
めまいとひと口にいっても、立ちくらみや、フワフワするもの、グルグル回転した感覚になるものなどさまざま。中には、立っていられなくなったり吐き気を伴ったりと激しい症状に悩まされている人も。
「厚生労働省の国民生活基礎調査によると、人口の約20%、65歳以上では30%の方にめまいの症状があるという報告があります。
ほとんどの方が病院に行くほど困っているわけではないですが、突然襲われるめまいが原因で転倒してしまうなど、大きなケガにつながるおそれもあるので、見過ごせない症状です」
40代後半から特に女性に増える疾患
そう話すのは耳鼻科医で、めまいの専門医でもある五島史行先生。
「めまいにはいくつか種類があって、その主な原因は耳の中にある平衡感覚(前庭系)の機能の低下です。前庭には3つの輪のようになっている三半規管と耳石という感覚器があり、それが身体のバランスを保っていますが、加齢などによって機能が低下します」(五島先生、以下同)
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更年期も原因になるという。
「めまいの中でもっとも多いのが、全体の3〜4割を占める良性発作性頭位めまい症ですが、これは40代後半から50代の更年期以降の女性に多くみられる症状です」
仕組みはこうだ。
「更年期で女性ホルモンが低下することで骨粗しょう症のように骨密度が減少します。前庭の耳石はカルシウムが主成分のため、カルシウムの代謝が悪くなることで耳石がもろくなり、剥がれ落ちやすくなります。
剥がれた耳石が三半規管に迷い込むことでめまいが起こるのですが、2週間ほどで自然に治ることが多い。ところが、更年期で心が不安定になっていたり、ストレスで自律神経のバランスを崩すと再発を繰り返したり、めまいへの恐怖心から別のめまい症を起こす人もいます」
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めまいには「心」が密接に関連しているという。
「めまい患者は男性の3倍女性のほうが多く、60代以上に多いのも特徴です。ストレスを感じやすかったり、まじめで責任感の強い人や細かいことに気を使いすぎてしまう人もめまい患者に多い傾向があります」
簡単なリハビリでしつこいめまいも改善
ストレスはめまいを感じやすくさせ、しかも治りにくくしてしまうため、心の状態も大事だという。では、どんな時に病院を受診するのがいいのだろうか。
「めまいは基本的に命に関わる病気ではなく、自然によくなることが多いので、様子を見る人も多いでしょう。ただ、なかなか治らない、または症状が進行しているような場合には、危険な病気の前兆のこともあるので、精密検査をおすすめします」
病院では、目の動きを調べる眼振検査や、身体のバランス機能を調べる50歩足踏み検査、聴力検査のほか必要に応じてMRIなどの検査を行うが、前述したようにめまいには心も関係しているケースも多いため原因の特定は難しいことも少なくない。
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「検査をすると、だいたい3〜4割の方は異常が認められません。そう言うと、ほとんどの方は安心されますが、中には“異常がないのになぜめまいが起こるんですか”と納得がいかず、ドクターショッピングを繰り返す人も。そういった方は“難治化”しやすい特徴があります」
そこで五島先生がおすすめしているのが自分で治す“リハビリ体操”だ。
「リハビリ体操は頭を動かすことで、三半規管に迷い込んだ耳石を溶かしたり、元の場所に戻す効果があります。ウイルス感染が原因の前庭神経炎のような治らないめまいの場合でも、リハビリで症状を和らげることができます」
継続的に行っても症状が改善しない場合は、運動療法や、骨粗しょう症の治療、睡眠療法などを並行して行う。生活習慣の見直しがめまいの改善や再発防止につながるからだ。また、まれに手術を行うケースもある。
「めまいがあって外出自体がトラウマになっている方もいます。リハビリ体操や生活の見直しで予防をしながら、めまいが起きた場合の行動を想定したり、市販薬の『トラベルミン』を携帯しておくなど、発作が起きた場合に備えると心の安定にもなります。
季節の変わり目の春はめまいが起きやすい時季でもありますが、それにおびえずに前向きに過ごしてほしいです」
薬に頼らないリハビリ体操
症状別にオススメのリハビリ体操を2種類紹介。やっている最中にめまいがしても、心配無用。効いている証拠なので、気長に続けてみて。
めまいがある人全般に【寝返り】リハビリ体操
左右に寝返りをうってめまいがすれば効果がある証拠。1日2回を習慣に繰り返し行うことで徐々にめまいが治まる。
(1)あおむけになって10秒数える。
(2)首だけ右側に90度回転させ、そのまま10秒数える。
(3)身体も90度回転させてそのまま10秒数える。
(4)あおむけに戻ってそのまま10秒数える。反対側も同様に行う。これを3回ほど繰り返す。
寝返り体操でめまいナシの人に【顔を左右上下】に動かす体操
寝返りリハビリ体操をやっても効果が感じられない人はこちらを実践。1日3回を目安に行うと、徐々に効果が表れる。
(1)背筋を伸ばしてイスに座り、利き手をまっすぐに前に伸ばす。親指を立てて目の高さの位置でキープする。
(2)「1.2.3……」と声に出して秒数をカウントしながら、目線は親指から離さず顔だけ左右に動かす。1秒で右、次の1秒で左というテンポで20秒行う。
(3)同じ姿勢で、親指を立てて水平にし、目の高さの位置でキープする。
(4)2と同様に目線は親指から離さず、1秒ずつ顔を上、下と動かす。これも20秒行う。手と目線は動かさないように注意。
教えてくれたのは……五島史行先生●東海大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長。専門はめまい、メニエール病。延べ7000人のめまい患者にリハビリ治療を指導し改善に導く。近著に『マンガでわかる つらいめまいの治し方』(ナツメ社)など。
取材・文/荒木睦美