後藤渚さん(左・45歳)、後藤繫雄さん(右・70歳)厚生労働省の人口動態統計によると、2019年の初婚夫婦の年齢差は、同年齢の21.0%が最も多い。次いで夫が1歳上で、同年代同士の結婚が多いことがわかる。
一方で、夫婦で10歳以上離れた「年の差婚」を選択する者もいる。ニュースで話題になる芸能人だけでなく、一般人でも存在するのだ。なぜ、その選択に至ったのか。一緒にいることで、周囲からどう見られるのか。
今回は25歳差夫婦である編集者・アートプロデューサー・大学教授・ハイパーミュージアム飯能館長の後藤繁雄さん(70歳)、妻の後藤渚さん(45歳)に話を聞いた。
◆きっかけは震災と夫の言葉「墓で待ち合わせしよう!」
——二人が出会ったきっかけは何でしたか?
繁雄さん(以下、繫雄):顔見知りになったのは2004年で、僕が50歳で渚が26歳の頃だね。僕の行きつけのカフェで、セラピストの渚がマッサージのイベントをやっていたんです。その時に、共通の知り合いが紹介してくれました。
当時の渚は京都に住んでいたけど、僕は東京に住んでいて、京都には仕事で来ていて、遭遇したりはしたけど、まさか後に付き合うとは思いもしなかったですね。
渚さん(以下、渚):あの時は「俺は70歳くらいで、あと20年で死ぬから」って言ってたのに、今もピンピンしてるのは想定外でしたよね(笑)
——どうして付き合うことになったのですか?
渚:仲が深まったのは、2010年の頃です。繫雄さんが健康や食に関する本をプロデュースする中で、カラダや食べ物のことを調べていました。私はセラピストとしてそれらのことについて詳しかったので、よく話すようになりました。
繫雄:あとは、2011年の東日本大震災が大きいです。僕は耐震がしっかりしたマンションに、一人で住んでいました。前の奥さんとは離婚が成立して、子供も成人したから。再婚とか全く考えてなかった。でも、渚が住んでいたマンションが壊れちゃって、そこで「家が壊れたなら、一緒に住むか?」って流れになりました。
渚:実は、あの時は違う男性と同棲していたんです。でも「このまま一緒に住んで、結婚しても、不安しかないな」と悩んでいました。
震災があったこともあり、死についてよく考えていたのですが、その彼は「未練が残ったり、死ぬことが嫌だ」と言っていました。一方で、繁雄さんは「死ぬなんて当たり前のことじゃないか! 墓で待ち合わせしよう!」と笑い飛ばしたんです。繫雄さんの死生観に衝撃を受けたのと、家が壊れたこともあり、2012年から同棲を始めました。
◆結婚の理由は「学生に噂されるのは良くない」から
——そこから結婚に至った理由は?
繫雄:僕は京都の大学で教えていて、東京からかよっていたんですが、友人が西陣の町屋を手ばなすことになり、東京から引っ越すことになったんです。東京と京都、二拠点生活の僕が61歳で渚は38歳だから、一緒に歩いていると「先生が若いガールフレンドを連れている!」と学生の間で噂になって、学生に良くない。だから入籍することにしました。
渚:「あの“私生活が見えない後藤”が、奥さんと歩いてる!」って、話題になりましたね(笑)
——ご友人からの反応はどうでしたか?
繫雄:同世代からは「犯罪」とか「羨ましい」とか言われます。英語圏の人にも「You are lucky guy!」って驚かれるね。僕らはいたって「普通」なんですが(笑)。
渚:友人からは「大丈夫? (繫雄さんが)先に死ぬじゃん」って心配されました。でも、私の方が先に死ぬかもしれないし。周りの意見より、自分の気持ちを大事にした方が、後悔しませんよね。親戚やきょうだいとは縁が薄く、とくに何も言われませんでした。
◆残されている時間が少ないから、なるべく一緒にいる
——私生活をSNSで発信されていますが、どんなコメントが来ますか?
渚:「年齢なんて関係ない! お幸せに!」という好意的なコメントが多いですが、たまに嫌なコメントも来ます。たとえば、「介護だね」って書かれたりすることも……。
繫雄:男性から「羨ましい、僕も25歳差の彼女が欲しい」とかも来るよね。あと、国境を超えて、思わぬところからコメントが来たりします。
シチリアに住んでいるカップルから「私たちも25歳差です!」って急にコメントが来たこともあったな。年の差夫婦は珍しいから、見つけると嬉しくなるんでしょうね。
——年の差婚ならではのエピソードはありますか?
繫雄:僕は渚のことを「かあちゃん」って呼ぶから、外で腕を組んで歩いていると「え? あの二人の関係性って、どうなってるの?」って目で見られます(笑)。
渚:残されてる時間が同世代の男性よりも少ないから、なるべく一緒にいるようにしています。一泊でも出張があればついていきますし、日帰りの時は駅まで送迎しています。
セラピストの仕事を辞めたのも、彼が突然倒れても、助けることができるようにするためですね。彼ががん家系ということもあり、出会った時から「俺はあと20年で死ぬ」って言われていましたし。
繫雄:70歳をすぎても意外と元気だから、このままだと90歳くらいまで生きそうだけどね(笑)
◆ジェネレーションギャップも。新しいテクノロジーを使わない、昭和のお笑いネタを披露…
——旦那さんが年上だと、ジェネレーションギャップを感じてしまうことはありませんか?
渚:彼は新しいテクノロジーを使おうとしないんです。彼から「Facebookからログアウトしてログインできないから、やって」「Googleマップとか分からないから、場所を調べて」と言われるたびに、何度も教えるんだけど、絶対に覚えようとしません。
ちなみにパソコンは絶対に使わずに、スマホだけ……。何十冊も本を書いているのに、ぜんぶスマホのフリック入力なんです。ZoomのセッティングもSNSも、すべて私がやっています。
一方で、私が昔読んでいた雑誌の編集者をしていたこともあって、文化的なギャップはあまり感じません。むしろ、私の好きなカルチャーを発信していた側なので。
彼から昭和のお笑いのネタを披露されて「え、知らないの?」ってびっくりされた時には、ジェネレーションギャップを感じますが……(笑)
——奥さんが25歳も年下だと、物足りなさを感じることはないのですか?
繫雄:全くないね。渚のことは、別に隠したりもしていません。仕事相手には奥さんとして紹介するし、逆に紹介しないのはダサいと思っています。海外ではあたりまえだから。今まで付き合った女性の中で、こんなことは初めてで、今までとは全く別の、新しいタイプのパートナーだと思っています。
——アートとは違う業界出身なのに、そう思えるのですね。
繫雄:実はアートもセラピーも、「五感」に訴えるという意味では近い仕事です。ジャンルがちがっても、一緒にご飯を食べて「美味しい」と思う味覚を共有することはできますよね。美術館に行って、きれいなものを見て、視覚を共有することもできる。それで楽しければ、違う業界とか、関係ない。
◆型にはまった夫婦の在り方よりも、お互いを愛し合えるような選択を
——もっと若い女の人が出現したらそちらに、ということは……。
繫雄:他の女性が歩いていても「こっちの女の方がいい」とは一切思わない。人生経験豊富だしね(笑)。誰かと比べるとかじゃなくて、渚のことは唯一無二だと確信できています。
渚:年齢より大事なのは相性ですよね。私も「他にこんな男性はいないな」と思っています。モラハラもされないし、マウンティングもされないし、意外と素直。私の要望を伝えると、ちゃんと叶えようとしてくれます。
勘違いされがちですが、年の差婚はメリットの方が大きいんです。同世代にない、全く違う価値観を知れたり、普通だったらできない経験ができたりします。
若い時は、どうしても今だけを必死に生きてしまいます。でもどちらかが年上だと「残りの時間はどれくらいなんだろう」と考えますよね。そうすると、相手を思いやる余裕ができるんじゃないでしょうか。
年の差婚では、残りの時間がそんなに長くないんです。私たちは残り20年しかなくて、せっかくなら、一緒にいて楽しい人と過ごしたいですよね。
繫雄:人生は一回しかない。だから、型にはまった夫婦の在り方よりも、お互いを愛し合えるような、ラブリーな人生を送ることができるような選択をした方がいいね。
——残りの人生を誰と過ごすか。彼らの幸せそうな笑顔は、型にはまりがちな私たちに、問いを投げかける。
<取材・文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother