上皇陛下の執刀医が教える「“血管と心臓”の守り方」歯の数と病気リスクの関係

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2025年03月23日 07:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

※写真はイメージです

血管や心臓の病気は、加齢により発症する可能性が高まります。特に60代以降は重大な健康リスクが懸念されるため、適切な予防と管理が重要になります

 そう説くのは2012年に上皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した、心臓血管外科医の天野篤先生。その言葉どおり2022年の厚生労働省の調査によると、日本人の死因第2位に心疾患、第4位に脳血管疾患が挙げられ、今や、がんに次ぐ身近な病気になっている。

食事改善で良質な脂質を意識

狭心症、心筋梗塞、大動脈瘤(りゅう)、大動脈解離といった心臓疾患や脳梗塞には、動脈硬化が深く関係しています。そして動脈硬化を招く大きな要因は、長年の生活習慣。血管や心臓を守るには、食事と運動の改善が必須です

 脂質、つまり食事で摂取する油の質が心疾患に関連するといわれている。脂質は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられる。

 飽和脂肪酸はバターなどの乳製品や肉、ラードなどの動物性脂肪、ココナツ油などの熱帯性植物油脂に多く含まれる。不飽和脂肪酸はオリーブオイルや菜種油などの一価不飽和脂肪酸と、植物油や青魚などに多く含まれる多価不飽和脂肪酸に区別される。

アメリカの研究では、飽和脂肪酸の摂取量を5%減らし、その分のカロリーをオメガ6系の植物油や多価不飽和脂肪酸に置き換えると、心臓疾患の発症リスクが25%減少したそう。置き換えるものを一価不飽和脂肪酸にした場合は15%減少、精製されていない玄米や雑穀などの全粒穀物でも9%減少しています

 飽和脂肪酸は動脈硬化の原因になるLDLコレステロール、つまり悪玉コレステロールを増加させる一方で、多価不飽和脂肪酸はそれらを減らして動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を低下させる。

 さらに不飽和脂肪酸のひとつであるオメガ3系脂肪酸は、血糖値を正常範囲に戻すために過剰なインスリンを必要とする状態の“インスリン抵抗性”を改善。オメガ3系脂肪酸から生成される脂肪酸代謝物により、心臓の炎症や線維化が抑制されることも判明した。

 とはいえ飽和脂肪酸が少なすぎても脳卒中のリスクが高まるので、バランスよく脂質をとることが理想だ。

肉や乳製品を減らし魚と野菜にかえる

日本動脈硬化学会が定めるガイドラインによると、動脈硬化リスクを減らす食事として、
(1)肉の脂身、動物性脂肪、加工肉、鶏卵の大量摂取を控える
(2)魚の摂取を増やし、低脂肪乳製品を摂取する
(3)未精製穀類、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆および大豆製品、ナッツ類の摂取量を増やす
(4)糖質含有量の少ない果物を適度に摂取し、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
(5)アルコールの摂取を1日25g以下に抑える
(6)塩分の摂取は1日6g未満を目標にすること
が推奨されています

 日本では高血圧が要因となり、心臓疾患を起こす患者が特に多い。心臓や血管に大きな負荷がかかり、動脈硬化や瘤化が起きやすくなるからだ。

日本では推定約4000万人が高血圧に該当します。諸外国と比べても塩分摂取量が多く、WHOが推奨する1日5gを大幅に超える11gをとっているからです。塩分過多になると血液の浸透圧を一定にするため血中の水分が増加し血液量が増え、血管の内壁に加わる抵抗が強くなり、血圧が上がるので気をつけましょう

 心臓病の改善や予防に効果のあるサプリメントは存在しない。それでも、関連するサプリメントをとるのは悪くないという。

「健康な人が心臓病を予防するには、自律神経のバランスを保つ生活が重要です。緊張などで交感神経が優位になると、心拍数が増え血圧が上昇し、心臓の負荷が増すからです。

 睡眠・食事・排泄を適正にする必要があり、それらを補助するサプリメントはよいでしょう。私も腸内環境をコントロールするもの、抗酸化作用が認められる補酵素などを飲んできました」

 ほかにも睡眠の改善効果が認められるもの、過食を抑えて肥満予防が期待できるものなどもよいかもしれない。ただし服薬中の人は必ず担当医に相談しよう。

リスクは噛む力や歯とも関連性がある

噛む力が弱い人は、噛む力が強い人に比べ循環器疾患の新規発症リスクが最大5倍も高いというデータがあります。食事で咀嚼(そしゃく)した情報が脳に伝わると、消化吸収が促進され、副交感神経が活発に働くようになる。すると心拍数が抑えられ、血管が拡張して血圧も低下するからだと考えられます

 噛む力が弱まると、糖質が多く含まれるやわらかい食べ物を自然と選ぶようになり、それが動脈硬化を促進させるという意見もある。さらに歯の本数も関係するという。

65歳以上の日本人2万人を対象にした調査では、歯が20本以上残る人と比べ、10〜19本の人は死亡率が1.3倍、0〜9本の人は1.7倍上昇したというデータがあります。歯が多く残る人ほど認知症や転倒リスクが低く、心臓疾患との関連もあると指摘されています

 そして、飲酒する人はそのリスクも気になるところだが、適度であればよいそう。

 マサチューセッツ総合病院の研究によると、1日に男性でビール500ml、女性で250mlを摂取したグループは、まったくアルコールを摂取しない人や、少量だけ摂取した人と比べ、心血管疾患のリスクが21.4%減少。脳の画像検査では、扁桃体のストレスシグナル伝達も低下していた。

適度な飲酒がストレスを緩和し、心臓に良い影響を与えたのでしょう。ストレスにより炎症細胞が過剰に放出されると、動脈硬化の一因となるプラークができたり、動脈瘤を形成することもわかっています

 アルコールには利尿作用があるが、適量であれば摂取と排出のサイクルが一定に保たれ、ストレスホルモンであるカテコールアミンのバランスも整い、心臓への負荷が抑制される可能性がある。ストレス軽減、睡眠誘発、排尿促進、食欲増強というアルコールの恩恵を受けるには、適量が重要だ。

心臓の弱い方や服薬中の人は、ビールなら350〜500ml、ワインはグラス2杯、日本酒は1合が目安です

 そして、やはり身体を動かすことも重要。運動で血流量が増えると、血管内皮細胞に物理的刺激が加わり、血管をやわらかくする作用のある一酸化窒素が増え、動脈硬化が改善するといわれる。

日本動脈硬化学会のガイドラインでは、ウォーキング、速足、水泳、エアロビクス、スロージョギング、サイクリングなどの有酸素運動を、ややきついくらいの強度で、毎日30分、あるいは週150分を目標に、週3回ほど行うことを推奨しています。こまめに歩くことも心がけたいです

 座位時間が長いと、心血管疾患や冠動脈疾患、脳卒中、糖尿病の発病が増え、心血管疾患による死亡が増えるという研究もある。だが座り続けることを中断すれば血糖値やインスリン抵抗性が改善することもわかっている。

加齢に伴い筋力は衰え、運動習慣がないと全身の筋肉量も減っていきます。血管も筋肉のひとつですから、筋肉量を増やすことができれば、血圧の調整がうまくいき、インスリン抵抗性が改善されたり、善玉コレステロールも増えます。

 もちろん、循環器病にとっては有酸素運動も大切です。あえて少し遠いお店まで買い物に行ったり、歩く距離に応じてポイントが貯まるアプリを利用するなどして、日常的に動くことを意識しましょう

天野 篤先生●心臓血管外科医。順天堂大学医学部特任教授。2012年には上皇陛下の心臓手術を執刀。2016年4月より2019年3月まで順天堂大学医学部附属順天堂医院院長。心臓を動かした状態で行うオフポンプ術の第一人者で、これまで執刀した心臓血管外科手術は1万例を超える。著書に『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー)

文/植田沙羅

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