『35年目のラブレター』(3月7日公開) (C)2025「35年目のラブレター」製作委員会 実話をもとに、結婚35年目の夫婦を笑福亭鶴瓶と原田知世、若かりし頃の二人を重岡大毅(WEST./32)と上白石萌音(27)が演じる映画『35年目のラブレター』(3月7日公開)。このほど、『溺れるナイフ』(2016)以来9年ぶりの映画共演となった重岡と上白石にインタビュー。互いの芝居はもはやリスペクトを超え「腹が立った」「なんだ、この人は」と思うほどだったという2人が臨んだ夫婦役、そして実話をもとにしたストーリーから得たものを明かした。
【動画】夫婦愛あふれる『35年目のラブレター』主題歌入り予告 本作は、2003年に朝日新聞で紹介され、テレビ・雑誌でも取り上げられ、さらには創作落語にもなるなど、さまざまな形で広まり多くの感動を呼んだある夫婦の実話を塚本連平監督が脚本から手がけて映画化。戦時中に生まれた西畑保(鶴瓶)は十分な教育を受けることができず、読み書きができないまま大人に。保は自分を支え続けてくれた最愛の妻・皎子(きょうこ/原田)への感謝を自身で書いた手紙で伝えようと、夜間中学に通い始める――。
■笑福亭鶴瓶&原田知世の若き日を演じる驚きとプレッシャー 共通点を探る
――まず今作の話を受けて、笑福亭鶴瓶さんと原田知世さんの役の若い時代を演じることを聞いたときの印象はいかがでしたか。
重岡:ねえ、どう思った?(笑)びっくりしたよね。共演させていただいたこともあり、シンプルに鶴瓶さんがすきだったんですよ。でも鶴瓶さんは鶴瓶さんやし。
上白石:唯一無二。
重岡:そう。唯一無二だし、みんな、鶴瓶さんのことが好きなんじゃないかな。お仕事で会っても直接会っても一緒で、包み込むような感じがある。大先輩やけど、わかりやすい言葉でいうなら人たらしのトップ、といったイメージだった鶴瓶さんの若い時を、保さんを通してですが演じられるといううれしさとプレッシャーもありました。『なんで俺やったの?』といろいろな関係者のみなさんに聞きたいくらいでした。
――実際に起用理由を聞いてはないんですか。
重岡:聞きました!笑った顔が似てたんやって(笑)
上白石:映画を観てもすごく思いました。笑ったときのニコッとした表情が似ていますよね。重岡さんも人たらしなので、そういうところも似ています。
重岡:(上白石さんは話を聞いて)どう思いましたか?
上白石:どうしよう、(原田さんに)似てないって思いました(笑)。顔が似ていないのでどうしたものか、と。私も元々原田さんが大好き。作品も好きなのですが、歌声が好きでずっとCDも聴いていたので、すごくうれしかったです。ただどうやったら自然な形でバトンパスできるかは考えました。
――上白石さんは起用理由を聞いてみましたか。
上白石:聞いてないんです。聞こう!
――脚本を読んでみて物語に対しての印象はいかがでしたか。
重岡:監督と一度、一緒にやらせていただいたこともあったけど、この脚本を絶対にやりたいと思いました。
上白石:私も。
重岡:自分の手もとにこの作品の台本が届いてくれてうれしかった。どうしても伝えたいなと思いました。
上白石:実話というのもびっくりしました。実話だと思って読むと味わいが深い。実際にこの世で起きた出来事の一部になれることがうれしかった。私は関西の人間ではないので関西人ならではのやりとりが、“すごく関西してるな!”というのが最初の印象です。あれを関西人が読むとどうなんですか?
重岡:日常(笑)
上白石;恐ろしい〜(笑)ボケて突っ込んで…。
重岡:日常…ですねぇ。そっか、そうだよな。
上白石:私はそこにすごくワクワクしました。
重岡:俺は上白石さんを天才だと思ったことがあって…。それは聞いていただければあとでしゃべります(笑)。
――では、ぜひその天才なエピソードをお願いします(笑)
重岡:まずですね!(前のめり)
上白石:尺、全部使っていいですよ!(笑)
重岡:びっくりしたのが、台本を読み合わせする時に、もう原田さんだった。うわ〜と思ってプロデューサーさんや監督さんにも伝えました。関西弁も完璧やし。関西弁は完全にイントネーションは気にしなくてもいい。そこは気持ちやん!関西人でも関西弁が下手な人はいるし!全然いる!要はハートやから!でもそこを置いといても、完璧だったの!(と熱くなる)
上白石:気持ちいい〜(笑)
重岡:なんか腹立ってきて(笑)
上白石:なんでやねん。
重岡:ちょっと焦ったもん。原田さんがまとっている空気やオーラがもう出ていたから、なんやねん!と思いました。自分も頑張らな、と思いました。
上白石:私も腹は立ってましたよ。私は重ちゃん(重岡)のお芝居が本当に好きで最初に共演したときから『なんだ、この人は…』って思ったくらいだったんです。この脚本を読んだときもまだ誰が演じるのか知らなかったけど、重ちゃんにやってほしいなと思ったんです。だから本読みのときも『そう、そう、そうです。これ、これ!』って。あとは“お国の言葉”でしゃべっているときに…。
重岡:“お国の言葉”(笑)。同じお国のはずなんですけどね。
上白石:イキイキとした姿。先に現代パートの本読みをやっていたので、私たちは少し早めに入って(鶴瓶と原田の)お2人のお芝居を聞いていたんです。私もここ(重岡の横)に鶴瓶さんが見えて。かつ一回読み終わった後に、監督から『もう少しこういうふうに』と言われてそこで終わることが多いんですが、重岡さんは『もう1回やっていいですか』と言ったので…その“すてきさ”に腹が立ちました。
重岡:言ったね。大汗をかきながら…ごめんな、俺、こうやって汗をかいているときは焦っているときやねんけど、これはもう1回やらせてくれへんかって。
上白石:それがすてきだし、保さんだな、ってすごく思いました。この人についていこうとあの瞬間に思いました。
重岡:上白石さんの名前を聞いた瞬間に安心しました。
上白石:私もです。
――キャストの名前を聞いた瞬間にお互い、安心したんですね。
上白石:大丈夫だと思いました。
重岡:一回共演した経験もあったので、そこから10年くらい経ったのかな。続けるってこういういいこともあるんだな、と思いました。
■一丸となって挑んだ“告白”シーン 「あの時は俺ら、頑張ったな!(笑)」
――撮影のなかで保さんが皎子さんに、実は自分が読み書きをできないことを伝える場面のお芝居はとても印象的でした。撮影はいかがでしたか。
重岡:ああいうシーンは緊張するよね。でももう周りは信頼できる人しかいなかったから、自分はやるだけ。『よろしくお願いします!』って気持ちやったかな。
上白石:私は保さんのセリフをただ聞いているだけでよかったんです。重岡さんが本当に保さんだったからなんの準備もいらなかった。ただ言葉を聞いて顔を見ていれば、そこにいられた。でも緊張感はすごくありました。
重岡:わかりやすく大事な場面やったから、なかなか勇気もいるもんね。一番近くにいた大事な人に言えなかったことはずっと蝕んでいたと思うし、難しかったです。
――保さんが自分の弱さに向き合う、複雑な感情が表情からも伝わってきました。
重岡:生きていたらファイトしなきゃいけないこともあるじゃないですか。保は完全にあそこだった。
上白石:セリフもそうでしたが静かな間をすごく覚えてます。ペンで書き始めて、それを見ている間とか行間の言葉を探している瞬間やなにを言ったらいいかわからない沈黙、あの場にいてすごく「真実」だと思って。前にも一度共演してるからこその信頼や居心地の良さがあったからこそ、あの間がとれたのかな。
重岡:あの時は俺ら、頑張ったな!(笑)
上白石:あの日の撮影はすごく重くて大事なシーンが結構立て続けにありました。最初のクリスマスも同じ日で、終わった時には『頑張った!頑張った!』ってなりましたね。
重岡:各チームの自己ベストが交わる点をみんなで探しに行く感覚でした。頑張ったな〜。
――上白石さんは「なにもしなかった」とおっしゃいましたがそんなことはなかった。本当に保さんのことを受け止めていることが伝わってきました。
上白石:(重岡と)対峙するだけで皎子さんになれるというのはどのシーンでも感じていて重岡さんのお力だなぁと。皎子さんは保さんが読み書きできないことを薄々気づいていたんじゃないかな。なんとなく思っていたことを本人から伝えられた時にどんな顔でどんなふうに言ったらいいんだろうと、準備はできていたけど衝撃の瞬間みたいなすごく複雑なシーンでした。
重岡:保もそう思ってたかもしれないし、もしかしたらバレてるかもって。でも結局正解はあの瞬間にしかないから。俺たちは精いっぱいやったからあとは感じてください(笑)
――すでにお2人から互いへの俳優としてのリスペクトを感じます。作品の中では年齢を言い訳にしないで努力する保さんですがお二人は俳優さんとして心がけていることはありますか。
上白石:(重岡を見て)聞きたい!
重岡:え〜(!?)一緒にしゃべろうか(笑)。どうやろう。
上白石:なんであんなにセリフを自分の言葉にできるんですか。最初(の共演作)『溺れるナイフ』からそうだった。
重岡:あんまり考えたことがないけど「自分」でやってるからかなぁ。
上白石:誰かになるというよりは…。すごく自由。体の使い方もすごく自由だと思っていました。
重岡:そうね。なにかに縛られるのは苦手やねん。逆に(上白石は)なにかありますか。
上白石:対峙する相手の言葉をよく聴くとかよく見るとか。それでもらえるものを全部もらうことかな。一人ではお芝居はできないから。
重岡:わかる。塚本監督とはコロナ前に別の作品でご一緒させてもらったんですけど…その時から保さんと映画化の話し合いが進められていたと聞いて。そんなときからやっていたのか、と。いろんなところにプロフェッショナルの方がいるんだな、と感じます。脚本を書いたり、音楽を作ったり、こうしてみなさんに来ていただいたり。いろんな方がいてこの場所があると最近は一個一個考えるようになりました。なんかええこと言ってる?
上白石:ええこと言ってる声でしたね(笑)
重岡:というのは30代に突入して思うことですね。一人じゃやれないなって。
上白石:いろんな人が準備をしてきたから、役者が最後に(作品の質を)決定しちゃうみたいな怖さはあります。
重岡:俺は自分のペースでしゃべるけど説明に自信がないから助かる!(上白石が)すごくまとめてくれるの。ずっと気になっていたんだけど、上白石さんって何読んでるの?普段なにしてるの?なんでそんなに文字がきれいなの?昔、どんなものが好きだったの?って聞きまくってました。気になる。すごい…。
上白石:ありがとうございます(笑)
――お2人は久しぶりに会って、変化を感じたところはありましたか。
上白石:なにも変わらない(笑)
重岡:俺もそうやなぁ…。
上白石:でもなにも変わらないのはすごいこと。この9年って一番人が変わる9年でもあると思うから、うれしかったです。でも人としての円熟味というか言葉の重みがすごい。この9年でいろいろなことを経験してその結果、生まれるこの言葉なんだなというのもあって。変わらないのだけどより深くなっている気がしました。
重岡:まさにそうだね…まさにそう(笑)。変わってないと思ったし、素敵ですよね。質問攻めしたんですよ。『人生でこれっていう一冊は何?』とか。そしたら教えてくれたのですぐに読みました。
上白石:なんて言いましたっけ…。
重岡:言っていい?『センス・オブ・ワンダー』。すぐに読みました。
上白石:確かにそうだ(笑)でも私もなんでこんなにお芝居がすてきなんだろうと思っていろいろ教えてもらいました。それこそ本も教えてもらってすぐに読みました。
重岡:すごく難しいよね。俺もまだ途中まで!(笑)
――それはどういった本なのでしょうか。
重岡:恥ずかしい(笑)。お芝居のヒントになるかなと読んだ本があったんです。まとめると(上白石は)歌もそうだし、いろいろなことをやってるけど作品を追っかけたいなと思える人。
上白石:私もです。追っかけます。
重岡:この作品で一緒にできてよかったです。
上白石:こちらこそです。きょうはいい日だね!(笑)
■重岡大毅はメンバーに、上白石萌音は旧友から “手紙”がつないだ絆
――ラブレターにまつわるお話ですがお二人は印象的な手紙の思い出を教えて下さい。
重岡:手紙はよく書くといってたよね。
上白石;よく書きます。誕生日やお世話になっている方に久々に会うときとかですね。
――もらった手紙で記憶に残っているものはありますか。
上白石:ぱっと思い出したのが中学校3年生の時に、東京の高校を受験することになり、その受験する前日に一番の友だちがノートの端をビッと破って、『東京に行くんだね。すごいね。頑張っておいで』と。今もとってあるんです。きれいな便箋に準備して書いてもらった手紙もうれしいし、ノートの切れ端というのは臨場感しかない。急いでかいた筆跡とか、言葉じゃなくて文字に残してくれたことがうれしかったです。それをポッケに入れて受験会場に行きました。…さ!(と重岡を見る)
重岡:ちゃんと(エピソード)あるやん。親には20歳になったときに『育ててくれてありがとう』みたいものをメッセージカードに書きました。小っ恥ずかしくなりながら。そうしたらオカンがその日、仕事から帰ってきて、オカンも小っ恥ずかしそうにしながらも『これ…大毅…ありがとうな…(小声)』で皿洗いしながら(笑)
上白石:全員が慣れていない感じだ。
重岡:そう(笑)。俺は字が汚いんやけど手紙は好きだから最近よく書くんです。自分で曲を作って、メンバーが歌ってくれると、自分の想いを手紙で一人ひとりに書きます。時間かかって、大変やけど。
――それを受け取ったメンバーの反応は…。
重岡:なに書いてあるかわからへんって(笑)
上白石:照れ隠しじゃないかな(笑)
重岡:でもそれで返ってくる歌は全然違うんです。血が通うようになる。体温があるから手紙は好きですね。
上白石:アツい男だぜ!
■原動力はコンプレックス 上白石萌音、重岡大毅の変化に驚き「『絶対に無理』って言っていたのに…」
――お二人が保さんのようにコツコツ続けていって、身になったことや形になったものはありますか。
重岡:(上白石は)すごくやってそうやなぁ。
上白石:いや、私はコツコツが苦手なんです。必要がないと頑張れない。小さい頃から続いてる習い事が一個もないんです。
重岡:でもコツコツをやってる自分はできてる、できてないに限らず好きかもしれない。日記を書いています。
上白石:私も!人生で初めて続いてる。それでいうと9年前に重岡さんと共演した時に、『楽器をもし、やらなきゃいけない状況なっても、絶対に無理』と言ってたのに、今はやってらっしゃるからびっくりしました。
重岡:やっているなぁ。楽器、音楽はそうかもしれない。あれ以降始めたから。
――その原動力はなんでしょうか。
重岡:コンプレックスじゃないかな。コンプレックスが今はいい感じにプラスに裏返ったけど根付いているものだから原子力的な力を生みますね。周りがすごかったから。自分は(音楽が)苦手やったし、人前で歌を歌うだけで脂汗をかいていた。
――コンプレックスをバネにしたんですね。
重岡:あの時、こんなに愛し続けたんだから、今は愛されないと困る感じかな。やっていて楽しいからね。一番はそこじゃないかな。
上白石:私も原動力はコンプレックス。劣等感の塊です。
重岡:俺もやな。
上白石:悔しくてふがいなくて頑張る、みたいなことばかり。歌もそうだし。
重岡:え〜!でも一回『Mステ』で共演してひとりで歌ってたやんか。この人、マジか…と思いましたけどね。声優してもすごいわ〜って。
上白石:いやいや(笑)でも音楽は、できなかったことができるようになる結果がわかりやすい。出なかった音が出るとか、何拍伸ばせなかったのが伸ばせるようになったとか。そういうのは頑張れるかも知れない。
重岡:それが俺は昔、怖くて。サッカーをやっているとボールを蹴ってゴールに届いたとか入ったとかはずれたとか自分で目に見えてわかる。でも(音楽は)違うとか外してるとか目に見えないのが嫌で、なんで笑われてるんやろって。
――ひたむきに努力する保さんと皎子さんに刺激を受けたことはありますか。
重岡:台本を読んだ時に思ったのは、なにかを始めるのに遅いことはないという言葉は刺さったし勇気づけられた。あのとき、こうしておけばと思うことばかりじゃないですか。どんな年代でも思うと思うし、でもそうじゃないって信じたい自分もちゃんといる。信じられるきっかけをこの作品がくれるような気もしたから、この作品と見つけに行けたら最高やなと思っていました。
――物語の内容にちなみ、35年後の自分はどうなっていると思いますか。
重岡:70歳いかないくらいかぁ。70歳かぁ。決めているのはデッカイ犬を飼いたい。
上白石:名前を決めてるんですよね。私は聞いて爆笑しました。重岡さんがつけそうな名前です。
重岡:名前は秘密(笑)。大型犬を散歩して走りたいんです。悠々自適な生活がいいな〜って。
上白石:でも70歳で大型犬と走ってるのは元気いっぱいですよね。
重岡:元気いっぱいでいたいんです。仕事とかプライベートがどうなってるかわからないけど元気いっぱいでいたいです。
上白石:私は還暦過ぎくらい。家族がいるかなぁ。いたらいいな。私は猫を飼いたいです。こたつを置いて。縁側で。ゆくゆくは髪を真っ白にしたいのでその準備ということでグレーですかね。
重岡:いいよねぇ。
――ちなみに猫の名前は?
上白石:まだ決めていないので、35年をかけて決めます!(笑)