「伊沢拓司のパワーに惹かれて」クイズノック運営会社代表が語る誕生秘話 「倒産間際」から急成長の軌跡

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2025年03月14日 20:03  TBS NEWS DIG

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TBS NEWS DIG

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YouTubeで登録者246万人を誇る、東大発の知識集団「QuizKnock(クイズノック)」。伊沢拓司を筆頭に、メンバーがテレビなど各メディアで活躍するほか、イベントやグッズ制作、企業や官公庁とのコラボレーションも活発です。そんなQuizKnockの立ち上げの裏側には、「崖っぷち」に立たされた運営会社の危機がありました。なぜQuizKnockは生まれたのか? そしてなぜ倒産寸前から、急成長を遂げることができたのか? QuizKnockを運営する株式会社baton(バトン)代表取締役・衣川洋佑さんに聞きました。

<東京ビジネスハブ>
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターのPodcastプロデューサーである野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。本記事では2025年2月2日の配信「『もう会社をたたもうか・・』 倒産間際のベンチャーから QuizKnock の誕生まで(衣川洋佑)」を抜粋してお届けします。

プレゼンター・衣川洋佑(きぬがわ・ようすけ)
株式会社baton代表取締役。大学卒業後、株式会社ワークスアプリケーションズで新規事業開発を担当し、企業のコンサルティング、教育サービスの開発・提供などに従事。2013年に株式会社batonを設立し、「遊ぶように学ぶ世界」をビジョンに掲げ、QuizKnockを運営。2023年からは佐賀県の東明館学園の理事も務める。

QuizKnockの運営会社「baton」とは?

野村:
衣川さんが経営されている株式会社batonは、YouTubeチャンネル「QuizKnock」を運営されています。QuizKnockの運営元がbatonであることは知られているのでしょうか。

衣川:
プロモーションを大々的に行っているわけではないので、ご存じの方はわずかかもしれません。一方で、Web記事などでbatonの名前を紹介しており、少しずつ認知されているかと思います。

QuizKnockのメンバーからは、「もっとプロモーションした方がいい」と言われることもありますが、私は現場のメンバーの思いを大切にし、彼らに焦点を当てたいと考えています。なので、QuizKnockという名前を前面に出して活動してきました。

野村:
QuizKnockについて詳しくお伺いする前に、batonを創業された2013年当初の事業内容や、起業のきっかけについて教えてください。

衣川:
大学生の頃から起業願望があり、教育をより良くする事業をしたいと考えていました。教育をテーマにするなら、「楽しんで学ぶ」という新しい価値観を作りたいと思っていたんです。

会社員時代はエンジニアからスタートして、その後、新規事業を大きくしていく仕事をしていました。会社員として10年ほどの準備期間を経て、2013年に起業しました。事業は主に、学生向けに問題集をクイズで学べるようなアプリの開発ですね。

野村:
教育に着目した理由はなんだったのですか?

衣川:
恥ずかしながら私は大学時代、あまり勉強せずに卒業しました。なので、大学教育に意味があるのか疑問に感じていたんです。

だけど、会社員時代に中国に行った際、現地の塾や学校、インターンシップの現場を視察する機会があり、彼らが熱心に学んでいる姿を目の当たりにしました。デパートの中に教室があって、200〜300人もの生徒が自習しているような光景が広がっていました。

野村:
デパートの中で塾が開かれているのですね。

衣川:
他にも、大学1年生からインターンシップでアプリケーションを開発をしている学生もいましたし、学び続ける土壌ができている。日本はこのままでは勝てないと感じました。日本が学び続ける社会になるためには、新しい価値観が必要だと考え、「遊ぶように学ぶ」というコンセプトを掲げ、楽しみながら学べる世界観を作るために教育事業へ参入しました。

起業当初は「大失敗」…コンサルで「出稼ぎ」の日々

野村:
起業当初はいかがでしたか。

衣川:
不安はあまりなく、何とかなると思っていました。以前の会社で事業を大きくすることに成功していた経験や、コンサルタントとして一定の成果を出していたことが自信になっていたので。

野村:
結果はいかがでしたか。

衣川:
大失敗でした。多くのアプリを開発しましたが、どれも成功しませんでした。

野村:
企画・開発してリリースしても、全く使われなかったということですか?

衣川:
そうですね。ある程度のユーザーはいましたが、伸び悩みました。他にもソーシャルゲームもやってみたんですが、あるソーシャルゲームの開発事業では、初期に話題になっただけで、広告費や出演者のコストがかさみ、借金が膨らんでいきました。収益化が十分にできないので、最終的にはサービス終了することになったんです。

野村:
ゲームのビジネスモデルは開発に開発を重ねるため、先行投資が発生しやすいビジネスですよね。その間は赤字をどのように補填していたのですか。

衣川:
コンサルタントとして自ら様々な会社へ「出稼ぎ」に行って、その収益を全て自分の事業に注ぎ込む、ということをやっていました。

野村:
大変な時期だったのではないでしょうか。 ベンチャー企業のように、寝食を共にしながら事業に取り組んでいたのですか。

衣川:
QuizKnockを始める前から、オフィスと自宅を兼ねていて、2、3人のメンバーが住んでいました。忙しいメンバーは泊まり込むこともあり、常に5人ほどが同じ部屋にいました。

伊沢拓司との出会いとQuizKnockの誕生

野村:
マンションの一室で、まさにベンチャー企業という感じですね。そのような時期を経て、伊沢さんとはどのようにして知り合ったのですか。

衣川:
ソーシャルゲーム事業が立ち行かなくなり、会社を畳むことも考えていたときに、クイズ×メディアという新しいサービスを思いつきました。そこで、以前クイズ制作の協力依頼でつながりがあった東大クイズ研究会に声をかけたのがきっかけです。

ここまで自分で様々なサービスを作っても世の中に浸透しきれない経験から、ブランドや発信力がもっと必要だと感じました。そこで、東大のクイズ研究会に声をかけて、何人かとご飯を食べたときに伊沢と出会いました。

野村:
そのときの反応はいかがでしたか。

衣川:
新しいサービスを始めるにあたり、中心となるリーダーが必要だということは痛感していたので、伊沢を含めたメンバーと出会い、彼のパワーやパッションに惹かれました。クイズとメディアについて話し合った際、彼がサービスの構成やコンテンツのアイデアをその場で考えてくれました。

しかし、当時は資金が底をつきかけていて……少なくとも「1、2か月後のリリースを目指すから、1か月半で準備をしてほしい」という無茶なスケジュールを伊沢に伝えました。

野村:
かなりタイトなスケジュールですね。

衣川:
無茶ぶりでしたが、私が目指す未来を伝え、一緒に頑張ろうと呼びかけたところ、伊沢が具体的なスケジュールや必要な準備を色々な人と協力して進めてくれました。

野村:
最初に選んだのがWebメディアで記事を配信していくという形態でしたが、なぜWebメディアを選んだのでしょうか。

衣川:
海外でクイズメディアが誕生しており、いける可能性があると感じました。そして「baton」という名前には、次世代に伝えたい学びを届けるという意味が込められているんですが、届ける形としてメディアを持つことが重要だと考えたからです。現実的な理由としても、当時は資金が限られていたため、Webメディアなら比較的早く立ち上げられるという判断もありました。

特に伊沢には、「クイズを通して教育を良くしたい、学びを楽しくしたい」という思いを伝えました。一方、彼自身の目標はクイズ業界への「恩返し」でした。大学生の年齢でそんな熱い思いを持っているのかと感銘を受け、彼こそ組むべきパートナーだと確信しました。

YouTubeチャンネルの運営とターニングポイント

野村:
YouTubeチャンネルを立ち上げた当初は、多くの配信者が苦労するように、試行錯誤を繰り返していたのでしょうか。

衣川:
そうですね。ただ、YouTubeに関しては、私はあまり関与していません。私は資金調達に注力し、面白い企画はQuizKnockに携わるメンバーが考えています。

当時は、主要メンバーであり、出演者でもあるふくらPや河村(拓哉)が面白い企画を提案し、伊沢がそれを面白く話すことでコンテンツが生まれていました。そのために何十個も企画を出し合い、どれが面白いかを検証しながら進めていました。
その流れは今も続いています。QuizKnock立ち上げ当初は10人ほどのメンバーでしたが、今では100人近いメンバーが活躍しています。

メンバーは本当にクイズが大好きなので、仕事が終わった後もみんなでクイズをしているくらいです。見ていておもしろいし、すごいなと感じています。

野村:
まさに趣味と仕事が一体化しているのですね。

衣川:
そう言われると経営者としては推奨しづらい部分でもありますが(笑)。
一方で、クイズを作るために積極的に知識を集めて、それで遊び合う光景は、好奇心の塊です。そのような形で学ぶことや、知識を得ることを楽しんでくれる学生が増えたらいいと感じます。

野村:
QuizKnockにとってターニングポイントとなった出来事はありますか。

衣川:
伊沢を含め、2019〜2020年とQuizKnockのメンバーがテレビなどのマスメディアに出演するようになったことが大きかったと感じます。『冒険少年』などに出演させていただいたことで、YouTubeでは届かなかった小学生やその親の世代にもリーチできるようになったことが後押しになりました。

野村:
2019年には、伊沢さんが「QuizKnock」という会社を立ち上げましたね。

衣川:
「株式会社QuizKnock」はマスメディア関連の事業を管理する会社です。メディア出演についてはメンバーが所属するワタナベエンターテインメントさんを通して営業していますが、会社を立ち上げて伊沢が表に出ることで、よりスムーズに進められるように切り分けました。

野村:
なるほど。それはどのような意図があったのでしょうか?

衣川:
彼には経営者としての視点を高めてほしい、より大きく成長してほしいという思いがありました。彼自身にとっても良いミッションになると思い、お願いしました。

野村:
結果はいかがでしたか。

衣川:
すごく変わりました。彼は以前から広い視野を持っていましたが、問題意識の捉え方や会社・組織としてのあり方を語れるようになりました。彼は様々な現場で経営者やビジネスパーソンと話す機会が多いので、そのような経験が彼の成長に繋がっているのだと感じています。

QuizKnockの今後の展望

野村:
最後に、QuizKnock事業において、今後どのような青写真を描いていますか?

衣川:
いろいろありますが、ひとつ感じているのは、関わっているメンバーの熱意や発想をさらに広く届けることです。

QuizKnockのコンテンツの中で、私が絶対に作れなかったと思うのが「QuizKnockの動画ができるまで」のドキュメンタリー(※)です。
※:2023年1月に公開された「【密着6ヶ月】ドキュメンタリー|QuizKnockの動画ができるまで」

野村:
素晴らしい映像でした。

衣川:
あれは、私やマネジメント層はあまり関与せず、制作メンバーが視聴者に何を届けたいのか、どのように届けるのがより良いのかを考え抜いて作った動画です。ふくらPや伊沢の思いはもちろん、他の作り手の思いも込められています。私も動画を観て、メンバーがこんな風に魂を込めてもの作りをしていることが嬉しかったです。

だから、熱意からつくられた彼らの発想を更に届けられるようにしたいですね。QuizKnockの作り手や関わるメンバーが増えていく中で、彼らのアイデアを大きくする機会を増やしていきたいと考えています。

<聞き手・野村高文>
音声プロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。

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