みが失われる「言葉のインフレ」状態とも言われます。そこはどう感じていますか?
KREVA:言葉の話だけじゃないのかもしれないですけど、「気にしている人」と「気にしてない人」の差がどんどん広がってるように思います。両者の間を埋めるAIもあるだろうけど、それも「使える人」「使いこなせない人」の差が出てくるだろうし、あらゆることにおいて、何を見たらいいのか、どうすればいいのかを「わかってる人」と「わかってない人」の差がすごく開いてきている。俺は言葉を使う人だし、歌詞は手書きで、毎朝文章を書いたりしているけど、それでも、ちょっと怖い気もしますね。

――いえいえ、言葉に真摯に向き合っているからこそ、『Project K』のラップには、KREVAさんという人間そのものを強く表現されているのだと思いますし、シンガーでは難しい、ラッパーでしか伝えられない強烈なメッセージ性を感じました。
KREVA:「ラッパーでしか」って言う点は難しいけど、でもラップはメロディがない分、その人でしか成立し得ない、よりその人そのものが出やすい気はします。例えば、音程があるポップスのカバーって成り立つけど、ラップをカバーしようとしても、まったく別モノになることが多いですし。

――だからこそ「誰が何を言うのか」が重要になる、と。
KREVA:そうですね。その人自身がより問われるのがラッパーなのかなって、そんな気がします。

――そのリリックを書き上げる過程のノートなどを展示した原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」(1月24日〜2月3日)も開催されましたね。
KREVA:あくまでも曲を作るために書いた制作途中のノートの1ページだったり、レコーディングのために清書したものだったり、俺にとっては制作途中のもの、通過点なんだけど、それを欲しいと言ってくれる人の手に渡って価値が生まれるのだったら、ファンのみんなに大事にしてもらえるとうれしいなと思ったんです。人に見せるために筆を取ったわけじゃないけど、間違いなくこの世にひとつしかない手書きのもので、いい曲を生み出したいという気持ちがすごく表れている文字たちだと思うんですよ。筆跡を追えば俺の道が見えてくると思うから、ラップをしている人だけでなく、何かモノを作っている人にも届くんじゃないかっていう想いがあって、開催してみようと思ったんです。

――そして3月からは、DJスタイルが12公演、バンドスタイルが9公演の全国ワンマンツアーが始まりますね。
KREVA:ずっと前から、例え1人でもいろんな場所に行った方がいいなって考えていたんです。武道館で何度もやらせてもらってますけど、それって武道館の周りにいるファンだけが来てくれるんじゃなくて、いろんな所から来てくれるファンがいるから成り立ってるんだなって、この数年、強く感じていて。だったら20周年のタイミングで、ステージが1m×1mしかないようなところでも行けるなら行って、自分一人で再生ボタンを押しながらでもライブをやろうって。その想いを引き継いで、基本に立ち返り後ろにDJが一人だけっていうスタイルでライブをやろうと思いました。ラッパーとしてはベーシックなスタイルだけど、今となっては一番の挑戦。それを頑張りたいっていう気持ちと、みんなに楽しんでもらえたらなっていう気持ちがあります。DJが一人いればライブができるヒップホップのスタイルって、すげぇ強いんじゃないかって。そういう想いもあって、今まであまり回れてなかったところにも行けて嬉しいし、ツアーの中盤からはバンドスタイルでのライブもやるので、その両方ともを楽しんもらえたらって思っています。
(取材・文:布施雄一郎)

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