ライバルのホストにはない、ならではの強みを活かして、日本一の座を狙うここ最近、“眠らない街”で話題を集めているのは、ホストの夜野仁さんだ。なんと働き出した初日の売り上げが「4000万円」だったというから驚きである。
表の顔は税理士法人代表。そして、サイバーセキュリティ会社の経営者、そのほかにもいくつかの会社を経営しているうえ、一般社団法人曙会では青年部部長を務めており、社会奉仕活動として困窮者の相談事業にも携わる。若干32歳ながら、表社会で成功を納めているのは一目瞭然だ。一体なぜ、そんな男性がホストデビューし、“二刀流”になったのだろうか。本人を直撃した。
◆なぜ、ホストになったのか
ーー単刀直入ですが、夜の世界で働きはじめた理由を教えてください。
夜野仁:歌舞伎町の大手ホストクラブグループさんにフランチャイズの新店舗開店があった際、そこの社長さんから店舗の税務を依頼されたんです。新店舗の立ち上げでは、キャストさんの不足や売り上げ面が大変という話から、少し冗談っぽいノリで「よかったら、ホストとして少しでも働いてくれませんか」と誘われたのがきっかけです。
税理士としてホストやバー、キャバクラといったお店の顧問を引き受けていました。その際に、水商売は大変な仕事だと感じており、夜の業界にリスペクトがありました。また、水商売関連の税務をやっている上で、その仕事をもっと深く理解したいという気持ちから、「僕でよければ」とお返事しました。
ーーホストのお仕事は初めてとのことでしたが、たとえばバーなどでバイトをしたことはあったのでしょうか?
夜野仁:いえ……。水商売の経験は全くナシです。居酒屋でのバイト経験とかしたことないんです。接客業といえば、丸亀製麺だけですね。夜のお仕事は、スーパーのレジや品出し、パチンコ店の深夜清掃してました。社会人になってからお客さんとして、キャバクラや新宿2丁目、ホストクラブなどに遊びに行き、いわゆる“夜の業界”に触れました。
◆税理士事務所の開業とともに、夜の世界に飛び込む
ーーなるほど。夜の業界は社会人デビューだったのですね。ちなみに、独立するまではどのようなキャリアを?
夜野仁:大学院を卒業した後、税理士事務所に勤務。働きながら税理士試験を受け続けて、すべての科目で合格となりました。税理士登録をしたのは約2年前で29歳のとき。税理士登録とともに独立しました。
ーーそして、税理士事務所の開業によって、より深く夜の業界と触れ合うことになっていくのですね。
夜野仁:はい。そうなんです。僕が税理士になり、1番最初に顧問をさせていただいたのはニューハーフバーでした。水商売や風俗に強い税理士事務所にしようという思いもあり、現在、うちの税理士事務所は水商売の方からの依頼が多いです。税務相談を受けていると、自ずとその企業さんや店舗さんの財務を見ていくようになります。僕自身、サイバーセキュリティ会社をはじめ、他の会社も経営しているので、経営者の方や店長さんから、経営についてのアドバイスを求められることも増えてきまして。思い切ってホストの仕事を引き受けたのも、水商売を経営面からも理解する必要性を感じ始め、そういった部分の知見を広げたいと思ったんです。
◆体重を20キロ落とし、満を持してホストデビュー
ーーやると決めたからには、しっかりやろう!! と決意した後、ホストデビューに向けてどんな準備をしていったのでしょう。
夜野仁:まず、ダイエットをはじめました。社会人になってからは、太る一方で……。このままじゃホストになれないと思い、ランチのラーメンを蕎麦に変える、揚げ物は一切食べないといった感じで徹底的に食事制限をしました。
ーーストイック!! 運動もしたんですか?
夜野仁:ジムはもともと通っていましたが、ボディメイクという観点から磨きましたね。結果、4ヶ月で20キロダウン。15年ぶりに体重が60キロ台になりました。
ーーそして、晴れてホストデビューとなったわけですね。今は、税理士の仕事を終えてから、AIRグループの新店「ALL NOTORIOUS」に出ているかと思うのですが、どんな感じで働いているのですか?
夜野仁:税理士事務所での仕事が夜9時くらいに終わって10時頃に出勤。その後、0時~1時くらいまで働いています。週1〜2回くらいですね。税理士事務所と店と自宅がそれぞれ近場なのでなんとかやれてます。月曜日に出勤することが多いのですが、火曜日の朝はやっぱり体がきついなと感じることも……。
◆実際に働いてみてわかったことは…
ーーお客さんはどんな人が多いですか?
夜野仁:最初は、税理士として長年の付き合いがある取引先の社長さんや友人関連が多かったです。初月の売上げ8700万円という額を達成できたのはその方達のおかげです。その後は、お店で出会った女性のお客さんなど新規のお客さんも増えてきました。男性のお客さんばかりだった状況を経て、今はお客さんの男女比が男性6割、女性4割といったところです。
ーー実際にホストをしてみていかがでしたか?
夜野仁:もともと大変そうだなと思っていましたが、想像以上に大変でした。おしぼりの渡し方、お酒の配分、グラスの氷の個数といったお店のルールを覚えるのはもちろんのこと、一番すごいと思ったのは、会話をはじめとするお客さんに対する気遣いの部分です。それまでキャバクラやスナックでは接客される側。当たり前のように受け取っていましたが、プロの接客のさりげない気遣いが、こんなに大変ですごいものなんだと、自分が接客する側になって初めて気付かされました。
◆初日の売り上げは4000万円。デビュー2ヶ月で1億5000万円に
ーー夜野さんが、一躍歌舞伎町で名前を上げたのは、初日の売り上げが「4000万円」だったから…ということはわかるのですが、一晩で売り上げた額なわけですよね。どうやったらそんな金額になるのでしょう?
夜野仁:1000万円くらい使ってくれている社長さんがいまして……。そのおかげで達成できました。
ーーやはりシャンパンをバンバン開けちゃうのでしょうか。
夜野仁:はい、そうですね。オリシャン(オリジナルシャンパン)をたくさん開けていただきました。ちなみに、僕のオリシャンは、顧問として長年の付き合いがある「バナナボーイ」という新宿2丁目にあるゲイバーのオーナーさんから仕入れたものなんです。パッケージには、そのゲイバーの方がバナナを食べている写真が入っているんです。そのシャンパンがホストクラブにズラッと並びました(笑)。
ーー売上げの記録がものすごいと聞きましたが、どれくらいだったのでしょう?
夜野仁:デビュー初月である2024年11月の売上げが8700万。11月、12月の2ヶ月での売上げは1億5000万円になりました。未経験での初月からの売上げ記録はホスト史上最速だとされています。
◆コンサルを武器に日本一のホストを目指す
ーーこれまでいわば真面目な人生を送ってきたのに、突如、ホストの仕事を始めたわけです。一体どこに向かっているのでしょうか。
夜野仁:周りからも、それよく言われますね(笑)。でも、ホストをやる以上は日本一を目指したいと思っています。トップになれたら引退します。
ーーそれは大変な目標ですね。他にライバルがいっぱいいますよね?
夜野仁:自分をホストとしてどう差別化していくかということは常に意識しています。実は僕、“ノンアルホスト”で席ではお酒を一切飲まないんです。かつ、コンプライアンスを重視しています。例えば、売り掛けを強要するようなことはまずなく、むしろ「お店に来るために無理をしないでくださいね」とすべての女性に言っています。ホスト業界には、僕から見ても本当に格好のいい男性、魅力的な男性がたくさんいます。業界としておもしろいし、決して害悪ではない。でも、今は売り掛け問題などで悪いイメージが先行しているので、少しでも良い方向に変えられたらと思っています。
また、接客面においては差別化に力を入れています。僕のお客さんは男女ともに経営者の方々が多いのですが、お客さんが「この金額を使っても損はないな」と思っていただける新しいホスト像を作りたいです。僕の強みは、経営者の方々にプラスになるような情報を提供できる点です。これまでには売上げを年間1億円伸ばした企業もあります。そういったコンサルをホストというお店の中でできる……これをウリにしていきたいと考えています。
ーーそのコンサルタント力は、税理士としての経験から得たものですか?
夜野仁:税理士として企業の財務を見させていただいていることはもちろん、僕自身、自分の税理士事務所やサイバーセキュリティの会社などの経営者だからこそ、様々な分野において経営戦略を立てられる力があると思います。
<取材・文/中山美里>
【中山美里】
性風俗、女性問題、金融犯罪などを中心に取材・執筆するフリーライター。性とお金に対する欲望と向き合う人間のフィールドワークがテーマ。ショークラブダンサー等を経て、未婚で1児を出産後、結婚。3児の母。高齢者の性を取材・執筆した『ルポ 高齢者のセックス』(扶桑社)など著書多数。性の仕事に対する差別や偏見解消に取り組む一般社団法人siente代表。