IT人材の不足に悩む企業が多い中、採用担当者がエンジニアについて分かっていなかったり、そもそも自社にどんな人材が必要か認識できていなかったりするケースが散見される。そうした課題を背景に、採用代行を行う企業が2019年に創業したレイン(東京都千代田区)だ。
採用代行だけでなく、HRコンサルティングも実施しているレインを創業したのは、リクルート出身の芦川由香氏。今でこそHRやITに携わっているが、大学は農学部出身というユニークな経歴を持つ。今回の記事では、そんな芦川氏にレインを創業した経緯を聞く。
●好きだったIT業界で味わった「挫折」
芦川氏がレインを創業したのは2019年。IT人材を中心とした採用代行の他、採用設計支援などのHRコンサルティングも展開している。芦川氏はリクルート出身だが、もともと人材畑にいたわけではなく、大学は農学部だ。血管の研究に携わり、投薬実験を行っていた。
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実験結果は色の変化で判断しており、そのための画像解析ソフトウェアを自分で作り、判断を自動化していたという。肉の霜降り度合いを判別するソフトも作成したと振り返る。
「もともと理系で、動物が好きなので大学は農学部に進みました。ITには以前から興味があって、プログラミングもある程度かじっていました。電子工学が専門の父の影響もあって、小さいときからプログラミング言語の『COBOL』を触っていました。鉄道模型を動かすプログラムを作ったこともあります」(芦川氏)
自分の好きなIT分野ということもあって、新卒の就職活動ではIT業界以外を受けず、SIerの中電シーティーアイに入社した。だが、入社後には「挫折」も味わったようだ。
「仕事でプログラミングに触れる中で『好きと得意は違う』ということを初めて認識しました。確かに自分はITが好きなのですが、業界にはもっとレベルの高い人がいて『上には上がいるんだな』と思ったんです」(同)
●転職直後に「リーマンショック」も、乗り越えてトップセールスに
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IT業界の多重構造はピラミッドで表現されることも多い。このうち、中電シーティーアイは比較的上流である。給料も良く、社会的な評価も高かったものの、自らのスキルと待遇面のギャップに戸惑ったと芦川氏は振り返る。
加えて、委託先のベンダー企業には優秀なエンジニアがたくさんいるものの、残業が多く、福利厚生などの条件面で劣る労働環境を見て、業界の構造に違和感を持ったという。
「日本でエンジニアがさらに活躍するには、IT業界の仕組みを変える必要があると、使命感を持つようになりました。その上で、人材をサポートする側なら、エンジニアに貢献できると考え、人材企業への転職を決意しました」(芦川氏)
そうしてリクルートへ転職したのが2008年。リーマンショックが起こった年だ。
「2月に入社して、9月にリーマンショックが起きてしまいました。企業の採用がストップし、エンジニアの求職も大打撃を受けてしまったんです。相談に来る人の多くがリストラにあった方々ですが、企業側も業績や景況の悪さに悩んでおり、双方をいかにマッチングするか苦労しました」(同)
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苦しい時期を何とか乗り越え、芦川氏はその後、トップセールスに。計4年在籍したリクルートでは、法人担当と個人のキャリアアドバイザーを務め、100社以上のIT企業、2000人以上のエンジニアの転職をサポートしたという。このように成績は「絶好調」だったが、今度はフリーランスに転身して採用代行に携わる道を選んだ。
「リクルートでやれることはやり切ったと感じました。そこであらためて人材業界を広く見たとき『人材紹介業以外も経験したい』と思い、最終的に採用側に立つことにしました。挑戦したい気持ちが強かったので、退職への不安はありませんでしたね」(同)
そもそも、会社員が独立する場合は、新規営業が課題となるはずだ。リクルートの看板を下ろした後、芦川氏はどのようにして顧客を増やしたのだろうか。
「リクルート時代のお客さまから紹介いただくなど、リファラルでの引き合いが多いですね。その他、人事担当者は横のつながりがあるので、IT採用に困っている別の企業を紹介してもらうことも多々あります」(同)
●創業当初に直面した「危機」
紹介業から採用する側に立場を変えてしばらくすると、個人でできる範囲の狭さにもどかしさを感じるようになっていった、と芦川氏は話す。活動の原点にはエンジニアの環境を改善したい思いがあり転身したものの、個人の力では不十分だと考えるようになったという。
そうして、2019年にレインを創業した。しかし、リクルートへの転職時と同様、困難にすぐ直面してしまう。
「業務委託のメンバーと起業して、都内にオフィスを借りたのですが、翌年に新型コロナの感染が拡大しました。企業の採用活動がストップし、せっかく契約したのに途中解約となってしまうお客さまもいました。オフィスも解約して、お金が尽きるのが先か、コロナが終息するのが先か――常々考えていました」(同)
その後、コロナ禍が少しずつ落ち着きを見せてIT企業の景気も回復。特にゲームなどエンタメ企業の業績が伸びた。テレワーク関連の需要も伸び、レインも事業を持ち直していく。当初は業務委託だけだったが、正社員の採用を進め、規模を拡大していった。
さまざまな危機を乗り越え、軌道に乗りつつあるレイン。後編記事では、IT人材採用の最前線に立つ芦川氏から見た、企業側のポイントなどを聞いていく。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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