
「この人、警察官と言ってるけど本当にそうかしら。怪しい」
ある事件の聞き取り調査だと語り、訪問してきた警察官に不信感を抱き、スカートのポケットに忍ばせていたレコーダーで会話のやり取りを録音したのは92歳の女性。
最終的にはまったく問題なかったとのことですが、警察や公務員などを装っての詐欺が多いなか、今や自衛が重要です。咄嗟の対応は日々の生活から培われたものらしく、日頃からレコーダーを愛用しているそうです。
その女性は、登録者数34.7万人のYouTubeチャンネル『Kuro―北国の暮らし』を運営するKuroさんの祖母(以下Kuro祖母さん)。日課としている音読で自分の声をレコーダーで録音するなどの活用法が紹介されています。
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89歳でYouTubeデビューし、世界中の人が見ていることにびっくりしつつも、これまでおくってきた日常と同様の暮らしを続けています。「何歳になっても健やかで自立した生活をおくりたい」と願うKuro祖母さんについて取材しました。
「自分の生きた証としてレコーダーや写真を…」
自宅リビングでピアノを奏で、ガーデンデザイナーである娘さんが手入れする美しい庭を散歩する日々に、「丁寧に暮らし、丁寧に毎日を生きている、本当に素敵なお祖母様」「おしゃれでセンスがあって、今も勉強熱心。憧れのおばあちゃん」「人生の良き先輩のお姿」などのコメントが寄せられるKuro祖母さん。
愛用しているというレコーダーは、家の中や外で大活躍。滑舌の良さを維持するために、2024年4月から始めた新聞コラムの音読では、「コラムを読む自分の声を録音する、聴く時に活用します。まちがえずに読めるまで繰り返します」。
また、庭に散歩に出る時に風の音や鳥のさえずりを録音したり、来客時のおしゃべりを記録したり、「録って、後で聞きたい」と思ったらすぐさま録音ボタンをオン。録音した音声データはSDカードに保存しています。だからこそ、咄嗟の判断で、不審と感じたタイミングで、録音できたのでしょう。
孫のKuroさんによると、「SDカードをたくさん持っていて、専用のケースに保管しています。カードにそれぞれ番号を振って、別紙リストに録音内容の概要を記して整理していた気がします」。不要だと思うデータは削除することもあるそうですが、Kuro祖母さん自ら、記録や保存が大好きと認めており、それらの整理整頓も楽しみのひとつ。
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写真道展第一席文部大臣賞を受賞したこともある、趣味でもある写真のプリントも膨大にあり、「やらなくちゃいけないことがたくさんあります。整理しなくちゃ、と言いながら写真を見ていると思い出がよみがえって、手が止まることも。ずっと書き続けている日記も読み返すのも楽しいです」。
「ずっと動ける体でいたいです」
YouTubeファンが魅了されるKuro祖母さんの趣味のひとつが、ピアノ練習。本格的にピアノを習い始めたのはなんと60歳をすぎてから。女学校に通っていた頃に耳にしたモーツァルトのピアノ曲に憧れ続け、ようやく辿り着いたのでした。
楽譜はあまり読めないので、耳で聴き、手で覚え、現在のレパートリーは『トルコ行進曲』や『エリーゼのために』など10曲ほど。毎日夕方の練習は欠かさず行い、「元気のない日も、弾いているうちに元気が出てくるし、指先まで血行が良くなります」。趣味でもあり、心身の健康にもつながっています。
ピアノ練習に限らず、日々の生活では健康づくりも意識。上記の音読に加え、栄養バランスの良い料理の自炊や、ソファの肘掛けを使って脚伸ばし運動、壁を使っての背中伸ばし、かかと落としなどもルーティンです。「ずっと動ける体でいたいですし、自立した暮らしをしたいですから」とKuro祖母さん。面倒に思わず、すきま時間にさっとやるのが長続きの秘訣だと話します。
Kuroさんは、「やりたいことには躊躇しないチャレンジ精神や好奇心も祖母の個性だと思います」。最近は、スマホの写真撮影にも熱心で、Kuro祖母さんは「一眼レフは重くて大きいけど、スマホは軽いし気軽に撮れるのが良いです。解像度が高く、色の美しさにも感心しました」とさすが写真を趣味にしていた人ならではの感想。
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「せっかくの自分の人生だから、楽しまないともったいない」と、いつも好奇心全開です。
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美しい映像が続くYouTube動画では言葉を発することはほとんどありません。かわいらしく、ファッションセンス抜群の高齢女性といった印象のKuro祖母さんですが、書籍『北国の暮らし 今を豊かに生きる家しごと庭しごと』(著:Kuro/KADOKAWA・1760円)では、三重から北海道へと嫁いだ人生や、暮らしへの思いを明かしています。
また、同書籍では同じく動画に登場するKuroさんの母が家や庭のことを、Kuroさんが動画作りへの思いを、自らの言葉で発信。3世代にわたる、豊かな人生のヒントに触れることができます。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・宮前 晶子)