
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、市川紗椰が最近どハマりしたというドラマについて語る。
* * *
しつこい寒波のせいで出無精に拍車がかかり、ここ数ヵ月は家でドラマや映画、アニメなどの映像作品を見まくってます。くだらないコメディから硬派なドキュメンタリーまで幅広く摂取しているつもりですが、その中でも、"信頼できない語り手"が登場する作品や、登場人物の視点によってまったく見え方が異なる作品に引かれています。
例えば、Amazonのプライム・ビデオやHuluなどで見られるアメリカのサスペンスドラマ『ミスター・ロボット』。2015年から19年にかけて全4シーズンが放送されましたが、当時は物語のペースがゆっくりすぎてハマれなかったものの、好きな作品とやたらと比べられているので昨年末に再挑戦しました。すると、今回はどハマり! 難しい内容ですが、しっかり入り込むとめちゃくちゃ満足度の高いドラマです。
|
|
主人公のエリオット・オルダーソンは、ニューヨークのサイバーセキュリティ会社で働く孤高の青年。高度なハッキング技術を利用して他人の生活をのぞき見するのが日課でしたが、ある日、謎の男「ミスター・ロボット」率いるハッカー集団と出会い、お父さんの敵でもある巨大企業のハッキング計画に関わることに......。ネタバレを避けると、このくらいしか語れませんが、実際はもっともっと深くて心がえぐられるドラマです。
前提が覆るようなどんでん返しが何回かあり、最後は美しく幕を閉じます。伏線の回収がとにかく見事で、最後のまとめ方も素晴らしい。ただ、正直、辛抱しないといけない回もあります。ペースがゆっくりかつ難解な場面が多いのは事実ですが、根気よく見続ける価値はあります!「この場面つまらない」と思うことがあっても、ネタバレなしで見てください。
同じくどんでん返しが見事な作品は、昨年Apple TV+で配信された『ディスクレーマー 夏の沈黙』。こちらは『ゼロ・グラビティ』と『ROMA/ローマ』でアカデミー賞監督賞を2度も受賞しているアルフォンソ・キュアロンによる、初のドラマシリーズ。Apple TVらしく、ケイト・ブランシェットやケヴィン・クラインというビッグネームが主演しています。
ケイトが演じるキャサリンは、輝かしいキャリアを持つジャーナリスト。夫と息子と共にロンドンの一等地で不自由なく暮らしているキャサリンに、ある日、謎の小説が届きます。その小説には、誰も知らないはずの彼女の過去が赤裸々に書かれていた......という復讐(ふくしゅう)ミステリーサスペンス。たった7話のドラマですが、最後まで秘密を明かさない大胆な脚本に驚きました。
こちらもネタバレを避けたいからこれ以上は控えますが、われわれ視聴者にも内在している、無意識のうちの偏見や思い込みが浮き彫りになる展開(?)に感銘を受けました。物語の最後を知った上で見返すと、まったく別物に見えます。
|
|
映像美も見どころですね。ロンドンの街や、イタリアの海岸はもちろん、部屋の内装の色使いがどれもおしゃれで、目の保養になります。3つの時間軸を行き来する物語ですが、時代によってファッションや街並みが細かく違うのも見どころです。ぜひ!
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。Disney+のビーチ・ボーイズのドキュメンタリーも面白かった。公式Instagram【@sayaichikawa.official】