宇野昌磨が語るプロセス重視の哲学「ラクに手に入れたものと苦労して手に入れたもの、同じ結果でも価値が違う」

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2025年03月21日 07:31  webスポルティーバ

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宇野昌磨『Ice Brave』会見&インタビュー 後編(全3回)

 宇野昌磨(27歳)は自身初プロデュースのアイスショー『Ice Brave(アイス・ブレイブ)』の記者会見後、代わる代わるインタビューを受けていた。

 彼がまとう空気は、現役時代と変わらず朗らかだった。だからこそ、ステファン・ランビエールのようなコーチとの劇的な出会いもあったはずだし、先輩後輩のスケーターと縁を結び、多くのファンにも愛されるのだろう。

「ステファン、頑張らせます!」

 全体練習の参加時間が限られる恩師に対し、その物言いで許される性格というのか。それは彼自身が周りに対し、なんら邪気がないからだ。

 周りと協調することで、宇野は最大限に力を発揮してきた。「スケートを生きる」という必死さがありながら、独善的にならない。ふわりとした空気をまとうことができるのは異能だ。

 フィギュアスケーターとして生きてきた「物語」が、彼の今を形づくっている。

【感情が乗る演技にはプロセスが大事】

ーー現役時代、そのシーズンは極度の不振からランビエールコーチとの出会いで一気にスケートの楽しさを取り戻したようでした。2019年の全日本選手権で『Dancing On My Own』を滑って優勝した時、演技中にもかかわらず笑みが見えた気がしました。そこに、真のトップスケーターの矜持を見た気がします。

宇野昌磨(以下同) 競技者としての試合でも、表現者としての舞台でも、チケットを買ってもらってスケートを見てもらうわけですけど......それまでのプロセスが大事だと僕は思っていて。「練習でうまくできたとしても、試合でできなかったら意味がない」って意見もよく聞きますけど、僕はそう思わない。練習の過程って、雰囲気ににじみ出ると思っているので。今回の『Ice Brave』でも、そこはチームとして大事にしたいです。笑みがあふれるっていうのは、練習ができてない人はできないし、試合という極限状態で笑みがこぼれることはないですよね。笑みがあふれるには、過程に理由があると思っていて。『Ice Brave』でもそこは大切にしたいし、過酷なスケジュールになるかもしれませんが、ひとつの大きな目標に向かって成功できるように。最初は努力であっても、いずれは努力ではなく、"やりたいイコール楽しい"になって、そうやって積み上げた先にショーがあると思います。そういうショーは感情も乗っているはずで、見に来る人も感情が動かされると思います。

ーー「今はやりたいっていう気持ちで『Ice Brave』と向き合えています」と話していました。現役時代も情感に訴えるプログラムが多かった印象です。

 現役の時は、言われたからやる、やらないといけないからやる、というところもなかったわけではなくて(笑)。でも、2年くらいは、やりたいって言いきれる感情になれたと思います。誰かに止められるまで、とことんやるっていうか......北京五輪の前シーズンの(2021年)世界選手権で、4位になったんですけど、練習ではもっと悪かったから、結果自体は悔しくなかったんです。でも、(鍵山)優真君が2位だったと思うんですけど、「憧れの存在は昌磨君」って言ったのが、めっちゃ恥ずかしくて(笑)。悔しかったし、でも悔しいからがむしゃらにやる、じゃなく、やりたいことを冷静にやる、と。2年くらいは成長を実感できました。

ーー火がついた?

 ただただ、うまくなりたいって思いましたね。それで過去に跳べたことのあるジャンプを全部詰め込んで。(2022年、2023年の)世界選手権で連覇することができたんです

【同じ結果でも苦労して手に入れる価値】

ーーフィギュアスケート界で金字塔を打ち立てた高橋大輔さんに対する憧れを公言していますが、高橋さんもすでに『氷艶』や『滑走屋』など個性的なアイスショーを実演しています。

 高橋大輔さんには憧れていたし、尊敬するスケーター。同じくらいの存在になりたいという思いが強いです。今は、自分自身がそう思われる存在になれるようにしたいですね。表現者として、自分がまだまだだってわかっているからこそ、このショーに向けては意気込んでいます。大輔さんが、なぜあれだけ魅力的なスケートができるのか、それを自分なりに言語化して、大輔さんに限らず、いろんなものを取り入れたい。その先にある"自分の表現"を見つけたいと思います。

ーー最後に、5歳の時に浅田真央さんに「フィギュアスケート、一緒にやろうよ」と誘われて、この世界に入ったわけですが、タイムマシンで当時の"昌磨君"と会ったら、なんと言ってくると思いますか?

 彼は信じられないと思いますね(笑)。スケート以外の道を想像したことはなかったですけど。引退してちょっと経ってわかるんですけど、自分は何事に対しても器用でなく、才能があると思ったことはなくて。「努力家」って言ってもらえることは多いですが、やりたくない時はやらない(笑)。まあ、やる時の思いはすごく強いので、それが才能というなら、そこに才能があったかもしれませんけど。小さい時は、周りの女の子たちが僕より先に"次のジャンプ、次のジャンプ"って跳べていくなか、ひとりだけ跳べなくて。たくさん練習時間を費やして、めちゃ怒られながらやっても、ようやくみんなと足並みをそろえられるか、ちょっと遅れている感じでした。今となっては、よく続けられたなって思います(笑)。

ーー"昌磨君"には何か伝えますか?

 何も言いたくないですね。全部、自分で気づいてほしい。自分で気づいた行動じゃないと、ブレてしまうと思うので。それに、ラクをしてほしくないです。もしラクをしたら、今とは絶対に景色が違うし、ラクに手に入れたものは、苦労して手に入れたものと、たとえ同じ結果でも価値が違う。同じ結果でも、全部苦労して手に入れてほしいです。

終わり

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【プロフィール】
宇野昌磨 うの・しょうま 
プロフィギュアスケーター。1997年12月17日、愛知県生まれ。現役時代には、全日本選手権優勝6度、世界選手権連覇、2018年平昌五輪銀メダル、2022年北京五輪銅メダルなど華々しい成績を残す。2024年に現役引退し、現在はアイスショー出演などプロスケーターとして活躍している。2025年6月〜7月に自身が初めて企画プロデュースしたアイスショー『Ice Brave』を名古屋、新潟、福岡の3都市で開催予定。

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