フィンランドのアールト大学に所属する研究者らが発表した論文「Global gridded population datasets systematically underrepresent rural population」は、世界の人口データセットが農村部人口を体系的に過小評価している可能性を示した研究報告である。
世界的に広く使用されている5つの主要な格子状人口データセット(WorldPop、GWP、GRUMP、LandScan、GHS-POP)全てにおいて、農村部の人口が実際より著しく少なく見積もられていることが判明した。格子状人口データセットとは、地球表面を均等な格子(グリッド)に区切り、各セル内の人口を推定したデータのことである。
検証には、35カ国で実施した307の大規模ダム建設プロジェクトから得られた人口移転データを使用。これらのデータは国のダム管理当局によって報告されたもので、ダムの計画・建設段階で行われた詳細な現地影響評価に基づいている。
研究者らは各事例で移住したと報告された人数を、移住前のその地域の人口として扱い、5つの人口データセット(1975〜2010年)が推定する農村部の人口と比較した。
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分析の結果、全ての人口データセットにおいて農村部人口の著しい過小評価を確認した。具体的なバイアス(偏り)の割合は、WorldPopが-53%、GWPが-65%、GRUMPが-67%、LandScanが-68%、GHS-POPが-84%であった。
これは最も精度が高いとされるWorldPopでさえ、実際の農村部人口の約半分しか捉えられていないことを意味する。特にGHS-POPは最も大きな過小評価を示し、実際の農村部人口の6分の1程度しか反映していないという結果となった。
なお、分析対象の307箇所のうち203箇所が中国の農村部であったが、小規模な貯水池が多いため、含まれる貯水池の総面積の約26%しかカバーしていない。そのため中国のデータを除外した分析も行われ、同様の結果が得られることを確認している。
この体系的な過小評価は、持続可能な開発や災害リスク管理、公衆衛生計画、環境保全など、農村部とその人口を考慮する幅広い研究や政策分野に影響を及ぼす可能性がある。
Source and Image Credits: Lang-Ritter, J., Keskinen, M. & Tenkanen, H. Global gridded population datasets systematically underrepresent rural population. Nat Commun 16, 2170(2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-56906-7
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※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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