▲合田直弘が海外競馬の「今」を詳しく解説!(c)netkeiba【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】
◆まるで映画のシナリオと思わせるような結末とは?
障害競馬の祭典「チェルトナム・フェスティバル」が、3月11日から14日まで英国南西部のチェルトナム競馬場で開催された。
総括するなら、波乱万丈だったのが2025年のチェルトナム・フェスティバルだった。
ロシーマウス(牝6、父グレートプリテンダー)が制した初日のG1メアズハードル(芝19F200y)や、ファクトトゥファイル(セ8、父ポリグロート)が制した3日目のG1ライアンエアチェイス(芝20F127y)のように、強い馬が強い勝ち方を見せて、本命党の大喝采を浴びたレースもあったが、それぞれの曜日のメイン競走として行われた4レースすべてにおいて、1番人気馬が敗退。4頭の1番人気馬のうち3頭は、”オッズオン”と言われる2倍を切る大本命で、彼らが総崩れになる結末は想定外だった。
中でもドラマチックだったのが、初日のメイン競走に組まれたG1チャンピオンハードル(芝16F87y)だった。ここまで10戦10勝というハードル2マイル路線の絶対王者コンスティテューションヒル(セ8、父ブルーブレジル)が、5号障害でまさかの落馬。7号障害飛越後に先頭に立ったのが、このレース連覇を目指しての出走だった愛国におけるこの路線の最強馬ステートマン(セ8、父ドクターディーノ)で、一旦は同馬が後続を4馬身リード。ところが、そのステートマンが最終障害で躓き落馬。大どんでん返しの末、勝ったのはオッズ26倍で4番人気だったゴールデンエース(牝7、父ゴールデンホーン)という結末となった。
ドラマチックと言えば、2日目のメイン競走として行われたG1クイーンマザーチャンピオンチェイス(芝15F199y)も、まるで映画のシナリオを思わせるような結末だった。
優勝したのは2番人気のマリーンナショナル(セ8、父フレンチネイヴィー)だったのだが、22年5月の同馬のデビュー戦から、24年11月のG3バーバーズタウンキャッスルチェイスまで、8戦続けてこの馬に騎乗していたのは、落馬事故が原因で2月16日に24歳で早世したマイケル・オサリバン騎手だったのだ。
チェルトナム・フェスティバル初日の第1競走に組まれたG1シュプリームノーヴィスハードルは今年、マイケル・オサリバン・シュプリームノービスハードルとして施行され、競馬場には、ガールフレンドだったシャーロット・ジルズさんを含めた故人の遺族が集まり、発走前に執り行われた追悼セレモニーに参加していた。
遺族たちは、開催2日目にもチェルトナムに来場。彼らの目の前で、故人のお手馬だったマリーンナショナルがG1制覇を果たしたのだ。ウイナーズサークルに凱旋したマリーンナショナルを、遺族が涙を流しながら出迎えた光景は、関係者にとってもファンにとっても、忘れられない瞬間となった。
3日目のメイン競走G1ステイヤーズハードル(芝23F213y)は、シルバーコレクターと称されていたボブオリンジャー(セ10、父ショロコフ、9倍の5番人気)が、10歳にして悲願のタイトルを獲得。最終日のG1ゴールドC(芝26F70y)は、追加登録を行っての出走だったアイノーザウェイユーアーシンキン(セ7、父ウォークインザパーク、8.5倍の3番人気)が制し、2025年のチェルトナム・フェスティバルは大団円を迎えた。
今年の入場人員は、4日間を通じて21万8839人だった。1日平均にすると5万4710人という数字で、相変わらずの集客力を見せたが、しかし、この数字は22万9999人だった前年に比べると、1万人以上の減少となっている。
減った理由については、様々な分析がなされているが、要因の1つは明らかに「物価高」にあるというのが、大方の見るところだ。
近年、イギリスにおける消費者物価の高騰は著しく、一般市民の暮らしは生活必需品を賄うのに四苦八苦の状態だ。そうでなくても、余暇に回せるお金が少なくなってきているところへもってきて、フェスティバル期間中の近辺のホテル代は驚くほど高く、現地観戦を見合わせたファンが多かったと見られている。
その分、好調だったのが、生中継を行ったITVの放送だった。例えば、14日のG1ゴールドCの視聴者数は、前年の160万人から今年は180万人に増加。しかも、年齢別にみると16歳-34歳という、若い視聴者層の増加が著しかったとの分析結果が出ている。若年層における人気回復は、競馬産業全体にとって、好ましい兆候と捉えられている。
(文=合田直弘)