
NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。3月23日放送の第12回「俄(にわか)なる、『明月余情』」では、戯作者“朋誠堂喜三二”こと平沢常富が、ついにその素性を蔦重に明かして活躍。長い間、どこにいるかわからず、放送のたびにSNSで「オーミーをさがせ」と話題になっていた平沢常富役の尾美としのりが、その舞台裏や役に対する思いを語ってくれた。
−第12回で、ついに平沢常富が蔦重にその素性を明かしました。初登場の第2回から長い間、オープニングに「平沢常富 尾美としのり」とクレジットされながら、どこにいるかわからない登場の仕方でしたが、どのように受け止めていましたか。
最初に台本を読んだとき、「大門を通っていく平沢」など、1行にも満たないト書きがあるのを見て「しゃれている」とうれしくなり、喜んで演じていました。現場でも、「なるべく映らないようにした方がいいですよね」、「もうちょっと顔をこっちに向けてください」などと相談し合いながら撮影していました。ただ、出番はほんのわずかでも、扮装(ふんそう)には2時間もかかるので大変でした(笑)。
−第12回では、第2回で蔦重が平賀源内(安田顕)の正体に気付くきっかけとなった「源内先生、その節はお世話になりまして」という言葉を発したのも、平沢だったことが明らかになりました。
今までせりふはほとんどなかったのですが、実は吉原の常連らしく、あちこちでいろんな人たちと話したり、第10回で吉原を去る瀬川(小芝風花)の花魁道中を見物する群衆に交じって「いい女だね」と声を掛けたりしていたんです。映っているかどうか、わかりませんが(笑)。その分、きちんとせりふを言うようになったときは、とても緊張しました。
−放送のたびにSNSで、「オーミーをさがせ」などと話題になっていましたが、視聴者の反響をどのように受け止めていましたか。
こんなに注目されるとは想像もしなかったので、プレッシャーを感じています。大河ドラマに出演すると、親戚や身近な人たちが喜んでくれるので、そういう人たちが探してくれたら面白いな、くらいに考えていたんです。でも、そっちの方からは何の連絡もなくて(笑)。これから蔦重とかかわっていくことになりますが、「“オーミーをさがせ”の頃の方が面白かった」と言われないか、心配です。
−それでは改めて、さまざまな文化に造詣が深く、戯作者“朋誠堂喜三二”としても活躍する平沢常富をどのような人物と捉えているか、教えて下さい。
とても頭がよく、しゃれていて、人生を楽しんでいる人だと思います。吉原で遊んでばかりいるように見えますが、実は秋田佐竹家・留守居役ということで、仕事もできるインテリだと思うんです。その上で、歌舞伎や能、狂言、文楽などの趣味を楽しむ充実した生活を送りながら、自分でも作品を書いたりしているわけですから。
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−平沢は、“宝暦の色男”とも呼ばれていますね。
演じるにあたって、そこをどう捉えるべきか、「吉原に通い慣れていて、遊び方がキレイな人」と僕は解釈しています。とはいえ、自称らしいので、そうすることで女郎や花魁に楽しんでもらい、それを自分も楽しんでいるのかなと。そういう遊び方ができるという意味で、“色男”なのかなと思っています。
−第12回では吉原で行われた“俄祭り”に関連し、早速、蔦重の依頼を受けて「明月余情」の序文を執筆していました。
“俄祭り”をすてきな言葉で表現した上、本人の人柄もにじみ出た見事な序文で、文才のある人だったんだなと。人柄といえば、「どうだろう、まあ」という口癖にも、物事をはっきりさせない平沢の人柄がよく表れているので、お気に入りです。
−俄祭りのシーンは撮影も大規模だったそうですね。
伊藤(淳史/大文字屋市兵衛役)さんと本宮(泰風/若木屋与八役)さんが火花を散らして戦っていて、今風に言えば“ダンスバトル”ですよね。皆さんかなり練習を積まれたらしく見事な踊りでしたし、大河ドラマらしいスケール感と忠実な再現度で、視聴者の皆さんも楽しめたのではないでしょうか。僕も現場で、平沢として楽しく見物させていただきました。吉原でこういうお祭りが行われていたと知ることができたのも、面白かったです。
−平沢を演じる上で、どんな準備をしていますか。
江戸ことばになじむように、現場の行き帰りなど、時間をみつけて廓話を中心に落語を聞くようにしています。「ひ」が「し」になったり、「らりるれろ」が巻き舌気味になったりするのも江戸ことばの特徴なので、せりふを言うときはその辺も気を付けています。また、時代劇ということで、撮影のときはふんどしを着用するようにしています。ふんどしなら、下着のラインが出る心配もありませんし、万一、下着が映っても問題ありませんから。20代の頃、時代劇でご一緒した中村吉右衛門さんから、ふんどしを着用しているとお聞きして以来、僕も見習っているんです。だから、時代劇に出演すると、自宅の物干し場にふんどしがひらひらとはためくことになります(笑)。
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−これから平沢は蔦重に協力していくようですが、蔦重役の横浜流星さんの印象はいかがですか。
とても真面目な青年で、気持ちよく、いい刺激を受けながら、楽しくお芝居しています。驚いたのは、運動神経のよさです。第2回で、僕が「源内先生!」とあいさつした直後、蔦重が「平賀源内先生だったんですか?」と座敷に駆け込んでくるシーンで、演出の大原(拓)さんから「正座で滑り込んでみて」と現場で急に指示されたんです。にもかかわらず、正座のままスーッと滑り込み、源内の前でピタッと止まって。それを一発でかっこよく決めた様子を見て、すごいな、と。
−今回は還暦の60歳を迎える節目の年の大河ドラマ出演ということで、意気込みをお聞かせください。
還暦はまったく意識していません。還暦と言えば、落ち着いた大人のイメージがありますが、まだまだ自分はその域に達していませんし。ただ、若い頃から大人に憧れ、そば屋でお酒を飲んだりしていたのですが、そういうことが肩肘張らなくても自然にできる歳になったのかなと。それが、還暦ということなのかもしれません。でも、それを意識して妙に意気込むのも変ですし、頑張る姿は人に見せるものでもありませんから、今まで通りやっていくつもりです。でも、そう言われたら、きっと頑張ってしまうんでしょうね(笑)。
(取材・文/井上健一)

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