日本を一時存亡の危機に陥れ、なお福島県内外で深刻な影響が続く原発事故で、誰一人として刑事責任を負うことがなくなった。東京電力福島第1原発事故を巡り業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣2人の上告審で、最高裁の決定により無罪が確定する。避難中の被災者はやるせない思いを吐露し、関係自治体の首長は東電に対し安全に廃炉を全うするよう求めた。
帰還困難区域となった浪江町赤宇木から川崎市に避難している今野斉さん(70)は、東電旧経営陣の無罪確定を家族から聞いたという。「私らは置いてけぼりなのかな」とつぶやいた。山間部にある古里は今も避難指示が続き帰ることができない。原発の稼働を続けてきた東電について「やるからには責任を持つのが当然、事故起こさないようにするのが普通でしょ。不本意だよね、あの人たちが罪に問われないなんて。これだけ被害に遭った人たちいっぱいいるんだもん。生業を奪われて、もっと違う暮らしがあったんだろうと思うけれど」と口にした。
また、帰還困難区域になった浪江町津島地区で国と東電に古里の原状回復などを求めた「津島原発訴訟」で原告団長を務める今野秀則さん(77)は「10万人以上の避難者を生んだ事故を起こしながら、結果的に刑事責任が問われないなんて理不尽だ」と憤った。
2023年3月末に同地区の一部で避難指示が解除されたが、帰還の動きは少なく、医療機関や商店なども再開はしていない。今野さんは「大企業になれば責任の所在があいまいになり、誰も責任を取ろうとしない。今も私たちは避難生活を強いられ続けているのに……」と不満を募らせる。現在も仙台高裁で2審が続いており、「刑事裁判ではないので一緒にはできないが、影響があってもおかしくはない。そういう意味でも今回の最高裁の判断は残念だ」と話した。
一方、福島第1原発が立地する大熊町の吉田淳町長は「判決として受け止めざるを得ない。しかし、被災者の中には割り切れない思いの人も少なからずいると思う」と指摘。そのうえで「大切なのは我々が経験したような悲惨な事故を二度と起こしてはならないということ。東電はあらゆるリスクを想定して、安心安全を最優先に廃炉に向けた取り組みを着実に進めてほしい」と注文を付けた。
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同じく福島第1原発が立地する双葉町の伊沢史朗町長は「司法の判断についてはコメントする立場にないが、東京電力は事故を忘れることなく安心安全を最優先に廃炉を着実に進めてほしい」と望んだ。
内堀雅雄知事は「訴訟に関することであり、コメントは差し控えたい。東京電力はあらゆるリスクを想定し、安全安心を最優先に、廃炉に向けた取り組みを着実に進めてほしい」との談話を発表した。【渡部直樹、松本ゆう雅、錦織祐一】
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