
『キングオブコント2011』『2012』決勝進出、『オンバト+』初代チャンピオン、『THE MANZAI 2014』認定漫才師選出など、輝かしい栄光をつかみながらも相方の不祥事によりコンビは解散。現在は週5で土木作業に精を出しつつも、ピン芸人やスーパー銭湯パフォーマー「強烈」として活動する43歳、和賀勇介。
そんな和賀が、かつて同じ土木現場で働いていたマシンガンズ・西堀亮のYouTubeチャンネル「西堀ウォーカーチャンネル」にて「土木作業の日給を一日で使いきる男」(通称「土木めし」)として紹介されると、「なぜか幸せになれる」「魅力がある」「生き様がかっこいい」とじわじわと人気を集めるように。
芸人仲間がオープンさせた行きつけの居酒屋に和賀を呼んで吞ませつつ、現況を聞きながらその魅力にせまる!
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■朝コンビニで1000円、昼飯に1300円使う男
――芸人さんや配信者がごはんを食べるだけの動画が人気になったりする中で、「西堀ウォーカーチャンネル」での和賀さんも、ただ呑んでるだけなのに人気ですよね。「和賀さん回だ」って喜んでいるファンの方も結構いて。
和賀 ありがたいですけど、別にライブに来てくれるワケでもないのにね(笑)。
――(「お疲れクエン酸サワー」を頼むのを見て)最近はお疲れですか? 西堀チャンネルもあまり更新されていませんが。
和賀 そりゃお疲れでしょうよ。クエン酸すごくないですか? リポDとかより効き目ありますよ。俺、朝にキレートレモンをよく飲むんですよ。あれも効果ある。だって今、週5で土木よ。
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西堀さんのチャンネルで最初に「土木めし」をやった時は、まだ西堀さんが一緒の現場で働いていて、俺は月に2〜3回土木作業を手伝う感じだったんです。道路舗装の時だけ人数が必要だから行くってことで。
で、そこで欠員が出たら「和賀ちゃん今日出れる?」って言われるようになって、その頃は夜中にバーでも働いてたんですけど、それより朝に日光を浴びて働いた方が体にいいかなってことで、そこからズルズルと週5で働くようになったんです。
――それは有能ってことじゃないですか?
和賀 いや、もう本当に人が一人いればいいっていうだけ。いまだに何にも勝手は分かってないですし、作業中に写真を撮る係が必要だとかモノを持って運ぶとか、そういう簡単な仕事だけです。
――で、その日に稼いだお金を1日で使い切っちゃう、という動画が話題になりました。まだ使い切ってるんですか?
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和賀 そんなわけないでしょ! だって西堀さんがいるんだもん。西堀さんがいたら楽しいから呑みに行っちゃうんですよ。それで使っちゃう。いや、別に「使っちゃおう」っていう気もないんですよ。
――あの動画はヤラセ?
和賀 ヤラセじゃない!(笑) 気が付くとお金を使っちゃってるんです。まあ、あの動画ではちょっと誇張してるかもしれないけど、本当に朝のコンビニで平気で700円とか使っちゃってるんです。それでタバコも買ったらもう1000円超えるじゃないですか。
――で、昼に1300円のローストビーフ丼を食べるんですよね。
和賀 そうそう。だって現場から駅前までが遠かったんですよ。で、「現場近くの店が気になる」って話してる人がいて、「じゃあ俺が試しに行きますよ」って言ってローストビーフ丼を食って。その時はそれが1300円だろうが何円だろうが気にしてなくて。だってそれがすっげえうまかったんだもん。うまけりゃいいじゃん。それくらい払う価値はあるよ、ってなって。
そこの現場が何日も続いたから、そうなるとそのローストビーフ丼が楽しみで毎回その店に行っちゃうんですよ。そしたら「あいつは毎日1300円のローストビーフ丼食ってる」って言われるようになって、その話が西堀さんにも伝わって。「お前毎日ローストビーフ丼食ってるらしいな。おい、それ録らせろよ」って、それからあの動画のシリーズが始まったんですよ。
――現場の後に銭湯に行って、またコンビニで1000円とか使って、呑みに行って、気付くとその日の日給を全部使ってると。
和賀 そうそう。ただそれが毎回なわけはないでしょ! 月何回かの土木だったから、それができてたんですよ。それに土木以外のバイトもしてましたからね。毎回全部使い切るわけないでしょ。ただ、人よりは使っていると思う。
――それはやっぱりコンビニとかでですか?
和賀 そう。今「強烈」っていう純烈みたいなスーパー温泉アイドルを目指すユニットをやってるんですけど、ネタ合わせに行くとメンバーの島根(定義)さんに驚かれるんですよ。おにぎりとかコーヒーとかを買って行くだけなんですけど、「お前コンビニでいくら使ってるの!?」って。
確かに1000円ぐらい使ってるんですけど、「普通コンビニで1000円も使わないんだよ」って言われる。だって俺、腹減ってるし、食うために買っただけなのにワケわかんない。だって今なんかもう500円ではメシ食えないじゃないですか。
――それはそうですけど。
和賀 それ以来、島根さんが毎回コンビニでいくら使ったのか袋の中を見てくるんですよ。で、別に島根さんは西堀さんのYouTubeを見てるわけじゃないんです。なのに「コイツはコンビニで金を使いすぎてる」って違和感を持ってて、てことはやっぱり俺のお金の使い方が人よりちょっと多くて、みんなそれが気になるってことなんでしょうね。
――何に使ってるんですか?
和賀 おにぎりとコーヒーと、それこそキレートレモンみたいなものを買って。
――やっぱり疲労回復(笑)。ああいうのってすぐ飲めるけど意外と150円くらいしますからね。
和賀 そう。あとは気まぐれで「GABA」みたいなチョコを買ってみたり。
――今度はストレス軽減だ。別に何を買ってもいいですけど、「これから土木作業なのに朝からそれ要る?」っていう感じはありますね。
和賀 でもさ、GABAのチョコだって売れてないんだったらセブン-イレブンには売ってないでしょ? みんな買うから置いてあるわけで。
――人よりちょっとだけエンゲル係数が高いんですかね。そういうことの積み重ねで日給をまるまる使っちゃうんですね。
和賀 ってことですよね。
――で、普通ちょっと焦るじゃないですか。「今日使いすぎちゃったな」とか「日給全部なくなった」とか。和賀さんにはそういう焦りがないですよね。
和賀 いや、一人でそれに気付いた時は悲壮感ありますよ! でも西堀さんがいるし、酒呑んで楽しくなってるから「そりゃそんくらい使う時もありますよ〜」って楽しくなっちゃうんです。
――西堀さんのせいだ。
和賀 いっぱい使うのは西堀さんのせいじゃないけど、楽しくなっちゃうのは西堀さんのせいですね。で、楽しいから結局使っちゃう。そんなのキャバクラと一緒よ。
中原マネージャー 何か大きな買い物したあとに、呑んで忘れてた事件もありましたよね。
和賀 そう。その日がちょうど『セルダ(の伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム)』の発売日だったんですよ。だから新宿のヨドバシで買って、その後に飲み会行って。じゃあ金払おうってなった時に金がないんですよ。
「なんで? 俺何しました?」「誰か給料袋から金取りました?」ってなって。結構考えても何も思い出せないんですよ。で、仕方なくどうにか払って店を出て、後になって気付くんですよ。「『ゼルダ』だ!」って。出たら欲しいとは思ってたけど、使ったことを忘れてるんです。
――そういうところが、YouTubeの視聴者も見てて癒されるのかもしれないですね。
和賀 でも俺、あんま分かんないですよね。「あの動画見ながら呑むのは楽しいよ」みたいなことを結構言われるんですけど、自分では何が楽しいのやら。「自分だったらあんな動画絶対見ねえけどな」って思うんですけど、なぜか喜んでいただけるんですよね。
――今、芸人さんの炎上や問題もいろいろと起きている中で、すごく昭和の芸人さん然としているというか。
和賀 まあ「宵越しの金は持たねえ」みたいな人への憧れはありましたよ。そういう人になれてるつもりもないんですけど、でもこういう姿を見て「これが芸人だ」って言ってくれるんなら、そんな嬉しいことはないですけどね。
――西堀さんのYouTubeで新たな動画を待ってる人も多いと思いますよ。
和賀 結局あれって、西堀さんも土木のバイトをやってたから成立してたんですけど、西堀さんが芸人として売れて忙しくなって、ただ俺が週5土木をやってるだけになって、本当にただの土木作業員になりつつあるんですよ。「土木の日給をその日に使っちゃう芸人」じゃなくて、もうただの土木作業員なんですよ。
――じゃあ今は芸人ではない?
和賀 いや、芸人ではありますよ。まだ人前に立ってるもん。「あれ、今月人前立たずに土木しかやってねえな」ってなったら、その時はもう土木作業員を名乗りますけど、月20日土木やってても、1日でも人前立ってたらまだ芸人と言っていいと思います。
――月ゼロは?
和賀 ゼロになったらいよいよだな。「すみません、先月は土木作業員でした」って白状します。
■「SECONDに出てるやつら、幸せに思えよ」
――芸人としての未来とか目標についてはどう思ってるんですか? 賞レースに出たいとか、もう一度コンビを組みたいとか。
和賀 もうそんなものはないですよ。何にもない。
――例えば有吉さんとかマシンガンズさんとか、一度は不遇の時代を味わった身近な人たちが売れていくのを見てるわけじゃないですか。自分もそうなるのかなとか考えないですか?
和賀 いや、考えたことはあるよ。あるけど、それってもう何年前に思うことか。もうそんなことは思い終わった。
――夢は諦めた?
和賀 そもそもね、元から別にスターになりたいとかは思ってないんですよ。もちろんこんなふうになるとも思ってないし、もうちょっと順風満帆だろうなとは思ってたけど。35歳くらいかな、めちゃくちゃ売れなくてもいいから、60になってもコンビで舞台でコントをするんだろうなっていう、それくらいの覚悟は持ってやってたんです。そしたら、ある日突然、一人いなくなったんですよね。
――まあ、人生いろんなことがあります。
和賀 60過ぎてもコントする覚悟でいたのに、一人いなくなって、なんかそれもできなくなって。でも、「なんでこれでやめなきゃいけないの?」って気持ちもあるんです。だっておかしいじゃないですか。俺がきっかけでこうなったわけじゃねーから。
仕方ないから一人でやろうとするんだけど、そもそもネタなんか作ったことないし。コンビを組めるもんなら組みたいし、解散して余った人とかもいるでしょうけど、それで組んで前のコンビと比べられたりするのも嫌だし、若い人と組んだりする気にもならないしね。
――若い人でもベテランの人でも、和賀さんと組みたい人はいるんじゃないですか?
和賀 誰かと組みたい気持ちはあるけど、そのうち「なんかもうどっちもいいや」ってなっちゃうんですよ。本当にやるとしたら同世代とやりたいですけどね。だから野望とか夢みたいなのは別にないんです。
――西堀さんに、「『THE SECOND』がうらやましい」と話してましたよね。
和賀 それは「俺もあのままでいたら出れたんだよ」ってことですよ。うらやましいけど、そんなこと言ったってどうにもなんないでしょ。だって相方がいないんだもん。
――THE SECONDへ出場する資格はなくても、例えばR-1とかの資格はあるじゃないですか。新しくコンビを組んでまたキングオブコントを目指すとか、THE SECONDの代わりになることもあるじゃないですか。
和賀 いや違うな。SECONDがうらやましいっつうの。2023年かな、ある時突然THE SECONDっていう大会が生まれたんですよ。芸歴を16年以上続けてた芸人には、また新たな別の新たなチャンスが生まれた。でも俺は芸人を16年以上続けてるのに出れねえ。
同じように一緒に続けてたコンビは出てるのに、俺には出る資格すらない。それがうらやましいってだけで、別に他の賞レースに出たいっていうことじゃないんです。
「SECONDに出てるやつら、幸せに思えよ」って思いますもん。解散もしてないのに出てない風藤松原には怒ってますよ。あいつらなんで出れるのに出てねえんだよって。
――出られる資格があったらあったで、また苦悩があると思うんですよ。ようやくM-1から解放されたのに、また順位付けられなきゃいけないのか、とか。
和賀 まあそれは、いつまで付きまとうんだよって思うでしょうね。でも、出る資格もないやつからすると、出られるだけでうらやましいよ。
――じゃあSECONDとか賞レースの話は置いておいて、60歳まで舞台に立ち続けたいと思っていた夢のほうはどうですか?
和賀 今ね、「強烈」っていうユニットを同世代の芸人でやってて、その中で僕が最年少なんですけど、もしかしたらこれが最後のチャンスというか、もうこれしかないんじゃないかなって思ってます。
ただ、俺が60になっちゃうと、島根さんは70歳になっちゃう。ずっとやりたいことではあるけど、いつまでできるのかっていうのはありますね。
――じゃあ今の目標は、やっぱり強烈を続けるってことですか。
和賀 そうですね。あとはちっちゃい規模だけどネタもやってます。だってそれすらもやんなかったら、もう何をもって芸人なんだって思っちゃうから。
――小さくても希望があってよかったです。
和賀 何だよ、よかったですって。まあよかったですよ。
(後編へ続く)
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■和賀勇介(わが・ゆうすけ)
1981年生まれ、北海道出身。2001年2月、太田プロよりコンビでデビュー。『キングオブコント2011』『2012』決勝進出、『オンバト+』初代チャンピオン、『THE MANZAI 2014』認定漫才師選出などの記録を収めるも、2018年にコンビ解散。同年よりピン芸人として活動を始める。マシンガンズ・西堀亮のYouTubeチャンネル「西堀ウォーカーチャンネル」で「土木作業の日給を一日で使いきる男」として話題に。
取材・文/酒井優考 撮影/佐々木里菜 取材協力/居酒屋なっちゃん。