女子800メートルの新潟県記録保持者で研修医との「二刀流」アスリート、広田有紀(29=サトウ食品新潟アルビレックスRC)の現役引退会見が19日、新潟市の同クラブ事務所で行われた。
涙がとまらなかった。会見中、広田は何度も目頭を押さえた。「新潟から世界へ、そして800メートルの日本記録を目指していた。あきらめるのが悔しい」。21年日本選手権2位の2分4秒18は、自己ベストで県記録だった。その後は左足裏の疲労骨折、右アキレス腱(けん)痛などで離脱と復帰を繰り返した。もう納得のいく走りはできない。
同時に「人生の半分以上を大好きな陸上にささげたことは幸せだった」と笑顔ものぞかせた。秋田大を卒業した20年4月、研修医にならず新潟RCに所属。23年4月からは新潟大医歯学総合病院などで研修医として勤務しながら、陸上の練習を続けてきた。
患者から日常的に「頑張って」と声をかけられた。手紙や絵のプレゼントをもらったこともあった。地元新潟のデンカビッグスワンスタジアムで開催された昨年6月の日本選手権が最後のレースになった。直前に古傷が悪化し、棄権を選択してもおかしくない状態。「スタートラインに立つのが怖かった。一方で声援の力で走れるありがたさなど、いろいろな感情があった」。予選を突破し、決勝は8位だった。
4月から東京の病院に整形外科の専攻医として勤務する。新潟RCにはアンバサダーとして在籍し競技普及のサポートを続ける。「陸上を通じて1人では戦えないことがわかった。患者様に向き合うことに生かしていきたい」。逆境と戦ったすべての経験を糧に、次の道に進む。【斎藤慎一郎】
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◆広田有紀(ひろた・ゆうき)1995年(平7)5月20日、新潟市生まれ。新潟高では女子800メートルで2年時に国体、3年で全国高校総体優勝。秋田大医学部に進み、16、18年日本選手権4位、19年のインカレ2位。21年日本選手権2位は県記録で自己ベストの2分4秒18。165センチ、50キロ。血液型O。
○…新潟高で広田を指導した和田紀明氏(53、新潟商教員)が会見途中にサプライズで現れ、花束を贈呈した。驚く広田に「競技だけでなく、人間性も素晴らしい生徒でした」とねぎらいの言葉をかけた。両立を貫いた広田の姿は後輩たちの手本になっていたという。「人の心に寄り添える医師になってほしい。彼女なら大丈夫でしょう」とエールを送った。
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