良作ぞろいで混戦模様!? 授賞式直前!第97回アカデミー賞の行方を占う【コラム】

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2025年02月28日 13:00  エンタメOVO

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良作ぞろいで混戦模様!? 授賞式直前!第97回アカデミー賞の行方を占う【コラム】

 日本時間3月3日(月)、映画の祭典・第97回アカデミー賞授賞式が、アメリカのロサンゼルスで開催される。昨年の『オッペンハイマー』のように“大本命”と言える作品がなく、今年はかなりの混戦模様。とはいえ、ノミネート作はいずれも良作ぞろいで、賞の行方が気になるところ。そこで、ここでは主要6部門(作品賞、主演女優賞、主演男優賞、助演女優賞、助演男優賞、監督賞)の行方を占ってみたい。




 その前に、アカデミー賞の選考システムを簡単に説明しておく。アカデミー賞は、映画祭のように少数の審査員による審査ではなく、米国を中心に世界の映画制作関係者が所属する“映画芸術科学アカデミー”の会員(アカデミー会員。1万人を超え、日本人も所属)の投票によって賞が決まる。評論家やジャーナリストなど、映画を見る側ではなく、作り手が選ぶ賞であることも特徴だ。

 まず今年のノミネート傾向を整理しておくと、最多が13部門12ノミネートの『エミリア・ペレス』(3月28日公開)。だが、直前になって主演女優賞にノミネートされたカルラ・ソフィア・ガスコンのSNSでの過去の差別的な発言が問題視されて騒動になり、勢いがストップ。作品自体は素晴らしいだけに惜しいが、これにより、賞の行方は混とんとしてきた。その空席を狙うのが、10部門候補の『ブルータリスト』(公開中)と『ウィキッド ふたりの魔女』(3月7日公開)、8部門候補の『教皇選挙』(3月20日公開)、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(公開中)、6部門候補の『ANORA アノーラ』(公開中)といったところ。




では、主要6部門の行方を順に占っていきたい。

 これまでの“前哨戦”と呼ばれる各映画賞の行方から判断して、受賞は堅いと思われるのが、助演賞の2人だ。助演男優賞候補の『リアル・ペイン〜心の旅〜』(公開中)のキーラン・カルキンは、亡き祖母の遺言に従い、従兄弟と共にポーランドを旅するユダヤ人青年役。一見陽気だが、実は心の不調を抱えており、それが時々こぼれ出す不安定な様子を繊細かつ自然に演じている。そのつらい心情を吐露する場面は圧巻だ。前哨戦も総なめ状態で、受賞はほぼ間違いない。ちなみに、名前からもわかる通り、かつて『ホーム・アローン』(90)で人気子役としてブレイクしたマコーレー・カルキンの弟だ。

 助演女優賞の『エミリア・ペレス』のゾーイ・サルダナは、性別適合手術を希望するトランスジェンダーの麻薬カルテルのボスをサポートする女性弁護士役。ミュージカル映画のため、劇中では歌曲賞にノミネートされた“El Mal”などで力強い歌唱とダンスも披露し、高いパフォーマンスを発揮している。前哨戦も順調に受賞しており、騒動の影響はなさそうだ。

 主演男優賞は候補5人のうち、『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディと『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のティモシー・シャラメの2人が有力。ブロディは、第2次世界大戦後、ホロコーストを生き延びて渡米したユダヤ人建築家の苦難に満ちた30年を熱演。架空の人物だが、まるで実在したかと思うほど、圧倒的な存在感に溢れている。

 一方、シャラメが演じるのは、ノーベル文学賞にも輝いたカリスマミュージシャンのボブ・ディラン。そのデビュー直後の数年間を描いた物語で、5年に及ぶ役作りを経て、ディランの喋り方を完璧にマスター。劇中の歌唱シーンも自分で歌っており、まるで生き写しだ。

 前哨戦序盤はブロディがリードしていたが、2月23日に発表された全米映画俳優組合賞をシャラメが受賞。アカデミー会員が最も多いと言われる俳優組合賞の受賞に併せ、アカデミー賞では実在の人物を演じると有利な傾向もあり、シャラメ逆転の可能性が高まった。ブロディが受賞すれば『戦場のピアニスト』(02)以来2度目、シャラメなら同部門史上最年少受賞の記録更新となる。

 主演女優賞は当初、トランスジェンダー俳優のカルラ・ソフィア・ガスコン(『エミリア・ペレス』)が受賞すれば歴史的快挙となり、受賞を期待したが、残念ながら騒動で脱落(候補には残っており、授賞式にも出席予定)。残る4人の中で有力視されるのは、『ANORA アノーラ』のマイキー・マディソンと『サブスタンス』(5月16日公開)のデミ・ムーア。

 マディソンが演じるのは、休暇でアメリカを訪れたロシアの富豪の御曹司と恋に落ちるストリップダンサー。入念な準備を経て役になりきると同時に、2人の恋を阻止しようとする屈強な男たちと対等以上に渡りあうたくましさとチャーミングさを兼ね備えた魅力を放っている。これに対してムーアは、謎の若返り薬を手に入れたことで狂気に陥っていくベテラン女優を、全身全霊を傾けて熱演。そのインパクトは絶大な上、ハリウッドでの長年の活躍と苦労も広く知られており、全米俳優組合賞を受賞したことから、アカデミー会員の票が集まる可能性は高い。俳優組合賞の授賞スピーチも、胸打つものがあった。

 作品賞と監督賞は最多ノミネートの『エミリア・ペレス』が脱落したため、正直、予想はかなり難しいが、共に『ANORA アノーラ』が取るかもしれない。これを追うのが、『ブルータリスト』、『教皇選挙』といったところ。

 元々、前哨戦序盤では、ゴールデン・グローブ賞を取った『ブルータリスト』リードの印象だったが、2月に入ってアカデミー賞作品賞と一致率の高い全米製作者組合賞と全米監督組合賞を続けて『ANORA アノーラ』が受賞し、逆転の可能性が高まった。

 『教皇選挙』は、世界が注目するローマ教皇の選挙に挑むカトリックの枢機卿たちの静かな戦いを描いた濃密なドラマ。主演男優賞候補のレイフ・ファインズや助演女優賞候補のイザベラ・ロッセリーニなど、ベテランの名優たちのアンサンブルが味わい深く、英国アカデミー賞の作品賞と全米映画俳優組合賞の最高賞となるキャスト賞を受賞している。残念ながら監督賞にノミネートされていないことが弱点だが、監督賞と作品賞が割れるケースも過去にはあったので、サプライズでの作品賞受賞があるかもしれない。




以上、主要6部門の予想を整理すると次の通り。

作品賞:『ANORA アノーラ』

監督賞:『ANORA アノーラ』ショーン・ベイカー

主演女優賞:『サブスタンス』デミ・ムーア

主演男優賞:『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ティモシー・シャラメ

助演女優賞:『エミリア・ペレス』ゾーイ・サルダナ

助演男優賞:『リアル・ペイン〜心の旅〜』キーラン・カルキン

 このほか、今回のアカデミー賞には日本からも3作品がノミネートされている。短編アニメーション部門の『あめだま』(公開中)、ドキュメンタリー短編部門の『Instruments of a Beating Heart』、ドキュメンタリー長編部門の『Black Box Diaries』だ。その行方も気になるところ。また、アカデミー賞は昨年まではWOWOWが生中継していたが、今年はNHK BSでの放送となり、より多くの視聴者に届くことが期待できる。アカデミー賞は、賞の行方はもちろんだが、各受賞者のスピーチや豪華なスターたちのパフォーマンス(今年も『ウィキッド ふたりの魔女』のシンシア・エリヴォとアリアナ・グランデの共演が予定されている)など、多くの見どころがある。ぜひ、一人でも多くの人に年に一度の映画の祭典を楽しんでほしい。

(井上健一)

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