2025年WEC第1戦カタールを制した50号車フェラーリ499P 2月28日、WEC世界耐久選手権の2025シーズン開幕戦『カタール1812km』の決勝レースがカタールのルサイル・インターナショナル・サーキットで行われ、アントニオ・フォコ/ミゲル・モリーナ/ニクラス・ニールセン組のAFコルセ50号車フェラーリ499Pが318周を走破し優勝。さらに83号車、51号車も続き、フェラーリ499Pの3台が表彰台を独占するシーズン幕開けとなった。
LMGT3では最終ラップまで続いた首位争いの末、TFスポーツの33号車シボレー・コルベットZ06 GT3.R(ベン・キーティング/ジョニー・エドガー/ダニエル・ジュンカデラ)がクラス優勝を果たしている。
■ドアも吹き飛ぶ荒れた序盤戦
前週21〜22日に行われた公式テスト“プロローグ”に引き続き、いよいよ開幕を迎えた2025シーズンのWEC。ハイパーカークラスに新規参入となるアストンマーティンヴァルキリー、LMGT3に待望の参戦を果たすメルセデスAMG GT3 Evoらにも注目が集まるなか、現地時刻14時に1812km、または10時間で争われる決勝のスタートが切られた。
レースは序盤から、フェラーリ499Pの速さが際立つ展開となる。前日の予選でポールポジションを奪ったフェラーリAFコルセは、ジェームス・カラド駆る51号車と予選3番手からスタートで順位を上げたニールセンの50号車が早々にワン・ツー体制を築くと、強い北西の風が吹くトラックコンディションとは対照的に“無風”で最初の2時間を過ごした。
反面、上位2台の後ろでは、スタートで順位をひとつ落とし3番手となった15号車BMW Mハイブリッド V8(BMW Mチーム WRT)がフルコースイエロー明けに加速せずポジションを失ったほか、アール・バンバーの38号車キャデラックVシリーズ.R(キャデラック・ハーツ・チーム・JOTA)がスピンして大きく順位を下げ、初参戦で注目されるアストンマーティン・ヴァルキリー(アストンマーティンTHORチーム)は009号車の右ドアが走行中に開き風圧により吹き飛んでしまうなど、荒れた序盤戦の様相に。
さらには予選で中団と最後列に沈んだトヨタGR010ハイブリッド勢(トヨタGAZOO Racing)が最初のピットストップでアンダーカットを決め、マイク・コンウェイ駆る7号車とセバスチャン・ブエミの8号車が2台そろって入賞圏内に入ってくるなど、順位が目まぐるしく動いていった。
なお、7号車は小林可夢偉にドライバーチェンジする直前にコンウェイがスピンを喫しタイムを失うも、ロスは最小限に抑えている。
3時間目に入った直後、単独スピンからターン14のグラベルに捕まったLMGT3カーを回収するためバーチャル・セーフティカー(VSC)が入る。このタイミングで2度目のピット作業に入った38号車・12号車の2台のキャデラックが利を得て、スタートからワン・ツーを維持してきたフェラーリワークス勢の前に出ることに成功する。
リスタート後はキャデラックのペアが隊列を率いていくかと思われたが、解除のタイミングで、あろうことかジェンソン・バトンの38号車にアレックス・リンの12号車が激しく追突する事故が発生。2台ともダメージを負いピットでの修復作業を余儀なくされた。この件に関しては後に12号車側にペナルティが出ている。
これでふたたび跳ね馬がワン・ツー、さらにサテライトのAFコルセ83号車が続き、フェラーリ499P勢がトップ3を形成することとなった。
■トヨタ2台が表彰台目前まで追い上げ
50号車フェラーリは4時間目の序盤、同門の83号車と20号車BMWと2番手を争うなかで接触があったか、スピンを喫し5番手にダウン。代わってブレンドン・ハートレーの8号車トヨタが4番手に。さらに首位を走る51号車フェラーリがVSC手順違反のペナルティを受けたためトップが交代。83号車を先頭に20号車BMW、8号車トヨタ、50号車フェラーリが並ぶトップ4となった。
その後のルーティンピットを経て、トヨタ勢は8号車と可夢偉駆る7号車が3番手・4番手にまで浮上。5時間目を前にペースで勝る7号車が先行している。レースの折り返し直前にはデブリ回収のため2度目のVSCが入り、続けてSCランに。ほとんどのマシンがこのタイミングで給油に入ったことで各車のピットタイミングが揃うとともにギャップがリセットされた。
163周目からレースが再開されるも、一時LMGT3クラスをリードしていた77号車フォード・マスタングGT3が左サイドのエキゾースト付近から炎を上げてストップしたため、再度SCが導入される。リスタートは約20分後。トップ4は変わらず、その背後にレネ・ラストが乗り込んだ20号車BMW、ノルマン・ナトの12号車キャデラックが続く。
ミゲル・モリーナが乗り込んだ50号車はリスタートから10分後、ターン1で83号車をパスしてこのレースで初めて首位に立つとリードを広げていく。一方、フィル・ハンソンの83号車はデ・フリース駆る7号車トヨタからプレッシャーを受けることに。
その7号車が先陣を切って入ってきた6回目のルーティンピット後は、終盤戦に向けてピットタイミングを調整してきた5号車ポルシェがトヨタ勢の間に割り込んできたが、まもなくピット作業に入ったことで平川亮の8号車が再び4番手となった。
レースは残り3時間。トップから25秒の遅れとなった平川の背後にラスト駆るBMWが迫ってきた。
残り3時間を切ってからのルーティンピットを終えると、50号車フェラーリと、背後の83号車とのギャップは4秒程度。3番手には、20号車BMWガ浮上する。7号車トヨタはコンウェイへ、8号車トヨタはハートレーへとドライバー交代を行うなか、この時点でも13台がリードラップに入っており、フェラーリ2台が有利ではあるものの緊張感のある終盤戦への突入していった。
残り1時間45分、7号車トヨタには可夢偉が乗り込むと、同時ピットとなった20号車BMWを逆転。しかし、その直後にピットインした51号車フェラーリがこの2台に先行して3番手に上がり、さらに首位50号車が右フロントタイヤ交換でややタイムロスをすると、83号車が先行することに。これで83号車、50号車、51号車の順で、フェラーリがワン・ツー・スリーを固め、4〜5番手にトヨタの2台が続く形となった。
トップの3台は5秒差以内とサテライトvsワークスの戦いが続き、その後方10秒以内に2台のトヨタが虎視眈々と迫るという緊迫した展開で、レースは最後の1時間に突入。
ロバート・クビサの乗る首位83号車フェラーリから最後のルーティンピットが始まると、ここで83号車はタイヤを交換せず。続いてピットに向かった4番手の7号車トヨタは左側2輪を交換して勝負に出る。これを見た51号車フェラーリはトヨタに合わせるような形で左側2輪を交換し、さらにカラドからアレッサンドロ・ピエール・グイディへとドライバー交代も行った。
燃料にもっとも余裕のある50号車フェラーリが上位勢では最後にピットに入ると、タイヤは交換せずにコースへと戻り、83号車フェラーリを逆転して再びトップを奪い返すことに成功した。
この最後のルーティン作業では、ドリス・ファントールの15号車BMWが2台のトヨタを逆転、4番手に浮上する。トヨタ2台は位置関係が入れ替わり、こちらも2輪を交換した8号車のブエミが、7号車可夢偉の前に出た。
ラストピットでタイヤ交換を行った陣営がペース的には有利となった最終盤、3番手を走る51号車フェラーリが83号車へと追いつきテール・トゥ・ノーズとなるが、タイヤが苦しいクビサはワークス車両を抑え続けることに成功する。
レースは1812kmに達する前にスタートから10時間を迎え、50号車フェラーリがトップチェッカー。83号車、51号車が続けてフィニッシュラインを横切り、フェラーリ499Pが表彰台を独占した。
4位は最終ピットで順位を上げた15号車BMW。8号車、7号車という順でトヨタが5〜6位に続いた。以下20号車BMW、12号車キャデラック、93号車プジョー9X8(プジョー・トタルエナジーズ)、5号車ポルシェ(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)までがトップ10フィニッシュを果たした。
■佐藤万璃音のマクラーレンに無念のペナルティ
LMGT3クラスでは予選でフロントロウを独占したマクラーレンと、今週の走りはじめから好調のレクサス勢が存在感を発揮した。なかでも78号車レクサスRC F GT3(アコーディスASPチーム)は序盤からマクラーレン720S GT3 Evo勢を上回るスピードを見せ、序盤から複数回トップに立つ。
しかしマクラーレン勢もライバルに離されることなく上位に留まり、5時間目にはポールシッターの95号車がトップに返り咲く。同チームでエース役となる佐藤万璃音も中盤の143周目に乗り込むと、名手ダニエル・ジュンカデラがドライブする33号車シボレー・コルベットZ06 GT3.R(TFスポーツ)や3番手につける姉妹車59号車に対してギャップを築いていった。
ところが佐藤がステアリングを握るレース終盤、95号車マクラーレンにはピットでのアンセーフリリースのためドライブスルーペナルティが科せられ後退。さらに78号車レクサスには技術違反により5秒のストップ・アンド・ゴーが科せられ、こちらも表彰台圏外へと脱落してしまう。
これで33号車シボレーのジュンカデラが59号車マクラーレンのグレゴワール・ソーシーをリードする形で最後の1時間へと入るが、そのギャップは1秒未満という超接近戦。その前方では、ピットタイミングがオフセットしている31号車BMW M4 GT3(ザ・ベント・チームWRT)の燃料が最後までもてば優勝か、という最終盤となったが、ティムール・ボグスラフスキーは残り15分を切ったところで31号車をピットレーンに向けた。
残り30分を切り、33号車シボレーと59号車マクラーレンの争いはテール・トゥ・ノーズ。残り9分、ソーシーはいったんはサイド・バイ・サイドに持ち込むが、オーバーテイクには至らず。ファイナルラップまで息を呑む接近戦は続いたが、ジュンカデラが辛くも逃げ切り、開幕戦優勝を果たした。
3位表彰台は31号車BMWが獲得。以下、78号車レクサス、21号車フェラーリ、27号車アストンマーティンと続き、佐藤がチェッカードライバーとなった95号車は、クラス7位でフィニッシュを迎えている。
2025年のWEC第2戦は、4月20日にイタリアのイモラで開催される6時間レースとなる。