【「本屋大賞2025」候補作紹介】『カフネ』――弟を亡くした薫子と弟の元恋人せつな。二人の距離は食べることを通じて縮まっていくが......?

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2025年03月14日 18:10  BOOK STAND

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『カフネ』阿部 暁子 講談社
 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2025」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、阿部暁子(あべ・あきこ)著『カフネ』です。

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 英語に「You are what you eat.」ということわざがあります。「私たちは食べたものでできている」とは当たり前のことではありますが、私たちがふだん食べるものは体だけでなく、精神や人生にまで影響をおよぼすことがあります。料理ひとつで生活が整ったり、心が潤ったりした経験が、皆さんにもあるかもしれません。そんな料理を通じた素敵な交流を描いた作品が、今回ご紹介する『カフネ』です。

 主人公は法務局に勤める41歳の野宮薫子。彼女は最愛の弟・春彦が急死したことで悲嘆に暮れる日々を送っていました。そんな中、春彦が遺言書を遺していたことから、春彦の元恋人・小野寺せつなをカフェに呼び出しますが、せつなは20分以上遅刻してきたうえに遺産の受け取りを固辞。あまりに冷淡な態度に、薫子は怒りが沸騰して立ち上がったものの、その場に倒れてしまいます。

 彼女を介抱し、マンションへ運んでくれたのはせつな。彼女は薫子の体調がよくないことを察し、冷蔵庫やキッチンにあった材料で、トマトとツナの豆乳煮麺を作ってくれました。弟の死のほかにも夫との離婚や不妊治療でボロボロになっていた薫子は、そのやさしい味わいが心にしみて泣いてしまいます。

 やがて薫子は、せつなが勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことになりました。二人の仲は次第に縮まっていきますが、あるとき明かされた春彦の死の真相は、薫子の予想だにしないものでした......。

 面倒くさいほどに生真面目な薫子と、料理上手だけれどつっけんどんなせつな。親しくなるはずのない二人が、弟の死と料理を通じて交流を深め、周りの人たちの助けにもなっていくという点が、同書の見どころの一つです。甘いパフェ、アニメに出てくるような骨付き肉、マグカップで作るプリン、チャーハンおにぎり......せつなが振る舞う料理はどれもおいしそうで、薫子とともにこちらまで高揚した気分になるはず。

 いっぽう、終盤で次々と明かされるのは、春彦やせつな、薫子の元夫・公隆など、それぞれが密かに抱えていた悲しさや苦しみです。薫子が最後に選んだ決断には、人は癒やし、癒やされて生きていくものだというメッセージが伝わり、深い感動が広がります。食べることを通じて紡がれる優しくてせつない物語は、皆さんの心に温かな読後感を残してくれることでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]



『カフネ』
著者:阿部 暁子
出版社:講談社
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