画像提供:マイナビニュースNTT東日本とアジラは、人材不足の深刻化によるさまざまな社会課題を、有線・無線ネットワークと映像解析AIを組み合わせて共同で解決することを目的とした業務提携基本契約を1月29日に締結。本提携に基づき、NTT東日本は、アジラのライセンス提供のもと、クラウド上のAIが防犯カメラ映像の異常を自動検知する「ギガらくカメラ 映像解析オプション MIMAMORI AI」を3月31日より提供開始する。
さらに、本提携の目的である通信技術と映像解析AIを組み合わせることによる社会課題の解決を加速するため、NTTグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるNTTドコモ・ベンチャーズは、同社が運用するNTTインベストメント・パートナーズファンド4号投資事業有限責任組合を通じてアジラへの出資を実施した。
○世界トップクラスの行動認識AI
サービスの提供開始に先立って行われた記者発表会では、アジラ 代表取締役CEOの尾上剛氏が登壇し、同社が展開するサービスプロダクトについて紹介する。
2015年に設立され、今年の6月で10周年を迎えるアジラは、世界トップクラスの行動認識AIをベースとした各種プロダクト・ソリューションの開発・提供。特に姿勢推定・行動認識の技術が同社の一番の強みで、取得特許数は24個にも及び、競合アルゴリズムと比較しても、精度・速度ともに世界トップクラスの評価を受けている。
同社が行動認識AIを使って、防犯という領域に進んだ理由について、「日本は安心・安全な国とお感じになられているかもしれませんが、実際は犯罪が増えており、加えて、事件だけでなく、痛ましい事故も増えている」という尾上氏。防犯カメラが設置されていれば、防げた事件・事故が多いとしつつも、「防犯カメラと言っても、実際は事件・事故が起きた後に、警察が見返すといった感じで、事実上は防犯になっていない」と指摘し、「これを解決したいという想いで『AI Security asilla』をリリースした」と続ける。
さらに、日本の大きな課題として"人手不足"を挙げ、「特に警備業界は人手が足りない」として、さらに高齢化が進む中、「やはり人手だけでは、犯罪、事件・事故を防ぐことは難しい」という現状から、「これを弊社が提供するAIを使って、解決していきたい」との意気込みを明かした。
2022年にリリースされた警備システム「AI Security asilla」は、すでに設置されているカメラをそのまま利用できる点が大きな特長となっている。カメラそのものにAI機能を備えた、いわゆるAIカメラを新たに購入する必要はなく、既存のカメラをAI化することで、インシデントをリアルタイムに解析して、即座に対応。事件・事故が発生した後に見返すことが中心でしかなった「防犯カメラ」に新たな価値をもらたし、警備員の業務負担軽減や、総合的な警備品質の向上を可能にするという。
「AI Security asilla」が検知する内容は多種多様で、事件・事故に繋がるような暴力・破壊行為はもちろん、立入禁止エリアへの不法侵入などの迷惑行為、さらには体調不良によるふらつきや転倒した人の検知も可能となっている。
そして、同社が取り組み、大きな特許技術ともなっているのが「予兆・違和感」の検知。例えば、高齢者がエスカレーターのスピードについていけずに困っているような動きなど、通常とは異なる行動を“違和感”、事故に繋がりかねないような特徴的な動きを“予兆”として検知することで、事件・事故の防止だけではなく、安心で安全な環境の実現に寄与することができる。そのほか、人間の行動だけではなく、不審物や放置物の検知も可能。警備会社などのパートナーからヒアリングしたニーズも、プロダクトにしっかりと反映されているという。
リリースから約3年で、複合施設、商業施設などの大規模施設を中心に、国内100施設以上での導入が進んでいる一方で、「アジラが入っていけていないのが中小規模のビル」という尾上氏。「事件・事故を防ぎたいというニーズに規模の大小は関係ない」としながらも、同社のプロダクトは大規模施設向けのサーバーを現場に設置するオンプレミス型であり、カメラ一台単位でのサービス提供は「スタートアップの弊社では困難」との認識から、NTT東日本と連携することで「日本全国のお客様のニーズに応えていきたい」との想いを明かし、「弊社のプロダクトを大規模施設から中小、街なか、自治体など様々なジャンルの施設に導入させていただいて、安心・安全を高める。そんな日本を作っていきたい」と締めくくった。
○NTTドコモ・ベンチャーズが出資
今回、NTT東日本とアジラの業務提携において、出資という立場で参画するNTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長の安元淳氏は、アジラの技術、特に行動認識AIについて、「グローバルの観点から見ても、かなり優位性をもつ技術」であり、「リアルタイム性、即時性というところが、ソリューションとして、かなり強みを有しており、NTTグループとの協業を機に、さらに飛躍的に発展し、推進していく事業」と言及。「最終的に戦略リターンだけでなく、財務リターンも追求できるすばらしいスタートアップ」だと高く評価する。
そして、NTT東日本とアジラの業務提携によって、新サービスがスタートすることに触れ、「我々はアジラへの出資によって、財務基盤を支えながら、財務面で伴走していきたい」とし、「これからもNTTグループ各社と連携しながら、一株主の立場からアジラの経営サポートをしていきたい」との意気込みを明かした。
○「ギガらくカメラ」と組み合わせてクラウドで運用
「NTT東日本は、長年、電話や光回線、拠点間通信といったビジネスをやってまいりましたが、NTTグループの中では地域会社という位置づけになっており、地域のパートナー、DXやIT通信を活かすパートナー企業として、様々な地域の課題解決をテクノロジーの力で推進していくということを取り組んでいる」と話す、NTT東日本 ビジネス開発本部 無線&IoTビジネス部 部長の渡辺憲一氏。
そういった中で、クラウドや拠点間通信といった事業だけをやっていても「お客様の課題、地域の課題に寄り添えない」との見解から、無線技術とカメラやセンサー、自動運転、ロボティクスなどと組み合わせて提供するというビジネスに力を入れつつ、地域の課題という意味では、最大の課題は「少子・高齢化による労働力不足・人手不足」であると指摘し、「こういったところの解決に我々も貢献していきたい」と意欲を見せる。
今回の業務提携によってスタートする新サービスのカギとなる「ギガらくカメラ」は、簡単設置で手軽に始められる、クラウド型カメラモニタリング・録画サービス。すでに累計で約15万台が販売されており、他の拠点や外出先のスマートフォンで、拠点の映像を確認することができる。
従来の防犯カメラは、事件や事故の「抑制」や、事件・事故後にデータを見返す「録画」が中心の運用だったが、「カメラを使う用途も変化してきている」と指摘。少子・高齢化による労働力不足や人手不足、無人店舗の増加、体感治安の悪化により、リアルタイム活用による事件・事故の未然防止のニーズや常時監視人員の削減ニーズが高まっているという。
こうしたニーズに応えるべく、スタートする新サービス「MIMAMORI AI」は、アジラが開発した行動認識AIを採用し、カメラ一台単位から小規模・低コストなサービスを実現。オンプレミス型のAI警備システムである「AI Security asilla」は、サーバー単位でコストメリットの出やすい大規模施設向きであるのに対し、クラウド型の「MIMAMORI AI」はサーバーの設置が不要なため、中小規模の施設でも使いやすいプロダクトとなり、「ギガらくカメラ」のオプションとして、カメラとセットで月額およそ1.5万円(税別)程度から利用可能となる。なお、アジラが採用する骨格推定方式の行動認識AIは、物体検知方式では不可欠だった精密な画角調整が不要な点も大きなメリットになるという。
「MIMAMORI AI」は、「ギガらくカメラ」がインターネットに繋がっているだけで利用可能。拠点にサーバーを設置する必要がないため、サーバー設置のコストはもちろん、設置場所の確保も必要なく、簡易に導入することができる。そして、検知した情報に基づいて、担当者にメール通知を行う機能を備えており、問題の未然防止を迅速に実現。さらに、2025年度内のタイミングで、自動音声で注意を促すスピーカーや、有事の状況を知らせるパトランプなどとの連携機能も実装予定となっている。
「カメラを設置した際、警備や防犯など、単純に安全のためだけではなく、何らかのビジネス上の効果ももたらしたい」との思いから、セキュリティ用途に加えて、人数カウントや混雑状況、年代・性別を推定できる属性分析などの機能も利用可能とすることで、「一台のカメラが防犯にもビジネスにも使えるという姿を実現していきたい」と話す渡辺氏。なお、属性分析についてはプレビュー版として無償提供されるという(正式版リリース後、有償提供予定)。
このあと、発表会では、実際に「MIMAMORI AI」が利用されるシーンを想定した、コインランドリー(無人店舗)および商業施設におけるエスカレーターにおける実証実験の事例が紹介された。
実証実験を通して、コインランドリーでは、机の下に寝転んだり、小銭をあさるなど、想像を超える迷惑行為を検知。迷惑行為は利用者の離反につながり、売上機会の損失を招く可能性があるため、「MIMAMORI AI」の導入は、安全管理と運営効率化の両面で一定の効果があると考えられる。
また、施設利用者の高齢化に伴って事故件数が増加傾向にあるエスカレーターでは、転倒などの事故だけでなく、エスカレーターの前で立ち尽くしたり、キャリアカートごとエスカレーターに乗ろうとして滞留したりする様子を“違和感”として検知。特に中型商業施設においては、エスカレーターなどの危険箇所や死角エリアに限定して「MIMAMORI AI」をスポット導入することで、ヒヤリハットを検知し、重大事故の未然防止や早期発見が可能になるという。
さらに、会場においては、実際にふらついたり、転倒したりするところを検知する“現地デモ”や、遠隔地における進入禁止エリアへの立ち入りや迷惑行為などを検知する“遠隔デモ”が実施された。
また、3月21日・22日に品川シーズンテラスほかにて開催された「品川テクノロジーテラス2025」にもブースが出展され、「ギガらくカメラ」と「AI Security asilla」を組み合わせた実演デモが行われた。(糸井一臣)