長崎市の病院で管理職の看護師長として働く女性(59)が、時間外労働の申告に厳しい職場風土があり「自己啓発」と申告せざるを得なかったなどとして、病院を運営する医療法人に時間外労働の未払い賃金など963万円を請求する訴えを長崎地裁に起こした。女性は新型コロナウイルス禍への対応などで長時間の時間外労働を強いられたと訴え、「訴訟を通じて実態を知ってもらい、看護師が正しく時間外労働の申告ができるよう、職場環境の改善につなげたい」と語る。【樋口岳大】
女性は1992年に正看護師になり、現在働く長崎市の中規模病院に99年から勤務。訴状などによると、病院では出退勤時に機械で認証を受けて時刻を記録するが、それとは別に部署ごとに紙の勤務時間記録表がある。機械での認証時刻と、始業、終業時刻との間に15分以上の差があれば、職員は記録表に「自己啓発」「交通事情」などの理由を書き込み、時間外労働が発生した場合も理由を記すことになっている。
時間外労働の申告には上司の承認が必要だった。女性によると、時間外の申告に厳しい態度を取る上司がいて、同僚の退職や産休などで時間外の申告が増えた際に「なぜこんなに時間外が発生するのか」と上司から問いただされたことがたびたびあった。このため、女性は時間外労働の一部しか申告できず、残りは「自己啓発」などと記さざるを得なかったと訴えている。
女性は2022年2月、多くの看護師らの業務を管理する看護師長になった。新型コロナウイルスの感染拡大で、採血や問診などの通常の仕事に加え、PCR検査の結果報告▽職員や家族に濃厚接触者や陽性者が出た場合の人員調整▽患者や職員からの症状や検査の問い合わせへの対応――などもしなければならず多忙を極めた。
女性は業務をこなすため、所定の始業時刻より1時間程度早く仕事を始め、休憩は所定の半分の30分しか取れず、残業もしたが、時間外労働は一部しか申告できなかったと訴えている。女性の代理人弁護士によると、機械の認証記録では時間外労働が月104時間に上ったのに実際に申告できたのは14時間だけだった月もあったという。
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女性は時間外労働の未払い賃金541万円、付加金422万円の支払いを求めて1月9日付で提訴した。
看護師の仕事は患者への対応だけでなく、院内の医療安全や感染対策のために義務付けられた委員会活動などもあるが、女性は「委員会の議事録作成や始業前の患者の情報収集などは『自己啓発』とみなす古い体質が、看護師の世界にはある」と指摘する。
女性は60歳になる来年1月に管理職を外れる管理職定年を迎える。その1年前に提訴した理由について、「看護はすばらしい仕事で自分も成長させてもらい、職場に感謝すべき点もたくさんある。だからといって時間外労働を申告させない風土を認めるわけにはいかない。労働の対価はきちんと支払ってほしい。みんなが働きやすい環境を作るため、訴訟を通じて自分の思いをきちんと伝えたい」と語る。
医療法人の代理人弁護士は取材に「今後の訴訟の中で、適法に処理してきたことについて主張、立証していきたい」と答えた。
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