松坂桃李/photo:You Ishii日曜劇場「御上先生」(TBS)も話題の松坂桃李が、2027年の大河ドラマ「逆賊の幕臣」で主演を務めることが決定。明治新政府に「逆賊」とされ歴史の闇に葬られた幕末の幕臣を演じる。
主人公の小栗上野介忠順(おぐりこうずけのすけただまさ)は、“勝海舟のライバル”といわれた男。
日本初の遣米使節となって新時代の文明を体感し、新しい国のかたちをデザインした江戸幕府の天才ながら、明治新政府に「逆賊」とされた小栗。忘れられた歴史の“敗者”=幕臣の知られざる活躍を描くスリリングな胸熱のエンターテインメントとなる。
本作は、幕府を倒した側ではなく、幕臣の側から幕末史を描く。“時代遅れな江戸幕府が明治維新で倒れ、日本はようやく近代を迎えた”という歴史観は、もはや過去のもの。近年の研究では、日本の近代はすでに幕末から始まっていたことが明らかになっている。司馬遼太郎が勝海舟と並べて「明治の父」と呼んだ人物、それが小栗忠順。
幕末の日本は、現代とよく似た状況だった。グローバル経済に巻き込まれ、関税率の交渉に悩まされ、物価高と格差が人々の生活を直撃。またフェイクも含めた情報が拡散されて誰もが世相を批評するようになり、社会の分断が深刻化。
さらに災害やテロの脅威があり、大国のパワーゲームによる戦争の危機がすぐそこに……。明日どうなるか分からない不確実な時代のなか、小栗は国の独立と社会の安定を守ろうと、近代化政策を推し進めた。
そんな小栗が国内外の諸勢力と繰り広げる外交・情報戦にスポットを当てる本作。次々と起こる幕末の事件の裏で起きていた、信頼と裏切りが交錯するスリリングで熱いドラマ。そこでは、人間対人間の真心と腹芸、そして情報が、一寸先の運命を左右する。明治新政府が歴史の勝者となったのは、様々な偶然の積み重ねだったのかもしれない…。
2027年、小栗忠順生誕200年の年に、彼を演じるのは、大河ドラマでは「軍師官兵衛」(2014)「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019)に続き、出演3作目にして今作で初めて主演を務める松坂桃李。
連続テレビ小説「おかえりモネ」や土曜ドラマ「お別れホスピタル」ほか、「コード・ブルー ードクターヘリ緊急救命ー3rd season」、「きのう何食べた?」などを手掛けきた安達奈緒子が、今作で初めて大河ドラマを執筆する。
作:安達奈緒子より<執筆によせて> 松坂桃李は「姿がピタリと重なる」
《幕末》を書く機会をいただきました。幸甚とはまさにこのことです。
あまたの人が心惹かれ著述した日本の大転換期。史実も人物もあまりに鮮烈で魅力的なので、ひたすら実直に描こうと肝に銘じます。ただ─。
「誰の目で見るか、どこまで広く見るか」
人は見たいものだけを見る、とは昨今よく耳にします。勝者が歴史を作るとも。だとしたら敗者とされた者の目から見た情勢はそれなりに様相が変わるはずです。また一国の政変に焦点を絞らず画角を広くとれば、大洋大陸を隔てた遠い国々の複雑にからみあう意図が見えてくる。はたして。
今見えている出来事は本当に「今見えているままなのだろうか?」
小栗忠順という幕臣の目を通して見る《幕末》には強烈に《今》を感じます。
身分制を打破し、個の力を存分に発揮できる社会は繁栄をもたらす。けれど行き過ぎれば能力主義という新たな身分制になりはしないか。こぼれ落ちる者たちの存在がかき消されてはいないか。《公(おおやけ)》は本当に公共のために力を尽くしているか。世界規模で同時多発的に何かが起きている、うねる潮流の正体が見えない、止められない。
小栗も予感したはずです。「時代が変わる」。
小栗は持っている人です。身分、能力、機会に恵まれた変わり者の天才となれば鼻につく人物かもしれません。実際、無血開城の立役者、勝海舟は小栗を疎んじました。しかし小栗は官吏であり、いわゆるリーダーではありません。公の人です。そして小栗は持っている人だからこそ《個》として自由に生きることを自分には許さなかった。つねに公がなすべきことを考え、変容せざるをえない国を少しでも良くしようと邁進する。その高潔さと頑固さは清々しいほどで、混乱の世にあって希望たりえる人だったと思います。
松坂桃李さんはまさにそんな高潔さをまとう方です。小栗がどんな人だったかを想像するとき、勝手ながら姿がピタリと重なります。極限まで苦闘する幕臣がスッと実体をもって立ち上がってくる、顔が見えてくる、するとやはり思うのです。
「なぜ彼は処刑されなければならなかったのか」
小栗を知れば知るほど彼の死が悔しい。その死には謎があります。これを解明していく物語はこの動乱の時代をさらに心惹かれるものにしてくれるはずです。
《幕末》を書くことを許されたのは《今》だったからだと考えます。がんばります。
■小栗忠順とは――
文政10(1827)年、江戸・神田駿河台生まれ。2,500石の名門旗本で、天才的なエリート官僚。隅田川の花見でも花や酒には目もくれず治水について語り続け、周囲をあきれさせるようなオタク気質。
万延元(1860)年、遣米使節として渡米し西洋文明を体感。帰国後要職を歴任して軍制改革や近代的工場(造船・製鉄所)の建設、日本初の株式会社設立など様々な改革を推進。特に、武士でありながら経済に明るい小栗は幕府にとって得難い人材で、何度も勘定奉行を務めた。しかし、空気を読まず上司に直言しては辞職し、辞めては呼び戻されること70回という伝説も。
明治の政治家・大隈重信は、明治政府の近代化政策のほとんどは小栗の模倣だったと語ったという。江戸幕府終末期の勘定奉行として、その名は徳川埋蔵金伝説にも登場する。
大河ドラマ「逆賊の幕臣」は2027年1月〜NHK総合にて放送予定。2026年夏クランクイン予定。
(シネマカフェ編集部)