ブルボンヌ×児玉美月×奥浜レイラが『ベイビーガール』を解説! 90sエロティック・スリラーを感じさせつつ「これまでの作品と全然違う」

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2025年03月27日 21:01  クランクイン!

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(左から)児玉美月、ブルボンヌ、奥浜レイラ 映画『ベイビーガール』トークイベント  (C)2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
 28日に公開される、A24製作×主演ニコール・キッドマンのタッグで送る映画『ベイビーガール』のトークイベントが11日に開催された。本イベントには、女装パフォーマーのブルボンヌと文筆家の児玉美月、映画・音楽パーソナリティの奥浜レイラが登壇。細かな表現からニコールの俳優としての姿勢まで、時折笑いも起きる中で本作を語り尽くした。

【写真】「ニコマンさん渾身の表情も楽しんでほしい!」 トークイベントの様子

 愛する夫と子ども、キャリアと名声―すべてを手にしたCEOが、年下のインターンによって秘めた欲望をかぎ分けられ、力関係が逆転、深みにはまっていくさまを、行先不明のスリリングな展開と大胆な官能で描く本作。

 すべてを兼ね備えながらも、満たされない渇きを抱える主人公のロミーを演じるのはニコール・キッドマン。「役者として、人として、すべてをさらけ出した」と告白する圧巻の演技を披露し、ヴェネチア国際映画祭で最優秀女優賞を獲得した。そのほかキャストには、インターンの立場からCEOを誘惑するサミュエルに『逆転のトライアングル』のハリス・ディキンソン、ロミーの夫のジェイコブに『ペイン・アンド・グローリー』で数々の栄えある賞を受賞したアントニオ・バンデラスが名を連ねる。監督は俳優としても活躍し、ニコールにあて書きした脚本でその稀有なる才能を開花させたハリナ・ラインだ。

 ブルボンヌ、児玉、奥浜の三人は、イベント前の控室から早くも本作に関する話が盛り上がったそう。感想を聞かれたブルボンヌは「男女が逆だったら、不倫サスペンスとして今までも観たことがあるような設定だったと思うけど、それを年齢差のあるCEOとインターンという、極端にパワーの違う2人であること、女性の内側に秘めたフェティシズムや欲望を描いていること、さらに新進の女性監督との仕事をあえて選んでいるニコールが、このテーマを今、選んだことが刺激的で新しいと思いました」と話した。

 続いて児玉は「例えば『TAR ター』や『ELLE エル』など、権力を持った女性の映画は最近ちらほらありますが、男性の監督によって描かれていることが多かったので、こういうテーマを女性の監督が描いていることが興味深かった」とスタートから熱くコメント。

 本作でCEOとして成功している主人公のロミーについて児玉は「成功者が女性であるときに、女性として、美しさや若さのようなものも無言のままに社会的に求められてしまい、プレッシャーに感じてしまうことも、細かな描写でしっかり描いている」と評価。さらに、麻酔無しでボトックスを打つロミーには「痛みを感じたい」という伏線になっているのではと分析。ブルボンヌも、冒頭に登場する犬の描写について、ロミーが犬に自分を投影しているとしたうえで、「CEOだけあって、ちょっと強い黒そうな犬。決してチワワとか小型犬ではないよね笑。その犬を手なずけているという点で、主従関係の伏線よね」とその細かな表現に舌を巻いたことを明かした。

 ハリナ・ライン監督が『氷の微笑』『危険な情事』といった90年代のエロティック・スリラーに影響を受けていることがよく伝わると語る児玉は、サミュエルのあるシーンでのセリフが『幸福の条件』からの引用ではないかということ、また本作の冒頭シーンが『氷の微笑』の冒頭と同じ構図で始まることに触れ、その上で「女性を主体的に撮っているところが、これまで描かれてきた作品と全然違う」と解説する。

 ブルボンヌも「(それらの90年代作品と)同じようなシーン、男女の色恋のシーンがたくさん入っているけど、そこで動く感情が全く違う」と同意する。またMCの奥浜も、ロミーの夫・ジェイコブを演じたアントニオ・バンデラスに触れながら、「これまで夫婦関係を描く作品は、献身的な姿を女性・妻側に求められることの方が多かったと思う。それが今回はあえて、男性にしっかりと担わせているというところがありましたね」とこれまでと反転させたような男女の描き方に言及した。

 主演のニコールについて話が及ぶと、児玉はニコールが女性監督と18ヵ月に1回仕事をするという取り組みに触れ、「ハリウッドですでに権力を持っているニコールが、新鋭の女性監督とタッグを組むことで自分の権威を再分配していくところが、『ベイビーガール』のロミーと重なり合う。すごく発言に説得力があるなと思いました」と話す。さらに、ニコールが参加する作品について「女性監督と仕事をするというだけでなく、出演する作品自体のテーマも、セクシャルハラスメントの告発をする『スキャンダル』やクイア映画の『ザ・プロム』『ある少年の告白』など、クイアやフェミニズムを扱う映画に近年積極的に出ているイメージがある。ちゃんと問題意識を持って俳優活動しているんだなというのをすごく感じます」とその作品選びの観点や作品への姿勢についても称賛。

 ブルボンヌは、本作でのニコールの作品への熱い想いもあった上でのワイルドな演技に「劇中のロミーちゃんは、うつ伏せスタイルがお好きなのね…と思って見てました笑。ものすごくおしゃれともいえるし、無茶苦茶笑えるともいえる。あれをやれるのはニコマンしかいないと思うの」と、セルフプロデュースをして自ら切り開いているその姿勢を絶賛した。

 そんなニコール演じるロミーとパワーゲームを繰り広げるサミュエルの存在については、「『アノーラ』に登場するロシア人の男性と同じぐらいファンタジーだと思いました!」と児玉が話すと、MCの奥浜がサミュエルはほとんどバックボーンが描かれていない点に言及。するとブルボンヌは「サミュエルの設定そのものが、主人公ロミーの性的な欲望と、ロミーのように現代を生きる女性たちが築き上げてきたロールモデルであろうとするばかりに、その歪みから絞り出されちゃったミルクだったんじゃない?」と見事な分析を披露した。

 ブルボンヌから「日本で1パーセントしかいないであろういまだに妻に『愛してる』と言える旦那を持ち、でもその優しさだけでは満足できない欲望があるんです!というのを直球に表現している冒頭、どれぐらいの方がリアリティを持って感じるのかしら?」と「女性の性欲」というテーマについて水を向けられた、MCの奥浜は「権力を持っていて自立した女性であっても、自分の欲望を、必ずしも性欲だけではないですが、自分の望むものありのまま伝えることが難しいということ。自分の中で押し込めてるものが、彼女にもあるんじゃないかという表現なのかなと思って見ています」と話す。

 さらに児玉は「この映画の中では、権力不均衡のことについても皮肉っぽく描いているが、男女関係の力関係だけでなく、女性同士のパワーバランスも描いている」と分析し、その中に笑えるポイントもあると解説。

 しかし特に日本では、そういったテーマをジョークにすることや、笑うことが不謹慎ではないかと思われがちだという話に。するとブルボンヌは「飲み干した後のミルクの髭がキュートじゃない!この作品を笑い飛ばすぐらいの感覚で、世の中を感じ取ってほしい。今、性に対して厳しさや真面目さが向けられすぎている。そうするとまた窮屈さが反動で変な歪みを生むから、あまり追い込まない方がいい。そんないい子ちゃんばっかりじゃいられないんだよ!というね。”女性が自分を愛するための旅路”と監督が言ってますが、“分かるよ、あんたの気持ち”と声をかけてあげたい」と話す。

 最後に、児玉は「この映画はいろんな見方があって、すごく語りたくなる作品。みなさんのレビューを観るのを楽しみにしています」と呼びかけ、ブルボンヌは「正しさや理想を求める中で、願いや希望を完璧に作りすぎてしまう怖さを、女性たち自身が映画で発信している構造の面白さ、そのメッセージの部分も受け止めていただければと。それとニコマンさん渾身の表情も楽しんでほしい!」と締めくくり、時折笑いも起きるなど、大盛況だったイベントが終了した。
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