写真はイメージです タワーマンション(タワマン)の人気は衰えることを知らない。特に東京は、全国のタワマンの約3分の1を占め、約500棟もある。少なからずの東京人にとって、「いつかはタワマンに」という想いを持っている人も多いだろう。
今回お話を伺った竹中信勝さんは、その夢を叶えたひとり。広告会社の電通在籍時にタワーマンションを購入し、長年の憧れを果たした……が、まさかのハプニングに見舞われる。
それは、マンション管理組合のトップたる理事長に任命されたことだ。前任者からの引き継ぎもなく、実務の知識はゼロ。右も左も分からないまま、理事長として奔走する日々が始まったのである。
今回は、そんな竹中さんに、管理組合理事長の職務を通じて見える「タワマンの知られざる裏側」を伺った。
◆人気の高い最上階は抽選で決まる
——まず、タワマンに住むことになったいきさつを教えてください。
竹中信勝(以下、竹中):電通時代に、名古屋から東京本社に転勤することになりました。そのとき、借り上げ社宅を探して、賃貸のタワマンに住むことにしたのですが、入居したのは低層階で、眺望も良くなく「タワマンに住んでいる」という感覚はなかったです。
ちょうどその頃、近くに新しいタワマンが建設中でした。毎日その前を通って通勤しているうちに、そこに住みたい気持ちが募っていき、最終的には決心して、そのタワマンに申し込んだのです。当初、最上階を希望したのですが、他にも希望者がいっぱいいて抽選となりました。抽選には漏れたのですが、それより少し下の階は空いていたので、そこを購入することにしたのです。
購入するうえで問題となったのは住宅ローンについて。名古屋に買ったマンションがあって、住宅ローンが残っていました。それが残っていると新規で住宅ローンが組めません。そこで名古屋のマンションを売り払い、そのお金でローンを完済しました。
タワマンの購入資金はほとんどなかったのですが、幸運にも銀行が全額融資してくれることになりました。マンションを購入してから16年目に電通を早期退職しましたが、ローンは現在も返済中です。
◆住宅ローン以外に毎月10万円の負担が…
——タワマンに住むとなれば、住宅ローン以外にも結構かかりそうですね。
竹中:管理費は、住む部屋のサイズによって変わりまして、私は4人家族で4LDKに住んでいますので、これが結構な額になりますね。また、タワマンにはサウナやキッズルームなど共用施設があり、そのための管理費もかかってきますし、10年とか15年おきにやってくる大規模修繕工事の積立金も毎月払います。
こうした諸々の費用はタワマンによっても変わるので、相場は一概に言えませんが、私の場合、ローン以外に毎月10万円支払っている状況です。
◆3倍に上げないと大規模修繕ができない事態に
——では、タワマン管理組合の理事長になってからの話に移りましょう。まず、どのように理事会のメンバーは決まるのでしょうか。
竹中:管理組合は入居者全員が組合員となり、13名からなる理事会のメンバーは抽選で決まります。それで私が心の準備もなく決まってしまった感じです。ネットで調べてもわからないことだらけで、問題が起きるたびにひとりで考えたり、誰かに相談したりと、かなり苦労しました。
——引き継ぎもマニュアルもないまま、未知の世界に放り出されたら大変ですよね。
竹中:そうですね。特に苦労したのが「修繕積立金」についてです。不動産会社が売り出していたときは、購入意欲を下げないよう、かなり安く設定されていました。歴代の理事会は、その金額で据え置いていましたが、明らかに次回の大規模修繕で不足することが判明しまして……。計算してみると、今の月額の3倍にしないと足りないのです。そこで私は理事会で諮り、住民説明会も行って、3倍に上げました。高齢者の方たちは、「老い先が短いのに、そんな金額払うなんて……」との声もありましたが、最終的には皆さんに納得いただきました。
◆防犯カメラがあっても不法侵入が絶えない
——大勢の人が住むマンションなので事件などもあったかと思いますが、そのあたりのお話を聞かせていただきたいです。
竹中:不審者の侵入は多かったですね。基本的にエントランスのドアは、住人しか開けられないようになっています。でも、インターフォンを適当に押して「宅急便です」と言えば不審がられずに開けてしまうので、簡単に入れてしまうのです。もう1つのやり方は、エントランスの前で待っていて、住人が開けて入った時に、さりげなくその後から入る方法。防犯カメラのモニターをずっと見ていたときに、その手口に気がつきました。
ある日、3個のトイレットペーパーが便器の中に投げ込まれる事件が起きまして……。たくさんの防犯カメラがありましたが、さすがにトイレには設置できません。いったい何が目的だったのかわかりませんが、犯人が出入り業者だったと後日判明しました。
◆強風でエアコンの室外機が飛んだ
——台風や地震など、気候変動もあいまってタワマンも、その被災リスクはありそうですが、具体的に危なかったことはありましたか?
竹中:上層階で、壁面に穴が開いていたということがありまして……。これは落雷でできた穴だと聞きました。「避雷針があるのになぜ?」と思いましたが、そのままにしておくわけにもいきません。もし壁面から建材が崩落したら、地上を歩く通行人に危険なので、大惨事になる前にカラーコーンを置いて立ち入り禁止とし、ひとまず安全対策をとりました。その後、補修にいくらかかるか調べて、管理会社に工事を発注しました。
ほかにも、台風が来たとき、エアコンの室外機が飛ばされ、ガラスにぶつかって割れたということもありましたね。信じられないかもしれませんが、タワマンの高層階は、とてつもない強風に煽られることがあります。付近のタワーマンションでは、網戸が飛んだという話も聞きました。理事長になると、本当にいろいろなトラブルが発生して、そのたびに悩みましたね。
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竹中さんは、華やかなタワマンライフの裏で「理事長」という思いがけない重責を背負うことになり、思いがけない苦労や現実を知ることになったという。後編となる次回は、騒音などをきっかけに勃発する住人同士のトラブルなど、よりリアルな話をお届けする。
取材・文/鈴木拓也
【竹中信勝氏】
1961年10月生まれ。電通に新卒入社。営業担当として多数の業種を担当し、新規顧客の開拓で140社以上の実績。ライフシフトの人生100年時代を見据えて同社を早期退職。現在は。「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」のスターティングメンバーとして活躍中。2022年3月、社会構想大学院大学実務家教員養成課程修了。著書に『タワマン理事長 – ある電通マンの記録 -』(ワニブックス)がある。
【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki