“等身大”の若月まどかが駆け抜けた2年間 『まどか26歳、研修医やってます!』演出が明かす裏側

0

2025年03月16日 18:00  ORICON NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ORICON NEWS

火曜ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』の場面カット(C)TBS
 俳優の芳根京子が主演を務める、TBS系火曜ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』(毎週火曜 後10:00)。いよいよ3月18日に最終回を迎える本作。ここまで本作の演出を井村太一氏、大内舞子氏らが担当してきた。医療現場を舞台に繰り広げられる成長物語をいかにして作り上げてきたのか。井村氏と大内氏が演出の裏側を語ってくれた。

【写真多数】芳根京子、鈴木伸之、高橋ひかる、大西流星ら…キャストを一挙紹介!

――本作を通して感じた芳根さんの魅力を教えてください。

井村:とても真面目で努力家な方。現場では座長として明るくフランクに接してくれましたし、真ん中にいてくれたからこそ、まどかが愛されるキャラクターになったと思っています。台本の読み込みが深く、解釈力も素晴らしい。コミカルなキャラクターでありながら、人間として成長し、視聴者が応援したくなる存在になっていった気がします。これは彼女の演技力に加え、台本を深く理解し、考え抜いていたからこそだと思います。

大内:まさに“まどか”そのものでしたね。4カ月間ずっと彼女はまどかとして生きていて、私もまどかと向き合っていた感覚でした。医師の卵として1から学び、手術の手順もゼロから覚えていく。その姿がまどかと完全にリンクしていて、ストイックに役と向き合っていると感じました。

――まどかを演じる上で、芳根さんにリクエストしたことはありますか?

井村:一緒に作品を作っている感覚でした。初めてお会いした時、すぐにキャラクターの話になり、「ドジっ子だけの女の子にはしたくないね」という意見で一致しました。イマドキの若者だけれど、決して優等生ではない。その感覚を共有したことを覚えています。イメージとしては、漫画『ちびまる子ちゃん』のような、怠け者でのんびりしていて、時に毒を吐くようなずる賢い部分もあるけれど根は優しい女の子。そのバランスを大切にしました。

――出演者の皆さんと対話していったと思いますが、その中から取り入れたアイデアはありますか?

井村:今回は皆さんに基本的なことを伝えた後は自由に演じてもらっていたので、キャラクター作りに関しては各自が考え、演じてくださったと思います。なので、取り入れたというよりは「もっとやってみてください」「自由にやってみましょう」と促すことが多かったです。そして、台本に書かれているセリフだけでなく、その間の空白を埋めてほしいと伝えていました。その結果、研修医5人の関係性が自然に築かれたと感じています。

大内:まどかが“スーパーローテーション(2年間で各科を回る研修の仕組み)”で救命救急科に来た第5話・第6話を担当しました。そこでは研修医と指導医の距離感について、救命救急センター長・城崎智也先生を演じた佐藤隆太さんの意見を聞いて考えさせられました。例えば、城崎先生が「医者とは何か」を問いかける場面。私は最初、近い距離感で話すと思っていましたが、佐藤さんの考えでは少し距離をとって語るほうが自然だったんです。その発想が新鮮で、研修医と先輩医師の距離感を改めて考えるきっかけになりました。

――森田哲矢さん(さらば青春の光)が演じているベテラン患者の橋口健太というキャラクターが、本作のアクセントになっている感じがします。

井村:入院生活はつらいものというイメージが強いですよね。ですが、医療監修の先生や研修医への取材を進めると、第1話で描いた、まどかが点滴のルートを確保できなくて四苦八苦した時には励まし、成功した時には一緒に喜んでくれるような患者さんもいることを知りました。そうした温かい側面を描きたかったんです。カラッと明るく、楽しい橋口というキャラクターを森田さんに自由に演じてもらいました。その結果、森田さんが得意とされるモルック(「モルック」と呼ばれる木の棒を投げて、「スキットル」と呼ばれる数字が書かれた木の棒を倒して点を取っていくゲーム)が出てくる展開になり、第9話では大会まで開かれることに(笑)。脚本家が楽しんで膨らませてくれました。

大内:橋口さんは医師ではないため、まどかたち研修医に技術的な指導はできませんが、成長を促す存在になっていました。第9話では、腎臓がんの手術に踏み出せない橋口に研修医たちが人形劇で「ほっと一息つかせてくれる」「ふとした時に気づいて、それを伝えてくれる」など感謝の気持ちを伝えていましたが、研修医たちにとって大切な気づきを与えてくれる存在になっていたんですよね。まるで“いとこのお兄ちゃん”のような感じですよね。

――原作がある本作ですが、ドラマとして描く上で大切にしたことは何でしょうか?

井村:初めて原作を読んだ時に「医師も人間なんだ」と素直に感じ、その視点を大切にしました。医療現場を舞台にした話ですが、「仕事が医者だった女の子の話」として描こうとみんなで共通の認識を持ちました。悩んだ時は一度持ち帰り、原作を読んでアイデアを出したり、原作で登場するエピソードはたくさん使わせてもらいましたね。

大内: 研修医の仕事について知らないことが多かったんです。原作を読んで感じた新鮮な驚きを大切にし、視聴者の皆さんにも同じ感覚を届けられるように意識しました。

――医療監修の先生にもインタビューを敢行しましたが、本作で描かれる医療現場での出来事はとてもリアルだと仰っていました。

大内:監修に入っていただいた先生方をはじめ、多くの医師の方々とお話しする機会がありました。その中で、救命救急のリーダー像について自分なりのイメージができていきました。佐藤(隆太)さんとも「このアプローチはどうか」「厳しさとは何か」と深く話し合えたことで、城崎先生のキャラクター像がより具体的に膨らんでいったと思います。

井村:プロデューサーや脚本家、ディレクター全員がそうかもしれませんが、本当に多くの医師の方々に貴重なお話を伺いました。例えば、内科のシーンを描くにあたっては、実際に多くの内科の医師に詳しく話を聞きました。ドラマ上、コミカルに演出している部分もありますが、原作がコミックエッセイなので、大事な部分のリアリティは損なわないように意識しましたね。ですが、ドラマの中で描いた出来事に対して、視聴した人から「こんなことはないだろう」と言われたことも。取材して聞いたリアルなエピソードを基に描いているので、実際の出来事なんです。

――本作を手掛ける上でこだわったことはありますか?

井村:取材を重ねましたし、全ての医療シーンに監修の先生についてもらいました。リハーサルも徹底し、別日を設けて手術シーンの動きも確認しています。そして、医療以外の部分も大切にしました。主人公の私生活や恋愛も描き、第3話で緩和ケアに切り替えた患者が過ごす1カ月と、まどかのリアルな1カ月の過ごし方の対比が見えるようにしました。

大内: 救急は同時多発的に運び込まれてきた患者の処置が行われる特殊な科です。なので、撮影ではどこにカメラを向けても、全ての人がリアルに処置しているように見えることを意識しました。そのため、リハーサルでも実際の動きを練習し、リアルな現場を再現しました。

――全10話で2年間の成長を描いていますが、その成長をどのように表現していますか?

井村:研修医の方々に取材する中で、「研修の前日は何をしていましたか?」と聞くと、意外にも「友達同士で白衣の着方を研究していました」といった話が出てきました。私自身も社会人初日は緊張していたものの、特別なことをしていたわけではなかったなと思い出し、そのリアルさを大切にしたかったんです。まどかは、医師としての特別な才能があるわけでもなく、(人形劇に登場するアザラシの天才外科医)ドクターK(CV:大塚明夫)に影響を受けて医師を目指した、等身大の存在として描いています。なんとなく医師になり、そこから立派な医師を目指していく。その成長過程は医師だけに限らず、全ての職業に共通する部分があると思います。例えば、私たちも「なんとなくこの会社に入った」「好きだからこの業界に入った」という漠然とした動機がありますよね。でも、仕事をしていくうちに「思っていたのと違った」と感じることもある。そうしたリアルな感情や、医師も最初は普通の人間だったんだ、という気づきを、フィクションとコミカルな要素を交えながら描ければいいなと思いました。

大内:井村さんも仰っていたように、“等身大”がこの作品の大きなテーマです。第5話では、まどかが医師を目指したきっかけが明かされますが、「ドクターKが好きだったから」というとても身近な理由なんです。私はそういうまどかがすごく好きですし、まどかだけでなく、研修医たち全員に”等身大”の魅力があると思っています。研修医たちはみんな「学びたい」「成長したい」という思いは持っていますが、その動機が特別なものとは限りません。それでも、“仕事として医師を選択した”という気持ちを大切にしたいと思いました。まどかは毎話、先輩医師や患者さんとの関わりの中で何かを感じ取り、学んでいきます。その成長が、視聴者にも伝わるようにしたかったんです。ただ、それが必ずしも大きな成長でなくてもいい。例えば「私はこう思いました」という一歩でもいいし、「今回は成長できませんでした」という答えでもいい。脚本家の方々とも話し合いながら、毎話まどかの“アンサー”のようなものを作ることを意識しました。

――ドクターKと助手のQ太(CV:大谷育江)の人形劇も監督たちのアイデアでシーンが増えたそうですね。

大内:難しい病名や医療用語が多い中で、それを分かりやすく説明するために生まれたアイデアでした。ドクターKとQ太の掛け合いで説明することで、視聴者の皆さんにとっても理解しやすく、なおかつかわいらしい要素として楽しんでもらえる。結果的に自然に増えていきましたね。

井村:そうですね、キャラクターがかわいかったので「もっと入れたいよね」という流れで増えていった部分もあるかもしれません。

大内:ドクターKとQ太の関係性が、指導医の先生たちとまどかの関係とリンクしていると感じることもありました。そのため、まどかとQ太のカットを意図的に近づけたり、気持ちの面でオーバーラップするような演出を意識しました。特に救命救急のシーンでは、まどかの成長と重なるような形で人形劇を活かせたのではないかと思います。

井村:医療ドラマでは専門用語や難しい解説が多くなりがちですが、人形劇を通じて説明することで、幅広い年齢層の視聴者にとっても分かりやすくなったと思います。病気や検査のナレーションが普段より多めでしたが、それが自然に受け入れられる形になったのは、人形劇の効果だったのではないでしょうか。

――最終回の見どころを教えてください。

井村: それぞれがどのような選択をするのか。これは研修医だけでなく、全ての登場人物に共通するテーマです。原作の「医者も人間」というメッセージを大切にし、命を扱う仕事の尊さが伝わるようにしました。ぜひ見届けてほしいです。

    ニュース設定