
フォルティウス
吉村紗也香インタビュー(後編)
日本カーリング選手権 横浜2025を制したフォルティウス。3月15日からはミラノ・コルティナ五輪の日本代表出場枠獲得を目指して、韓国・議政府市で開催される世界選手権に臨む。その大一番を前にして、スキップの吉村紗也香に大会への意気込みを聞いた――。
前編◆フォルティウス吉村紗也香が振り返る日本選手権の激闘>>――フォルティウスは日本代表として、3月15日に韓国・議政府市で開幕する世界選手権に挑みます。初日から昨年銅メダルの韓国代表と対戦し、続く2日目には同4位のイタリア代表、中国代表とのダブルヘッダー。さらに3日目には、同銀メダルのスイス代表と戦うなど、いきなり強豪との連戦になります。
吉村紗也香(以下、吉村)どのチームも対戦するのが楽しみです。特にチーム・トリンゾーニ(スイス代表)やチーム・ホーマン(カナダ代表)は、すべてのプレーの精度が高く、アイスを読むのが早い、強いチームですが、今季対戦していていい試合ができているので、手応えは感じています。
――そういう世界レベルのチームに対して、フォルティウスの強みはどこですか?
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吉村 やっぱり粘り強さです。日本選手権でも2次予選リーグの札幌国際大学戦で1エンド目に3点取られる試合がありましたが、2エンドですぐに2点取れたのはよかったです。
(自分たちは)後攻でしっかりと2点を取れるチームなので、もちろん複数失点はしないほうがいいんですけれど、もしそうなっても慌てずに後攻で2点を取ることに集中し、クロスゲームに持っていくことがとても大事かなと思っています。その時のアイスをしっかり読んで、ショットをつなげられるか。(世界の)トップチームと戦える、という自信はあります。
――その粘り強いカーリングを支えるチームメイトについて聞かせてください。まずはリードの近江谷杏菜選手。2014年からチームメイトとなって10年が経ちましたが、どんな選手で、どんなキャラクターですか?
吉村 周りをよく見てくれて、みんなが気づいていないところ、いつもと違うなと感じるところに気づいてくれます。試合中も杏菜ちゃんの言葉によって、自信を持ってプレーできています。
――セカンドの小谷優奈選手についてはいかがでしょうか?
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吉村 去年スキップを経験して、戦術面でたくさん吸収してくれています。自分が迷った時にアドバイスをしてくれて、「ああ、確かにそれあるな」と気づかせてくれるので、すごく心強いですし、いろんなショットを決めてくれるので、今のゲームスタイルができています。
――サードの小野寺佳歩選手は日本選手権でMVPを獲得しました。
吉村 日本一のスイーパーだと思っています。ショットの精度も常に高く、昨年からミックスダブルスにも挑戦して、ソフトウエイト系の精度がさらに上がっているので、何があっても佳歩は決めてくれると信じて(ハウスに)立っています。
――フィフスにはチーム最年少の小林未奈選手が控えています。
吉村 昨年はリードとして、今シーズンは佳歩が(ミックスダブルス日本選手権出場で)いない時のグランドスラムではセカンドとして出場しましたが、どこのポジションでもしっかり準備してくれて、いいプレーをしてくれています。チームに欠かせない存在です。
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――世界選手権には残念ながらニクラス・エディンコーチが帯同できません。
吉村 エディンコーチのもと、このシーズンでの取り組みにおいて、自分のなかで得るものがありました。それを、韓国(の世界選手権)でも発揮できればと思っています。
――その代わりに小笠原歩コーチがチームに加わります。小笠原コーチは船山弓枝コーチとともに3度五輪に出場しているレジェンドで、出産を経てアイスに戻ってきた先輩でもあります。
吉村 出産を経験させてもらい、あらためて2人のすごさを感じました。弓枝ちゃんは、今はコーチとしての立場ですが、2人の子どもを育てながら選手としてやっていたんだなと思うと尊敬でしかありません。
――カーリング選手として活躍していても、結婚や出産を機に第一線から身を引く方もいます。それがいいとか悪いとかではなく、吉村選手のなかでは、結婚や妊娠を機に競技から離れる選択肢もあったのでしょうか。
吉村 なかったですね。子どもを産んでアイスに戻ってきたいとずっと思っていました。やっぱりオリンピックに出たい、金メダルを獲りたい、という気持ちは強いです。
――常呂高校時代に出場したバンクーバー五輪トライアルの際、某放送局のスポーツ番組のリクエストで青森市スポーツ会館のグラウンドを走るシーンの撮影を、17歳の吉村選手が何度もさせられていたのが印象に残っています。現GRANDIRの石垣真央選手もいましたね。
吉村 懐かしい! それはなんとなく覚えています。当時はその前の日本選手権でたまたま準優勝できて、トライアルやその先のオリンピックまで自分たちはあまり考えていなかったので、(当時のことは)全然記憶がありません。
――その後、札幌国際大学時代を経て、北海道銀行フォルティウス時代には2021年の北京五輪代表決定戦でロコ・ソラーレと対戦。2戦先勝しながら3連敗を喫して惜しくも五輪を逃しています。
吉村 悔しかったです。でも、終わって少し時間が経ってから「まだ成長過程にいるのかな」と実感できた部分もあって。
――そのシーズン後、トップスポンサーであった北海道銀行との契約が終了。フォルティウスはクラブチームとして、新たな、そして険しい道を進むことになります。
吉村 チームの体制が変わってしまうのは、正直大変な部分もありましたが、それ以上に勝てない時期がしばらく続いてから、やっと戦えるチームになったので、チームメイトもみんな「まだ成長できる」という手応えを得ているタイミングでした。「ここでまだあきらめたくないな」っていうのが本音で、メンバーとみんなのやる気だけはあったから「なんとかなるだろう」という、どこか楽観的な気持ちもありました。
――あれからまた4年が経過して、今度は日本代表としてオリンピックポイントを獲得する立場にいます。
吉村 結果が求められることは理解していますが、日本選手権の時と考え方は一緒かなと思っていて。とにかく目の前のできることに集中していけば、自ずと結果がついてくると信じています。
(おわり)
吉村紗也香(よしむら・さやか)
1992年1月30日、北海道北見市常呂町出身。小学4年生からカーリングを始め、常呂高校時代から日本選手権の表彰台に上がる。札幌国際大学卒業後、2014年に北海道銀行フォルティウスに加入。2018−2019シーズンからスキップを務め、2021年日本選手権で優勝。同年12月、北海道銀行との契約終了によって、以降はフォルティウスのメンバーとして活動。2023−2024シーズンに産休後、2025年日本選手権を制覇。2026年のミラノ・コルティナ五輪出場、金メダル獲得を目指す。好きな食べ物は「芋。芋ならなんでも好きです」。趣味は1歳になった息子の観察。