休館のDIC川村記念美術館は六本木に移転へ 国際文化会館敷地内に「ロスコ・ルーム」を新設 DICの池田氏らが記者会見で表明

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2025年03月13日 13:00  OVO [オーヴォ]

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国際文化会館の庭園で記念撮影に応じる池田社長(左)と近藤理事長

 千葉県佐倉市にある、現代美術のコレクションで知られるDIC川村記念美術館をご存じだろうか。投資家の意見などを理由に、運営する化学メーカーのDIC(旧大日本インキ化学工業、池田尚志社長)は、DIC川村記念美術館を移転・縮小させ、4月には現在の美術館を休館することを決めていたが、所蔵する米国の画家マーク・ロスコの抽象絵画「シーグラム壁画」全7点など貴重なコレクションの行く先に注目が集まっていた。

 DICの池田社長は3月12日午後、都内で記者会見し、東京・六本木の公益財団法人国際文化会館(近藤正晃ジェームス理事長)に移転することを明らかにした。両者がこの日、アート・建築分野を起点とする協業に合意した。

 具体的には、国際文化会館敷地内に新館を建設し、「シーグラム壁画」全7点を一つの部屋の中で鑑賞できる「ロスコ・ルーム」を常設展示するほか、所蔵する20世紀美術品を中心に移す。国際文化会館の所在地である、「六本木5丁目再開発計画」に合わせ、新館は現時点で2030年の完工を予定している。



▽「奇跡的に出合えた」と池田氏

 DIC川村記念美術館は創業家出身の2代目社長川村勝巳氏が1990年に設立。千葉県佐倉市の緑豊かな北総台地に開館し、敷地内には季節の移ろいを感じさせる庭園が広がり、館内には、レンブラント、モネ、ピカソら巨匠と呼ばれる画家の名作に加え、現代美術で知られるジャクソン・ポロックの作品や、マーク・ロスコの壁画全7点を一堂に鑑賞できる「ロスコ・ルーム」の展示室などがあり、多くの鑑賞者を魅了してきた。

 この日は、DICの池田社長と、国際文化会館の近藤理事長が共同で記者会見した。池田社長は「美術館の30年を超える活動と思いを継承し、これからの時代にふさわしいあり方を美術館関係者らと模索してきました」とした上で「模索の過程で、国際文化会館様と奇跡的に出合うことができました」と述べ、世界的なアートコレクションを所有する企業として、国際文化会館という協業パートナーが現れた喜びを示した。DICは国際文化会館とともに、「ロスコ・ルーム」を共同運営し、アート・建築の力によって民間外交・国際文化交流を推進する「公益プログラム」を展開する計画だ。

 池田社長はDIC川村記念美術館が所蔵する作品は「どれも素晴らしいものだ」と強調する一方、移転後の「ロスコ・ルーム」をどのように継承させるのか、真剣に考えてきたという。「(DIC川村記念美術館内の)専用展示室は絵と建築が一体化した場として鑑賞者を包み込み、言葉を超えた世界へと誘って、(画家、建築家らの)思いや工夫が詰まった素晴らしい展示室です。(移転先で)同時に7点の連作を一室で満たす空間を確保するのは、とても困難な課題」だったからだ。

 そのような課題を抱える中、「国際文化会館様が建設する新しい建物への移転が決まりました。コラボレーションは始まったばかりですが、まずはこの『ロスコ・ルーム』を皮切りに、協業にかける思いを皆さまに感じ取っていただきたい」と意気込みを語った。


▽「静かな内省をもたらす場に」

 国際文化会館の近藤理事長は同会館について「日本における民間外交と国際文化交流のパイオニアです。1952年の設立以来、一貫して、日本・アジア太平洋地域の平和と繁栄に貢献してきました」と説明した。

 近藤理事長はDICとの協業について「国際秩序が揺らぎ、国家間の対立が深まる中で、民間外交や国際文化交流の重要性は一層高まります」と指摘。「(新設される)常設展示室『ロスコ・ルーム』が対立する人々の心に静かな内省をもたらし、相互理解を深めることで、平和を生み出す場となるならば、まさに歴史的な意義を持つことでしょう」と力を込めた。

 国際文化会館の敷地内に新設される「新西館」は、建築界のノーベル賞といわれる、プリツカー賞受賞者のSANAA(サナア、妹島和世さんと西沢立衛さんの建築ユニット)が設計する。

 また、千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館の今後の活用について池田社長は「佐倉市、地元の住民の方々と協議をしながら進めてまいりたい。庭園についてはしばらく一般開放し、皆さまに来ていただきたいと思っています」と述べ、具体的な方向性を話し合っていることを示した。

 DICは当初、今年1月下旬からの休館を発表していたが、佐倉市長、地元財界の代表らでつくる団体が署名を集めるなど、地域からの「存続」の要望があった。そのような追い風を受け、休館時期を3月下旬に変更すると発表。直近の来館者数は「例年の4倍の規模になっている」(池田社長)という盛況ぶりだ。「(署名や来館を通し)、私たちを支えていただき、本当に感謝しています。その支えが、今回の国際文化会館様との協業という素晴らしい取り組みにつながったと思っています」と話した。

 保有する美術品(全754点、うちDIC保有は384点)については、段階的に売却し、約4分の1に減らすことを決めており、売却により2025年12月期中に、100億円以上の現金収入を見込んでいる。


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