自著『ユメノチカラ』を発売した武尊 「K-1 WORLD GP3階級制覇」、「10年間無敗」世界の格闘技界にその名を轟かせた武尊が、紆余曲折の半生を語った『ユメノチカラ』(徳間書店刊)。武尊は同書で「心折れそうなとき、道を逸れてしまいそうになったとき、自分を支えてくれたのは『夢』の力だった」、「幼いころに誓った『K−1のチャンピオンになる』『格闘技で成功する』その夢を持ち続けたから、今がある」、「格闘技には、人の心を動かし人生まで変えてしまうとてつもないパワーがあると僕は信じている」などと語る。リアルな心境がつづられた同書から、うつ病と診断されてからの心の変化を語った内容を、一部抜粋して紹介する。
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■現状を変える方法なんていくらでもある
そう気づかされたことで、僕の中で考え方が一変した。
それまでは、なぜ自分がこんなにつらくて苦しくて、毎日重苦しい気持ちを抱えているのかが全然わからなくて、「もう死ぬしかないのかな」とまで追い詰められていた。
でも病気の症状だったのなら、治療を受けて治せばいい。
僕の場合、病院で処方された精神安定剤などの治療薬を飲んだら、ネガティブな気持ちがちょっとずつなくなっていった。
もちろん、薬なので気持ちの変化には違和感が残ったけれど、薬を飲んで気持ちが少しずつ落ち着いてきたことで、「ああ、これが普通の状態なんだ」と、本来の自分の状態に気づくことができた。
あれ以来、僕は一度も「死にたい」と思ったことはない。
メンタルをやられてしまったのは、この時だけじゃない。プロになってからも、つらいことや苦しいことはたくさんあったし、今だって昔ほど重たくはないけれど、それは続いている。
パニック障害やSNSの誹謗中傷に苦しんだりもした。それでも一度も「死にたい」とは思わなくなった。少しずつでも、不安定になりがちな心を自分で飼いならすことができるようになっていたのかもしれない。
原因がわからないまま、ただ、つらい、苦しいと思い続けている状況から脱することができたのは、お母さんが病院に連れていってくれたおかげだ。うつの症状から心の不安定が起こっているとわかったことで、僕は「これでやっと打開策が見つかった」とホッとすることができた。
病気だと診断されたことでさらに落ち込むということはなくて、むしろ道が開けたように思った。
あのままでいたら、どんどん危険な状態になってしまったと思う。あまり考えたくはないけれど、もうこの世にいなかったかもしれない。
報道などで、若い子の自殺のニュースを見るたびに、10代だった当時の自分を思い出す。
あの時の僕のように、病気だとは気づかず、毎日つらくて苦しい思いを抱えている理由がわからず、そこから抜け出すための方法も浮かばずに絶望してしまい、自ら命を絶つことを選んだ人がいるかもしれない。
僕もそうだったけれど、まだ人生の経験の浅い若い人は、逃げ場をなくしてしまいがち。追い詰められたところから、どう動けばいいのか、どうすれば解決できるのかなんて、なかなか浮かんでこない。
もし今、重苦しい気持ちを抱えている人がいたら、恐れずに医師の力を借りてみてほしい。誰も相談する人がいなかったら、この本で記した僕の話を思い出してほしいと思う。
現状を変える方法は、誰にだってまだまだあるのだということを。