
名作児童文学『オズの魔法使い』に登場する魔女たちの知られざる物語を描き、2003年の初演から20年以上にわたり愛され続ける大ヒットブロードウェーミュージカル「ウィキッド」を映画化した2部作の前編『ウィキッド ふたりの魔女』が3月7日から公開された。本作で、後に「西の悪い魔女」となる主人公エルファバ(シンシア・エリヴォ)の妹のネッサローズ(マリッサ・ボーディ)の声を吹き替えた田村芽実に話を聞いた。
−まず、今回吹き替えをすることになった経緯からお願いします。
1人でブースに入ってという形のオーディションを受けました。それほど時間がたたずに役に決まって、収録もすぐに始まった感じでした。
−では、吹き替えが決まった時の気持ちは?
もともと学生時代から「ウィキッド」が大好きで、エルファバをやりたくてこの世界に入ったので、こんなふうに映画に携われるのは、夢がかなったような気がしました。また吹き替えのお仕事は初めてだったので、すごく練習してから現場に入りました。
−今回、吹き替えをするに当たって、何か気を付けたことや心掛けたことはありましたか。
映像を見ながら、実際に演じている人と同じ距離感で話すように心掛けました。映像に映ってる人が下を向いていたら、その気持ちになるというか。でも下を向いたら声がマイクに乗らないので、なかなか難しかったです。いつも舞台に立ったりお芝居をする時は、この時のこの役の心情はどうなんだろうと架空のものを思い浮かべますが、吹き替えの場合は、この役を演じている人は今どういう心情でやっているんだろうと考えます。今までとは違った役に対するアプローチの仕方だったので、難しくもありましたが、新鮮でもあり、とても楽しかったです。何かちょっと職人に近い感じの作業だった気がします。本当に地道な作業でしたが、課題が一つ一つクリアになっていく過程がとても楽しくて、またやりたいなと思いました。
−今回吹き替えたマリッサ・ボーディについてはどう思いましたか。
彼女は実際に車いすに乗っているんです。そういった方が起用されたことに多様性を感じて、時代がどんどん進んでいると思ってうれしい気持ちになりました。今回は私も吹き替えの歌やお芝居をずっと座ったままでやりました。普通に立ったり歩けたりする人が座ることで出てくる音色とは違うので、彼女はどこに重心があるんだろうと考えてお芝居をしました。彼女のお芝居は、本当に透き通っていて、演じたネッサローズと同じように、ご自分も車いすで生活をしていらっしゃるので、きっと重なる部分がたくさんあると思って演じていたと思います。なので、私も少しでもそこに近づけるように努力しました。
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−2人の主人公、エルファバを演じたシンシア・エリヴォとグリンダを演じたアリアナ・グランデ。彼女たちについてはどう思いましたか。
もともとシンシアさんのお芝居はたくさん拝見していて、すてきな女優さんだと思っていました。アリアナさんは歌手としてのイメージがすごくあったので、全く想像がつかなかったのですが、映像を見た時にこうやってあのグリンダを演じたんだという衝撃を受けて、素晴らしいと思いました。もう世界中で数々の役者が演じてきている役ですけど、お二人とも自分だけのエルファバとグリンダを演じていて、みんなの期待に応えながら、そこに自分らしさというエッセンスを混ぜ込んでいるので、この作品のメッセージとも重なると思って感動しました。
−「ウィキッド」の基は映画『オズの魔法使』(39)ですが、ご覧になりましたか。
「ウィキッド」のミュージカルを見た後で見ました。80年以上も前の映画ですけど、あの時代にこのセットで、この演出でやったのがすごいなと。そこに魅力を感じました。今回の映画は最先端の技術とアナログなセットが混ざっていて、昔の『オズの魔法使』ではできなかったようなことをCGなどを織り交ぜてやっていると感じました。
−この映画を見ると、悪い魔女がかわいそうに見えてきます。それからジェンダー、女性差別、人種の問題など、いろんなメッセージも入っています。そこが新しい視点ですね。
この映画はエルファバを通して、自分で自分を認める。誰に何と言われようとも、自分の信じる道や信念を貫く。たとえ世界中から後ろ指をさされても、悪い魔女と言われようとも、自分の信じる正義を貫くことを描いていると思います。だから、自分の思っていることを声に出せなかったり、何かもどかしい気持ちになっている方たちには勇気を届けられる話だと思います。一方、グリンダは、自分の信念や正義を、ちょっと折り曲げて解釈している部分があって、それもまた今を生きる私たちに近いものがあると思います。そんな2人の対照的なところが大好きだし、何よりそれを女性が主役で演じている、作られていることに時代の最先端だと感じます。
−完成版を見た印象を。
どのシーンもすてきで素晴らしかったんですけど、特にほかのミュージカルとは違うと思ったのが、フィエロ(ジョナサン・ベイリー)がソロで歌うシーンの演出で、胸がときめきました。それから、ミュージカル舞台のバージョンだと、エルファバが空を飛んだりするところはありますが、シズ大学の仕掛けはあまりないんです。だからこの映画では『ハリー・ポッター』のような感じもあって、そんなところを見て楽しめるのもすごいと思いました。
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−映画の見どころも含めて、これから見る観客や読者に向けて一言お願いします。
最近ミュージカル映画のヒット作が多いと思いますが、この映画のすごいところはメッセージ性だと思います。ミュージカル映画は、華やかさや、歌がすごい、ダンスがすごいという印象で終わってしまうこともあると思いますが、この映画にはそれを超えたメッセージ性があります。例えば、エルファバの緑の肌や話をする動物たちの姿を通して、いろいろな差別的なことや、世の中の課題を抽象的に描いています。おとぎ話の延長線上的な感じで、どんな役にも感情移入できるところが、この映画の素晴らしさだと思うので、見に来ていただけたら、そうしたことを感じ取っていただけると思います。
(取材・文・写真/田中雄二)
