26日も延焼が続いた愛媛県今治市の山林火災。今治市民らは同日午前1時10分、スマートフォンから鳴り響く大音量のチャイムでたたき起こされた。同市朝倉地区で追加の避難指示を呼びかける警報。折からの強風で、地区のすぐ裏の笠松山(標高357メートル)から火勢が迫っていることを告げていた。
朝倉地区に住む岡本直子さん(76)はすぐ外を見たが、結局、避難は思いとどまった。「あの火事が頭にあった」という。「あの火事」とは、地区のシンボルともいえる笠松山の山林107ヘクタールを焼いた2008年の山火事のこと。「あの時も(住宅がある)下までは火が来なかった。今回も風の流れから大丈夫かと思った。安心なのか、油断なのか……」。それでも貴重品だけはいつでも持ち出せるよう準備をしているという。
同地区のパート従業員、小沢智奈美さん(64)は、強風が吹き荒れたこの夜、一睡もせずに火の行方を見守った。風向きが変わり、自宅の方向に火の粉が飛び始めたら消しに行こうと思ったが、避難所へ行くことは選択肢になかったという。自宅には愛犬のダックスフント3匹がおり、置いて逃げることは考えられないからだ。
「犬を連れていくと(ほかの避難者に)迷惑がかかってしまう。田んぼのあぜ道や空き地にでも車を止めて車中泊するしかない」。26日も煙がくすぶり続ける笠松山の山肌を凝視し続けた。
「やっとここまで来たのに」「涙が出るわ」。笠松山を望む今治市朝倉支所駐車場には、火や煙がくすぶり続ける山を近隣住民らが見にきては、ため息をついていた。08年の山林火災で山は丸裸になり、「復活には60年から100年は必要」と言われたほど。それでも行政、市民らが懸命に復興に当たり、17年間で緑の面積はみるみる増えていた。同市古谷(こや)の清水和也さん(73)は「本当につらいものがある。火事から10年ほどは(むきだしの山肌に)何もない状態。やっときれいになり始めたのに」。被害がこれ以上広がらないように、ただただ祈っていた。
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同地区のガソリンスタンド経営、青野久士さん(74)は「がいに(とても)よう燃えた。(08年の笠松山の山火事後)せっかく植樹してきたのに……」。どこかあきらめたかのような声を絞り出した。火がくすぶり続けた裏の笠松山まで自宅から50メートルほど。それでも夜の風向きが自宅とは反対方向だったことから落ち着いていた。「こちらに向いていたらえらいことだった」。やはり17年前の山火事を思い出したという。「植林の跡形もなくなったなあ」。振り出しに戻ったが、それでもこの地で笠松山の「復活」を見守りたいと思っている。【松倉展人】
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