ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』を原作ファンはどう見た?最終回前にぶっちゃける【微ネタバレ】

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2025年03月27日 18:10  CINRA.NET

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Text by 佐伯享介

ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』が3月28日放送の第10話をもって最終回を迎える。

「以下に挙げる人物が逮捕・起訴されたとしたら、その人は冤罪です」——クリスマスイブの夜に殺された元警察官の山下春生(リリー・フランキー)は、娘の山下心麦(広瀬すず)に手紙を遺していた。そこに記された「冤罪」という言葉と数名の名前を手がかりにして、心麦は弁護士の松風(松山ケンイチ)とともに父の死の真相解明に乗り出す。事件はやがて、春生がかつて担当していた一家惨殺事件・東賀山事件と交錯していく——。

インパクト強めのタイトルに興味を掻き立てられるドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』は、二転三転する先の読めないストーリー展開のクライムサスペンスでありつつ、回を追うごとに登場人物たちが抱える暗い過去が明らかになっていく群像劇的なヒューマンドラマでもあり、「親と子」というテーマが幾重にも変奏されていくファミリードラマでもある。

原作は『イチケイのカラス』の浅見理都による同名漫画で、ドラマ放送開始後となる今年2月に『Kiss』での連載が完結した。このことはドラマの制作プロセスにも影響を与えており、俳優たちは真犯人を知らされないまま演技をすることになったという。

そのため赤沢刑事役の藤本隆宏は「自分が犯人かもしれない」と疑いながら演技をしたと告白しているし(※1)、第1話プレミア試写会&制作発表会見に登壇した春生役のリリー・フランキーや神井役の磯村勇斗らも、「誰が真犯人か」と現場で予想しあっていたと明かしている(現場では神井が犯人ではないかと疑われていたそう)(※2)。

そういった現場の様子を反映してか、登場人物たちは誰もが怪しく見える。「この人は怪しすぎるからたぶんAだと思うけど、そう見せかけてきっとBだろう」と思って見ていたら結局AでもBでもなくCだった、とか、「この展開はベタだから違うと思う」と思っていたら案の定違って、「やっぱりか」と安心していたら結局裏切られてしまった、とか。

そんなふうに視聴者の予測や思い込みをもてあそぶようなストーリー展開が、SNSを中心に真犯人や事件の全貌についての考察を誘発してきた。

山下心麦役の広瀬すず

そんな本作もいよいよ最終回を残すのみとなり、大きな盛り上がりを見せているが、もともと原作ファンだったという編集者のAさんはやや不満顔を見せる。なぜだろうか?

「原作のよかったところが失われているような気がするんですよね」とAさんは語る。どういうことだろう。

「原作では、登場人物たちは良くも悪くも普通の人たちとして描かれていて、そこが好きだったんですけど、ドラマのほうはデフォルメされすぎているように思いました。とくに松風さんは、原作だと少し気難しいところもあるけれど、まあ普通の人なんですよね。そういう漫画っぽくない普通の人たちが自分の過去や事件と向き合っていく様子を、過度にドラマチックに盛り上げず、淡々と描いているところが好きだったんです。いい意味での抑揚のなさというか。でも、ドラマは登場人物の癖がすごいですよね。原作で癖があるのは粋の波佐見さんくらいなんですけどね……。1話を見たとき、どうしてこういう演技プランになったんだろうと疑問に思いました」

この違和感は俳優それぞれの演技の良し悪しに起因するものではなく、「制作サイドの作りたいドラマが、自分と噛み合わなかっただけだと思う」とAさんは理解を示す。「ドラマは原作漫画よりも漫画っぽく感じましたね。ただ、『Kiss』のような大人女性向け漫画誌ではなく、少年漫画誌に連載されている作品のような漫画っぽさ、ですが」

ドラマ制作サイドの思惑として、強烈な個性を持った「漫画的な」キャラクターたちでフックをつくるという狙いもあったのかもしれないし、視聴者の盛り上がりを見れば、その試みは成功を収めたと言ってもいいだろう。キャラクターの描かれ方に違和感があるかどうかは、漫画とドラマ、どちらに先に触れたかにも大きく左右される。実際、ドラマを先に見た筆者は、偏屈だが優しさややるせなさを胸に秘めたドラマ版・松風のキャラクターに惹きつけられたし、心麦らとの関わりのなかで松風が徐々に柔らかい表情を見せていく姿に心を温められもした。

実力派揃いのキャスト陣のなかでは、誰の演技がよかったのだろうか。Aさんは語る。

「やっぱり広瀬すずさんはよかったですね。原作の心麦ちゃんは大学生にしてはふわっとしているというか、ちょっと幼さのあるキャラクターなんですが、そういったピュアさや危うさみたいなものを的確に表現しているように思いました。キャスティングが発表された時点でこれは盤石だなと思いましたね」

「あとは神井役の磯村勇斗さんの怪しい演技もよかったです。リリー・フランキーさんは……すごく、原作のまんまでしたね。漫画から出てきたみたいでした」

筆者としては、赤沢京子役を演じた西田尚美の演技が絶妙だと感じた。細やかな表現からは、さすがベテラン俳優といった実力が伝わってきた。

最終回後だからこそ理解できる好演もあるはずなので、ストーリーを最後まで見届けたあとは、TVerやNetflixなどの配信サービスで俳優たちの演技だけをじっくり追う、という楽しみ方もできそうだ。

一方、原作との違いが気になるキャラクターも。「刑事の赤沢さんの描き方は気になりました」とAさん。ドラマ版での赤沢刑事は、事件解決のためには強引な捜査も辞さない強面で、マッチョイズムの権化のような人物だ。

「原作ではもうちょっと老成していて、疲れが見えているような人物だったんですよ。だから、ドラマ版は大胆に変えてきたなと思いましたね。けっこう重要なキャラなので、ストーリー全体のテイストに関わりますし。そこにどういう意図があったのか知りたいです」

ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』ビジュアル

謎が謎を呼ぶストーリーに関しては、「最終回前なので結末はどうかわかりませんが、第8話までは原作をほぼ踏襲していますね。ただ第9話からは原作と流れや見せ方がちょっと違うので、どうなるのかな、と思いながら見ています」とAさん。

「原作は『読むと恋する』がキャッチフレーズの『Kiss』掲載作品なのに恋愛要素のほぼない作品なんですが、ドラマも恋愛要素を無理やり付け加えるような変な改変はなかったですよね。一方で、続きが気になるようなドラマチックな演出やセリフの改変なんかが随所にあって、サスペンスドラマ感が強調されているような気がしました。賛否あるとは思いますが」

ドラマならではの要素については「劇中音楽やAdoさんのエンディングテーマの使い方が上手くて、エモーショナルでしたよね」と評価した。

最後にAさんは、「連載完結のタイミングも絶好でしたよね。浅見先生の作品が、このドラマをきっかけにもっと脚光を浴びてくれたら嬉しいです。原作のラストは、もうちょっと詳しく描いてほしかった気もしているんですが、ドラマ版ではどうなっているのか楽しみですし、ドラマ勢がどういう感想を抱くのかも気になります」と締めくくった。

漫画とドラマというメディアの違い。ターゲットや求めるものの違い。さまざまな違いがありつつも、原作とドラマ版、どちらも多くの人を惹きつける素晴らしい作品であることは間違いない。両方とも楽しめたほうがお得なんじゃないかと筆者は思う。

さて、いよいよ最終回。真犯人と東賀山事件の全貌はいかなるものになるのか。はたして原作と同じ結末を迎えるのだろうか? 楽しみに待ちたい。
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