
ただ、用途に合わせて余分をそぎ落とした製品が目立つのも確かですが、実は、それ以外にも、旅先でのセキュリティーとコインの使い勝手を考慮した「旅行財布」や、スペースに余裕を持たせることで目的のカードを素早く取り出せるようにした「シンプルなカードケース」など、あえて余白を作ることが使い勝手の良さにつながる製品も作っています。
その、ミニマムやシンプル至上主義に陥らない柔軟な姿勢が、さまざまな用途に対する解決策になる製品作りにつながっているのでしょう。
「アブラサスはコンセプトとして、100人いたら、100人が『そこそこいい』と言うものを作らないようにしています。それらは大手のメーカーさんにお任せして、私たちは100人中5人くらいが『こんなのが欲しかった。私のライフスタイルにピッタリ。持ち歩くのが楽しい』と言うものを作るようにしています」
と、アブラサス代表の南和繁さん。
個人の「欲しい」をすくい上げるコラボ製品ならではの「特別な財布」

この「いっぱい入る小さな財布」も決して大きくはないのですが、ミニマムと言うには余白や余分が多い財布です。しかし、そんな財布が欲しいという人がいて、普通の財布ではかなえられない使い勝手があるのなら、それを作ろうというのがアブラサスというブランドです。
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今回の「いっぱい入る小さな財布」は、福井訛りの超行動派YouTuber・カズさんの発案を、アブラサスが製品化したものです。
「今回の企画は、私の意図はほぼ入っておらず、徹底して裏方に回りました」という南さんの言葉通り、カズさんの要望をアブラサスがこれまでの財布作りで培った知見で形にしていくというものです。

カズさんが求めたものは、簡単に言えば、「コインも紙幣もカードもいっぱい入るけれどポケットに入れられる、なるべくコンパクトな財布」です。
「以前より、カズさんには、『薄い財布』や『小さい財布』をお使いいただいておりました。私と財布の使い方、求めるものやライフスタイルが異なっていました。ですから、その違いから出たアイデアは、アブラサスの既存の財布にはないものでした。そこで新たにカズさんモデルの財布を作ることになりました」と南さん。
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それこそ、普通の百貨店の装身具売り場に並んでいるような財布よりもたくさん入って、出し入れも楽なのです。
カズさんこだわりの「iPhoneサイズ」の個人的な握りやすさと構造

サイズ的には、カズさんは“iPhoneサイズ”にこだわったそうです。
「実はファーストサンプル、セカンドサンプル共に、完成品よりももっと小さく薄かったのを、大きくしてでもカズさんにとって握りやすいiPhoneのサイズ感に近づけました」と南さんが言うように、小さいから使いやすいというわけではなく、その人にとっての持ちやすさはあります。
小さいとかえって取り落としやすいということもあり得ます。
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構造はいわゆる3つ折り財布で、開いたときに一番下がカード入れ、真ん中にもカード入れがあり、その裏側がコインケースになっています。一番上はフラップなのですが、そこに小さなポケットが付いていて、レシートや鍵、紛失防止タグなどを入れておけるようになっています。
3つ折りでコンパクトな財布を作ろうとするときの正解の1つが、この構造。いくつかの財布が似たような構造になっていますが、中央のコインケース部の前によく使うカードを入れるポケットを設けたというのはかなり新しい工夫。カードの利用を第一に考えながら、フル機能を使いやすいように並べたという印象を受けます。

紙幣は約15枚、コイン15枚にカード6枚、紛失防止タグまで入れても、厚さが約3.3cmに収まるというのは、一般的な財布に比べたら確かにコンパクト。しかも、アンティークガラス仕上げでツルツルにした牛革はポケットに引っ掛かりにくく、出し入れがスムーズです。
経年変化は楽しめませんが、ラフに扱っても傷が付きにくく、汗などが染みて汚れるといったこともありません。コバ(皮の裁断面)の塗りも丁寧で適度な高級感と、長く新品同様に使える仕上げは、財布をハードに使いたい人にはぴったりです。
「革もカズさんに選んでいただきました。以前、薄い財布で作ったクラッシックシリーズの革が、カズさんの要望に応えられるものでしたので、そちらを使用しました」と南さん。
使ってみて分かる「余裕のあるサイズ」の扱いやすさと、意外なコンパクトさ

実際に使ってみると、何といっても圧倒的にカードの出し入れが楽なのが印象的です。また、フラップ部分が長いので、ライブのチケットなどが余裕で入るのもうれしいですね。領収書やレシートといった細々した紙片もゆったりと収納できるので、財布の中がゴチャ付きません。
唯一、気になるのは、動画の中でもカズさんが言っている通り、紙幣の先の部分が少しだけ折れ曲がるところ。3つ折り財布なので紙幣が3つ折りになってしまうのは良いのですが、端っこだけ曲がるのはちょっと扱いにくい感じになるのです。
なので、筆者はわざわざ少し紙幣を上部に引っ張り上げて、折れ目の位置を変えたりしていますが、そこまでするようなものかとも思うので、気にしないのが一番かもしれません。

色は、ブラック、チョコ、イエロー、レッド、ブルーの5色。アンティークガラス仕上げなのでビビットな色が似合います。
重なりや内周差をコントロールして、容量のわりにコンパクトに仕上げる技や、カードを出し入れしやすくする下側の切れ込みの入れ方、大事なカードを保護するフラップと、それを閉めた上からさらにカードを入れるというアイデアなど、細部にアブラサスらしさも感じられます。
しかもそれらの技術が、カズさんの理想を実現されるために使われているというのが、この財布の面白いところ。
なるべく小さい財布が欲しいけれど、財布に入れたいものはいっぱいある、という人のための財布は意外にもあまりなかったので、求められているのではないかと思っていたら、やっぱりとても売れているそうです。キャッシュレス化が進んでいるとはいえ、まだまだ財布が必要という人は多いのでしょう。
もともと財布はお金を持ち歩くだけのものではなく、身に着けるポーチのようなものだと筆者は考えていたので、これからもいろいろな財布が出てくるはずだと、この財布を使っていてしみじみ思いました。
<参考>
アブラサス「いっぱい入る小さい財布」
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))