
ワールドカップ8大会連続の本大会出場がかかったバーレーン戦、サウジアラビア戦に向けたメンバーが発表されている。中山雄太(FC町田ゼルビア)、町野修斗(キール)が追加招集され、27人が決まった。現時点でのベストメンバーを集めたのだろうが......。
本当にベストか、と問われると、どこか違和感が残る。その象徴がFC東京の長友佑都である。
森保一監督は「ポイント」を重んじる指揮官と言えるだろう。これまで、どれだけ森保ジャパンに貢献してきたか。その実績をポイント化したような選考が透けて見える。それ故にあまり顔触れが変わらない。ポイントを上げるには、まずは森保ジャパンに選ばれないといけないのだが、森保ジャパンで経験を積んでいる選手との差はなかなか縮まらないのだ。
その結果、プロサッカーという興行においても必要な「新鮮さ」「旬」を欠いた選考になり、ニュース性も乏しい。目の前の実益を考えれば、必ずしも顔ぶれを変えることは推奨できないのかもしれない。それでも多くの日本人選手にとって、「次は自分が選ばれるかも」というモチベーションを与えることは、巨大な燃料を流し込むはずだ。
だが、森保監督は「ポイント」を重視し、そこはかとない停滞感を蔓延させている。残念だが、長友はその象徴と言える。
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長友はサイドをアップダウンし、敵に主導権を与えないサイドバックだった。2010年の南アフリカW杯、2014年ブラジルW杯、2018年ロシアW杯、2022年のカタールW杯に出場。2011年の前後はワールドクラスのサイドバックで、その実績は他を凌駕する。カタールW杯でも、"自分の得意を最大限に出し、衰えを極力出さない"という老練さを見せた。
だが今シーズンのJリーグで、長友のパフォーマンスは、左ウイングバックとして好意的に言って平均レベルだろう。勝負に対する熱量は衰えず、そのエネルギッシュな戦いは特筆に値し、顔つきは断然いい。30代後半の選手としては、走行距離やスプリントも脱帽するレベルだ。
【ボールを持てる左利きの選手を】
ただ、プレーに昔日の面影はない。裏を取られて後ろから引っ掛けるようなプレーが増え、攻防で形勢を悪くしている。体力的にも90分はもたない。
何より、右利きだけに左足でボールを持てずに幅が取れない。ボールを受けても展開がなく、主体的サッカーでは限界を露呈している。昔は俊敏さもタフネスでカバーしていたが、もはや望めない。左ウイングバックにもかかわらず、押し込んだところで攻撃が手詰まりとなり、パスミスからカウンターを食らうシーンもあって空回り気味だ。左足クロスもほとんど入らない。
Jリーグでもこうした状況では、W杯で左ウイングバック、もしくは左サイドバックで世界の猛者と対峙し、攻守でアドバンテージを生めるのか。
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「明るく前向きな性格で勝者のメンタリティを持ち、経験も豊かなモチベーター」というのが長友の選考理由だったら、中山より優先された選出は、不思議でも、否定はできない。長友は発信力が飛び抜けて高く、究極的なポジティブ思考である。周囲が引くほどだろう。そのメンタリティは、リーダーとしても捨てがたい。深刻な人材不足の左サイドで、長友を招集する大義名分となる。
ただ、欧州の最前線で戦う選手たちは、そんなモチベーターを必要としているのか?
「自分たちがボールを持つ時間を増やす」
森保監督がW杯ベスト8の条件に挙げた言葉を実行するには、やはり長友の選考は矛盾している。
そもそも、攻められる展開も十分に考えられるW杯本大会では、ウイングバックを使った3−4−2−1の攻撃的シフトは破綻する可能性が高い。結局、5−4−1のようになり押し込まれるだろう。そうなると、左ウイングバックのファーストチョイスである三笘薫は防戦一方となり、本来の攻撃力を生かせない。
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長友は、その三笘のバックアッパーなのか。もしくは、4バックに変更した時の要員で、リードした展開ではクローザーになるか。どの展開でも使えそうだが、どの場合でも厳しい。
森保ジャパンは変化を続けるべきで、長友を招集して「歴戦の強者」と称えている余裕はない。少なくとも本大会までは、ボールを持てる左利きのウイングバック、サイドバックを抜擢し、試行錯誤すべきだ。
左利きで考えれば、たとえば横浜FCの左ウイングバック、新保海鈴は可能性を感じさせる。左足でボールを持った時のアイデア、技術は、同ポジションでJ1でも1、2を争う。ボールを運べるし、起点になれる。直近のセレッソ大阪戦も、攻め手になっていた。昨シーズンまで主戦場はJ3、J2で、強度は足りないし、代表選手との差は歴然としているだろう。しかしポゼッションを志向するなら、新保のような選手を代表に呼び、「左利きで戦える選手を求めている」ことを全体にメッセージとして発信すべきだ。
日本代表はメンバーを固定するべきではない。それはかつてアルベルト・ザッケローニがやって、完全に失敗した。硬直化した集団は、正念場でぽきりと折れてしまう。一方でロシアW杯前に緊急的に就任した西野朗監督は、適切な人材を選ぶだけで、主体的なサッカーを列強に対してもやってのけた。
W杯出場を目前にした森保監督がやるべきことは、継続よりも新しいチーム作りだろう。たった1年でも選手は劇的に成長を遂げる。それでも人材が見当たらずに本大会を迎えるようなら、そこは指揮官の決断である。