ラーメン魁力屋の特製醤油ラーメン帝国データバンクによると、2024年に発生したラーメン店の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は72件で、前年比は約3割の急増となって過去最多を大きく更新した。
ラーメンもあらゆるコストが上昇し、庶民の食べ物が贅沢品になりつつある状況だ。店舗兼住宅で家賃が発生せず、家族経営の店であれば何とか採算が取れるかもしれないが、人件費や家賃も上がっている中では難しい。
◆新規店と既存店の競争が激化するラーメン店
「ラーメン千円の壁」がネックとなり価格転嫁ができずに、板挟み状態になって苦しむ店が多い。
ホットペッパーグルメ外食総研が実施したアンケート調査では、「外食で1000円の壁を感じるモノ」との質問では約8割の人が、ラーメンの1000円に抵抗感を感じるとのことだった。
この結果からラーメン店の経営者も値上げを決断するタイミングが難しいだろう。廃業したラーメン店の約8割以上が個人店だ。原材料高、人手不足や人件費の高騰、上昇する水光熱費は資金力が脆弱な個人店の経営を困難にしている。
ブランド力のある店は価格よりも味を優先するお客さんの比重が高いため、値上げを実施して利益を確保できているが、安さが売りで価格競争に埋没せざるを得ない店は苦しそうだ。
外食慣れした人が多く、業態の陳腐化サイクルが短い日本の外食業態の中で、ラーメンは特に「鮮魚系」「つけ麺」「油そば」など、トレンドの変化が著しい。新たな価値を提案して、次々とオープンする新規店と既存店の生き残り競争が激化している。
◆ラーメン市場は上位3社のシェアが20%の混戦状態
ラーメン店は全国に約1万6000店舗(2023年)が営業し、そのうち約半数がラーメンチェーン店だ。
地域に根差した小規模チェーンが多く存在するのもラーメン市場の特性で、市場規模は6000億円と推計される。
外食市場では、上位3社の占有率がハンバーガーチェーン市場92%、牛丼チェーン市場88%と寡占状態だが、ラーメンは上位3社(餃子の王将、日高屋、幸楽苑)のシェアが20%と低く混戦状態である。
そもそも上位3社は中華チェーンと認識されており、ラーメンチェーンと思っている人が少ないのが実情だ。そのため、現在は下位に留まっているが、上位を狙っているラーメン専門チェーンも多い。
◆業績好調の魁力屋。物価高騰のなか原価管理を徹底
ラーメン魁力屋を運営する株式会社魁力屋は2003年2月設立され、 東証スタンダード市場(2023年12月)に上場している。
京都発祥で、主力ブランドの「京都北白川 ラーメン魁力屋」を中心に、151店舗(直営店112店、FC等39店24年12月時点)を展開しており、前年(2024年)は18店舗(直営店10店舗、FC加盟店等8店舗)を出店した。
出店戦略は、関東・東海・関西の三大都市圏は直営店を中心に、それ以外の新商勢圏への出店はFC加盟店を中心に展開している。海外進出も計画しており、24年11月に台湾に子会社を設立して、海外への初出店に向け準備をしている。
直近の業績(2024年12月期実績)は、 売上122億7200万円(前年105億8300万円、前年比+16%)営業利益8億6000万円(前年6億7900万円、前年比+26%)営業利益率7.0%(前年6.4%、前年比+0.6%)である。
自己資本比率も61.4%と前年の58.9%から+2.5%高め財務基盤はより安定してきており盤石だ。主要コストの原価率は28.8%と、この物価高騰の中で前年(29.1%)よりも抑えられており原価管理は徹底されている。
◆魁力屋創業者のルーツは来来亭にあった
魁力屋は、最新の市場規模及び需要と競争の実態を把握し、自社の出店可能店舗数を算出し、未開拓市場を推計して出店可能店舗数を設定。そして、エリアごとに分けた直営店とFC加盟店の適度なバランスを維持しながら、精度の高い出店計画を策定している。
各地域のメガフランチャイジーにドミナント出店の支援体制も整備しているようだ。また、多様な店舗タイプを展開し、郊外ロードサイドが中心ではあるものの、商業施設内フードコートや駅前ビルインなどにも出店。前年はイオンモールへの出店も目立った。
魁力屋の自慢のラーメンである「京都背脂醤油ラーメン」は地域の嗜好性に左右されずに万人受けするという強みを活かし、全国展開を目指している。
個性が強すぎず幅広い客層に好まれるスープに仕上げ、麺、具材、ネギ、メンマなどを自分好みの量にカスタマイズする楽しさを提供している。
魁力屋と来来亭との違いが分からない人も多いが、その理由は、原点が同じ京都「ますたに系」であるから。来来亭で修行した後に独立したのが魁力屋だ。
来来亭は滋賀県野洲市で開業し、滋賀県から日本全国に向けて約250店舗を展開中である。京都で閉店していた店をレシピごと継承し再生させたのが始まりだ。
独自の「のれん分け制度」を有し、100人以上の社長を輩出しており、魁力屋も一例だ。来来亭のラーメンは、京都風醤油味の鶏ガラスープに背脂をふんだんに浮かせているのが特徴(背脂チャッチャ系)で、客が自分好みに背脂の大小、ネギの多さ、麺の細さ、麺を茹でる際の硬さなどを調整できるカスタマイズ化を特徴にしている。
◆「博多 一風堂」力の源HDも増収増益だが…海外店舗に暗雲か
一方、豚骨系の一風堂は1985年に福岡県福岡市中央区大名に最初のラーメン店「博多 一風堂」をオープン。
国内の直営店の運営は株式会社力の源HDが担っている。海外でラーメン人気を押し上げた立役者は「一風堂」と言われているくらい知名度は高い。
24年3月期の連結決算で、売上高は前期比21.7%増の317億7600万円、営業利益は同44.5%増の32億9600万円となっている。
本業の儲けである営業利益率は10.4%を超えており、今後の更なる成長が期待できる勢いがあるラーメンチェーンだ。ちなみに原価率も29.5%と低く抑えている。
気になる点は直近の業績(25年3月期:第3四半期連結累計:24年4月1日〜24年12月31日)で、売上は253億8500万円(前年同期比+8.7%)と上昇しているが、営業利益は20億7100万円(前年同期比−14.8%)と前年を下回っていることだ。
セグメント別で見ると、国内店舗事業の売上は115億3500万円(前年同期比11.7%増)、11憶7700万円の利益(前年同期比8.7%増)で増収増益だった。
しかし、海外店舗事業に於いては、インフレの煽りを受け、原材料価格の高騰、賃金・家賃等のコスト上昇が深刻で、価格改定やコスト見直しを実施しているものの、コスト増加分に対する価格転嫁等が間に合っていない状況だ。
売上は108憶2100万円(前年同期比+4.2%)と辛うじて増収だが、利益は7億2100万円(前年同期比−42.9%)と減益となっている。
◆4月に味噌ラーメン店を買収し店舗網を拡大
商品販売事業に於いては、新商品開発やECサイトにおいて定期便制度を開始したことで、売上は30億2900万円(前年同期比+14.4%)、利益は4億2900万円(前年同期比+13.9%)と前年を上回る結果となった。
国内外の店舗数は、グループ合計で291店舗(国内 151店舗、海外140店舗、前期末比国内6店舗増、海外2店舗減、ライセンス含む)である。国内の一風堂は新規に10店舗出店している。
力の源HDは子会社の力の源カンパニーにより今年4月に、味噌ラーメン店「らーめん 楓」などを東京・神奈川で8店舗展開するライズを買収し、ラーメン事業の強化を狙い傘下に入れる計画だ。
既存店とのシナジー効果を発揮し、店舗網を拡大して企業価値の向上を図るようだ。
◆今後のラーメン市場も大が小を吸収する構図は明確
市場はまだまだ成長余地があると予測し、自社のシェア拡大に向けM&Aを仕掛けるチェーン企業。今年に入り、吉野家HDが京都のラーメン店「キラメキノトリ」を買収するなど、攻めの姿勢が感じられる。
物価高によるコスト上昇分を価格に反映できず、利益なき繁忙の罠から脱出できない個人店が多い一方で、有力チェーン店は資本力を背景に規模の経済を発揮している。
そういった中、1000円以下で我慢の経営を強いられる店とブランド価値の高さを背景に1000円以上の強気の価格で販売する店との二極化も進展しているようだ。
資本力がある大手チェーンに、経営資源が脆弱な個人店や地域の小規模チェーンが立ち向かうのは困難で、今後も大が小を吸収する構図が明確になりそうである。
都市部の有力チェーンが海外市場の開拓とインバウンド効果を含めた国内需要の活性化に力をより注ぐだろうが、一方で地方チェーンが独自性を武器に大都市圏に進出するケースも増えるだろう。
限られた市場の奪い合いは、より熾烈な戦いとなるのではと推察する。
<文・中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan