
【写真】物語は2020年のコロナ禍に マスク姿で働く結(橋本環奈)たち
■「このドラマで描くべきものは何か」という問いに対する答えが見えた気がした
――コロナ禍をテーマに、病院を舞台に描くことは最初から決めていたのでしょうか?
宇佐川統括:そうですね。もともと管理栄養士さんを題材にしたドラマを作ろうと考えた時に、関係者の方々にお話を伺いました。その中で、コロナ禍における大変さはドラマとしても一つの注力すべきポイントだろうと感じました。医療従事者や関係者の方々が当時どんな思いを抱えていたのか、どんな困難があったのかは、これまでドキュメンタリーなどでも伝えられていますが、子どもから大人までが一緒に語れる枠、それこそ朝ドラなどではそこまで詳しく語られてこなかった。一般の方々にとっても、あの時期は「死」が身近にあるかもしれないという不安や恐怖を感じた期間だったと思います。だからこそ、その舞台裏を描くことには大きな関心を持ってもらえるのではないかと考えました。
また、医師や看護師の姿はよく取り上げられていますが、病院の食事がどのように提供されていたのか、管理栄養士の方がどんな工夫を行っていたのかは、あまり知られていません。そこに焦点を当てることで、改めてあの時に何が起こっていたのかを伝えられるのではないかと。最初から、その視点でのドラマ制作を目指していました。
――実際に管理栄養士の方に取材をする中で、印象に残っているエピソードはありますか?
宇佐川統括:コロナ禍では、管理栄養士さんが患者さんと直接関わる機会が大幅に制限されてしまいました。それでも、「何もしない」という選択はせず、間接的にでも患者さんとコミュニケーションを取る方法を模索されたそうです。「食事をただ提供するのではない。食を通じて心が通い合うことが大切なんだ」と強く実感されたそうです。当たり前のように思えることですが、改めてその重要性を再認識されたのだと。
手紙を通じて感謝の気持ちを伝えたり、どういう意図でこの食事を提供しているのかを伝えたりすることで、心のつながりを作っていく。その話を聞いたときに、「このドラマで描くべきものは何か」という問いに対する答えが見えた気がしましたし、取材しながら、純粋に感動しました。
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宇佐川統括:そうなんです。実際にはもっと多くのエピソードがあったのですが、すべてを盛り込むことは難しくて…。今回は、コロナ禍の中でも序盤の“一番大変な時期のお話”にしぼりました。
医療従事者や関係者の方々は、本当にさまざまな工夫をされていました。取材をしていても、こんな苦労があったのかと。例えば、この時期の患者さんは、コロナにかかっていない人でも、会話する機会が減ったことで、残食率(食べ残す割合)が上がったという話も印象的でした。10〜20%も食べ残しが増えたそうです。つまり、一人当たり1〜2割の食事を食べなくなった。その話を聞いたとき、「食」は当たり前のものではないことを改めて考えさせられました。ただ食べるだけでなく、その背景にある思いや関わる人々の存在が、やはり重要なのだと強く感じました。
■描くからには、次に繋がってほしい
――そうした医療従事者の努力がある一方で、医療従事者の家族が周りから当時どのように見られていたのかというエピソードも今後描かれます。
宇佐川統括:実際に、同じような出来事があったと聞いています。ただ、当時は発言をされた人にも悪意があったというよりも、不安や恐怖を抱えていた中で、口にしてしまったこともあると思うんです。
だからこそ、このエピソードを描くことで、「もし同じことが再び起きたらどう行動すればいいのか?」を考えるきっかけになればと思いました。それは、震災を伝えることとも通じています。過去の出来事を描くだけでなく、それが次に繋(つな)がってほしい。子どもたちにどう伝えるか、私たちはどう行動するべきか、そんな問いかけをする作品にしたいと考えました。
――ちょうど東日本大震災が起きた3.11のタイミングで、コロナ禍を描くことになりましたが、狙いがあったのでしょうか?
宇佐川統括:3.11に何を描くかは、多くの方が気にするポイントだと思います。しかし、私たちはより大きな視点で捉えました。つまり、「私たちは未曾有の危機に直面したとき、どう向き合い、どう乗り越えていくのか?」というテーマです。だからこそ、この時期にコロナ禍の話をすることも意味があると。震災にもコロナ禍にも共通する課題だと思いました。
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(取材・文:川辺想子)
連続テレビ小説『おむすび』はNHK総合にて毎週月曜〜土曜8時ほか放送。