写真 テレビやラジオといったオールドメディアに代わり、動画メディアの勢いが止まらない。特にYouTubeは、国内月間アクティブユーザー数7,000万人を超える。多くの人が気軽に動画を配信できるようになり、YouTubeチャンネル数も増加。生き残りをかけた激戦が続くなか、YouTubeでの発信力も活用しながら、事業の成功を収めている時代の革命家たちに迫る。
インタビュアーは、出版プロデューサーでビジネス書作家の水野俊哉さん。水野さんは出版プロデューサーとして数々のヒット作を世に送り出し、自らも作家として多くの書籍を出版している。
今回は、フリーランスを組織してWebコンサルティング事業を行うStockSun株式会社の創業者の一人である株本祐己さん。株本さんはYouTubeで「年収チャンネル」を立ち上げ、“フリーランスの王”との異名を取る起業家・実業家だ。自身の経験をもとにフリーランスや副業の働き方を発信し、自由な生き方を提唱している。
◆トラブルが起きても続けられたのは仕事が「好き」だから
水野:現在はStockSun株式会社の代表取締役を辞任して同社の取締役を務めながら、多くのコンサル動画に出演する人気YouTuberという顔もあわせ持つわけですが、大学3年生からWEBマーケティング会社、バリュークリエーション株式会社にインターンとして入ったのが始まりだと聞いています。
株本:その頃は起業する気なんて全然なくて、バリュークリエーションに入ったのも東日本大震災がきっかけでした。大学2年の終わりに震災があって、その影響で3年の始業が1か月遅れたんです。
急にひと月暇になってしまってどうしようかと。当時、家の近所のしゃぶしゃぶ屋でアルバイトをしていたのですが、「新しいことをするタイミングかな」と感じました。インターンで働けば経験も給料ももらえる。そうして見つけたのが、ベンチャー企業のバリュークリエーションだったんです。
水野:インターンで2年、その後、正社員として3年勤務していますが、主にどんな仕事をされていたんですか?
株本:私がインターンで入ったときのバリュークリエーションは、5人くらいしかいない小さい会社でした。その中で私はWebメディアの立ち上げに従事していました。Webメディアは広告掲出によって利益を出していくわけですが、失敗したとしてもダメージが少ない。意識が高い学生にトライアルさせてみるのにちょうどよかったのだと思いますね。
水野:しかし、バリュークリエーションではかなり苦労があったそうですね。
株本:大変だったのですが、乗り切れたのは中学・高校と体育会系の部活に所属していたからかもしれません。どんなことをされても「やり抜く根性」みたいなものが備わっていたのだと思います。さまざまなトラブルや嫌なことがあっても、「自分の中でどうにか消化していこう」という気持ちは変わりませんでした。
水野:ともすればつらい環境も、自分にとっては重要なことだと思っていたんですね。
株本:何より仕事が楽しかったんですよ。好きだったので寝る間も惜しんで仕事をして、勝手に業務経験が増えていった感覚ですね。だから成功するためには「自分のやっていることを好きになること」だなと思っていますし、いまだにその感覚を持ち続けています。
振り返ってみると、あのときに「企業経営とは何か」を経営に近い部分で見てきたことが、今すごくプラスになっていると感じます。起業後、一般的にやりがちなエラーや落とし穴を回避できたのは、このときの経験があってこそだと思っています。
◆すべての原点となったフリーランスとしての成功体験
水野:バリュークリエーションでの勤務後、大手コンサルティングファームのベイカレント・コンサルティングへ転職されたのですよね。こちらはどんな仕事をされていたんですか?
株本:ベイカレントもコンサル会社なので大まかにはバリュークリエーションと同じだったので、やりがいはありました。ただ、仕事観が「構造化思考」で、Excel関数で管理進行をするといった「型にはまった仕事」の仕方がどうしても好きになれなかったんです。型通りの方法で努力するのがメチャクチャ苦痛でしたね。
水野:前社がベンチャー企業でしたから、そのギャップもあったのかもしれませんね。
株本:はい。退職を決定づけたのが、勤務後1年の給与改定で給与が全然上がらなかったことでした。「この給料でまた1年、苦痛を感じながら働くのか……」と思ったら絶望してしまって。そんなタイミングで、武田塾の創業者で令和の虎としても有名な林尚弘社長が声をかけてくれたんです。
水野:林社長とのつながりがあったのですね。ここで出てくるのが驚きです。
株本:林社長とは、バリュークリエーション時代のお客さまの一人だったのですが、その頃から気にかけてくれていました。ベイカレントを辞めようかどうか迷っている頃、「最近どうしてるの?」って連絡をいただきました。それで飲みに行って現状をお話ししたら、「フリーランスになったら僕の仕事の一部を発注するよ」って背中を押してくれたんです。
水野:そんなオファーがあったのですね。林社長は実に多くの人の人生を変えているんですよね。
株本:ええ、そうですね。今でこそ林社長は超有名人ですけど、その頃は今ほどではありませんでした。いろんな人の人生を変えている人ですが、僕はその第1号かもしれません。
もともと林社長はバリュークリエーション時代にも僕の仕事を認めてくれていて、上司が担当していた仕事を「株本さんのほうが仕事できるから任せて」って言ってくれたりして。それはそれで上司に睨まれるので気が重かったのですが、評価してくれていたんです。
水野:フリーランスとして独立したのは、やはり林社長がきっかけだったのですか?
株本:もちろんそれも大きいのですが、実はバリュークリエーションからベイカレントへの転職のとき2か月くらい間があったので、留学でもしてみようかとフィリピンのセブに英語留学したんです。これがすごく楽しくて、今でも時間があればまた行きたいと思っているくらいで! その学校に来ている人の中に、フリーランスのエンジニアがいたんです。
それまでそういう人がいることすら知らなかったのですが、話を聞いてみると「月150万円の仕事を3か月とか半年とかやって、終わったらまた2か月こっちに来て、日本に帰るとまた別のプロジェクトに入って短期で働く」みたいな人だったんです。衝撃でしたね。「そんな働き方があるんだ」と。
水野:フリーランスとの出会いが強烈だったのですね。
株本:はい。その体験があったので、フリーランスとしてまずは独立することにしました。ベイカレントを退職してからその間、仕事を依頼していただけそうな人や仲が良かった人にコンタクトを取りました。
約束どおり仕事を発注してくれた林社長を含め、独立直後で3〜4社からお仕事をいただくことができ、翌月から月収が100万円以上になりました。会社員とはまったく違う給料で、改めて「フリーランスって最高だ」という気持ちを今でも覚えています。あれが本当の意味での最初の成功体験で、原点だと思っています。
◆まったく新しい組織のかたち「フリーランス集団」の誕生
水野:フリーランスで独立された後、2017年にStockSun株式会社を起業されたんですよね。現在の拡大ぶりは今やみなさんが知るところだと思いますが、プロフェッショナルのフリーランス組織で、顧客の課題解決を行う事業を行っているんですよね。
株本:はい。さまざまなフリーランスが属しているのですが、根っこの構造自体はシンプルで、フリーランスで仕事をしたところに1人、また1人と仲間が増えて今に至っていると感じています。
フリーランスって、最初のうちは1人で稼げることが楽しいんですが、売上が2000万円を超えたあたりから1人で得られる収入の限界も感じますし、何より「物足りないな」って思うんですよ。これは私の実体験でもあるのですが。
なので、1つのプロジェクトをフリーランスたちで達成していくことが楽しいですし、そこにやりがいも感じるのだと思います。
水野:そうかもしれませんね。フリーランスの人が「仲間と一緒にビジネスをしたい」という気持ちが出てくるのは自然ですよね。
株本: はい。多くのクライアントから評価されること、そしてStockSunに所属していることをフリーランスのみなさんに「価値」と思っていただければと思って会社運営をしています。
水野:まさに時流に合った働き方ともいえますよね。
株本:会社は現在8期目ですが、右肩上がりで成長を続けています。パートナーはいますが、バックオフィス以外に社員はほぼいません。そういう意味で私も今でも「フリーランス」だと思って仕事をしています。
◆効果が出るまで辛抱強く続けた人が、YouTubeの恩恵を得られる
水野:StockSunとしてYouTubeチャンネルも開設されていますよね。どんな目的があるのですか?
株本:YouTubeチャンネルはシンプルで、1つは新しいフリーランスの方に所属してもらうため。もう1つはフリーランスの方に私たちの考え方を浸透させるためです。
私たちのようにゼロから独立した人の人生を伝えていくと、理念の浸透も早いんです。動画を出す際に心がけているのは、「スーパー経営者の人たちの成功体験ではなくて、手が届く成功体験」。それが支持されているのだと思います。
水野:YouTubeチャンネルは2019年末から始めたということですが、その前から「令和の虎」への出演はしていたということですね。きっかけは何だったのですか?
株本:もともと林社長がみんなに「YouTubeやったほうがいいよ」とおすすめしていて、その中にマネーの虎に出演していた岩井良明社長もいたんです。そこから「令和の虎」の話が立ち上がって、「虎は誰がやるか」となったときに林社長と仲がよかった社長たちが初期メンバーになった。その中に僕も入っていたんです。
水野:令和の虎に出演するようになって、影響はありましたか?
株本:最初の頃は「令和の虎」も認知度がまったくなかったので、影響は全然ありませんでしたね。チャンネル自体が伸び始めるまで、だいたい1年かかりました。それは出演者がみな思っていて、「誰も見てないけど頑張る」という意識だったと思います。
水野:あるとき急にバズり始めたんですよね。
株本:はい、一定の認知が広がったところで切り抜きチャンネルが動画を流すようになって、一気に知名度が上がりました。番組内では応募者に対してコンサルタントとしての話がいろいろな角度から出てきますから、「虎」としては自分の能力の宣伝にもなる。実際に「令和の虎」がきっかけで、仕事はかなり増えました。結果的に良い影響をいただいています。
水野:経営とビジネスYouTubeの掛け合わせによる相乗効果を教えてください。
株本:ポイントは「会社の収益が上がる」「人が集まってくる」の2つです。
前者は、YouTubeで知名度が上がっていくことで本人や会社、サービスが有名になっていきます。知名度が上がれば、顧客が依頼するときの選択肢に入るため、当然多くの仕事が舞い込むことになります。
知名度が上がると会社に参加しようという人も増えますから、採用面にもかなりプラスです。実際、私の考え方や価値観を動画で見て、「良いな」と思ってくれる人が応募してきてくれます。そのため、企業とメンバーのミスマッチが起きにくく、離職率も抑えられるのです。YouTubeの費用対効果はとても高いと思いますね。
水野:そうなると、どんな人にもチャンスがありそうですね。
株本:ただ注意しなくてはいけないのが、効果には個人差がある、ということです。もともと求心力がある人がYouTubeで発信すれば、より多くの人に知られ、人が集まってきます。求心力がない人はいくらYouTubeを一生懸命やっても人が集まることはありません。まずはYouTubeを行う前に、他で認知拡大を行うことが大事だと思いますね。
水野:経営者本人がYouTubeをやるメリットはありますか?
株本:メリットは、売上に限らず、さまざまな反応がダイレクトに効果が反映されるということです。意外に思われるかもしれませんが、経営者本人の承認欲求が満たされることもメリットだと思います。
社長というと成功者のイメージがあるかもしれませんが、「人気者」ではありません。アーティストやアスリートみたいに歓声を浴びることは意外と少ない。ただ、YouTubeに出ていると、知らない人にも名前を覚えてもらえて、街中で声をかけられることもある。これは社長業では得られない、承認感覚だと思います。
水野:デメリットはありますか?
株本:経営の部分でバイアスにとらわれやすくなることですね。例えば、街中でたばこのポイ捨てをしたら、誰かに見られてSNSに書かれてしまうかもしれない。あるいは、赤信号の横断歩道を渡ると、何かつぶやかれてマイナスイメージがついてしまうかもしれない。
誰がどこで見ているかわからないので、限りなく品行方正に振る舞うしかなくなる。そうなるとどうしても、経営面でも「こうしなければならない」という考えにとらわれやすくなってしまいがちです。
会社経営をしていれば、リスクを負ってチャレンジするべきときもあります。ただ、そういうことが基本的にできなくなりますね。
◆正しいビジネス・経営の知識をつけたフリーランスが活躍できる社会にしたい
水野:これだけビジネスを拡大させてきた株本さん、今後の展望についても教えてください。
株本:1つは、若手のフリーランスに「正しいビジネスの仕方」を学んでもらうよう、伝えていくことです。フリーランスの中には、「即金で収入を得たい」と情報商材の販売に手を出してしまう人がいるんです。
たしかに、単発ならそれでいいかもしれません。ただ、「買ったけどダメだった」となってしまう例が本当に多いと感じます。もちろん、中には良い情報商材もあるのでしょうが、いずれにしてもフリーランスでビジネスをする際、顧客満足度の低い情報商材に手を出すのは反対です。
大事なのは、「自分のスキルで稼ぐ」という意識を持つこと。それと並行して、クライアントワークを行って、「社外の人に認めてもらえる人間」になること。これが本当に大切だと思います。その2つができることが「稼ぐ」ことにつながっていきます。若い人には、特にこの考え方をベースにしてほしいですね。
水野:おっしゃる通りですね。
株本:会社としては、今後ますます「優秀な人材がいる」ことを軸に事業を展開させていきたいですね。主役は経営者ではなく、ここで働いてくださっている「フリーランス」の皆さんなのですから。
【インタビューを終えて(水野)】
まだ30代前半という若さなのに、先日、StockSunの社長を降りて、自ら取締役におさまった株本さん。そこには「新社長の岩野さんのほうが優秀だ」という意識とともに、「法人より社長の名前が勝つと、逆にスケールが小さく見られる」という配慮もあったそうです。見ている世界が他の人とは違うな、という印象を強くしたインタビューでした。
【プロフィール】株本祐己
1990年生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒。Webコンサルティング事業を行うStockSun株式会社の創業者であり、現取締役。初期から「令和の虎」に出演していた。著者に『稼ぐことから逃げるな 若者たちに伝えたい「個の時代」を勝ち抜く方法 』がある。
<取材・文・構成/水野俊哉・高橋真以・掛端 玲>
【水野俊哉】
1973年生まれ。作家。実業家。投資家。サンライズパブリッシング株式会社プロデューサー。経営者を成功に導く「成功請負人」。富裕層のコンサルタントも行う。著書も多数。『幸福の商社、不幸のデパート』『「成功」のトリセツ』『富豪作家 貧乏作家 ビジネス書作家にお金が集まる仕組み』などがある。