
『BETTER MAN/ベター・マン』(3月28日公開)
イギリス北部の街に生まれ、祖母の大きな愛に包まれながら育ったロビー・ウィリアムズ。1990年代初頭にボーイズグループ「テイク・ザット」のメンバーとしてデビューし、ポップスターの道を駆け上がっていく。
グループ脱退後もソロアーティストとして活躍し、イギリスのポップス界を代表する存在へと成長。しかしその裏には、名声と成功がもたらす大きな試練が待ち受けていた。
『グレイテスト・ショーマン』(17)のマイケル・グレイシー監督が、イギリスの世界的ポップ歌手ロビー・ウィリアムズの波乱に満ちた人生を、斬新な映像表現でミュージカル映画化。
主人公ロビーを全編サルの姿で表現するという奇想天外なアイデアと幻想的な世界観、そして圧巻のミュージカルシーンでダイナミックに描く。
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同じく『グレイテスト・ショーマン』のアシュレイ・ウォーレンが振り付けを担当。本作のために制作された「Forbidden Road」をはじめ、ウィリアムズの名曲の数々が物語を彩る。
グレイシー監督は、ロビーが自身を「サルのようにステージに上げられていた」と表現したことからこのアイデアを着想し、ロビーの視点で物語を描くという方法を思いついたという。ロビーも「音楽業界というマシンに身を委ねるには、ロボットかサルになることを要求される。そして、僕はサルを選んだ」と語っている。
とはいえ、やはり最初は正直なところ主人公がサルというところに違和感があったのだが、不思議なもので慣れてくるとその違和感は消えていき、クイーンの『ボヘミアン・ラプソディー』(18)やエルトン・ジョンの『ロケット・マン』(19)とは似て非なる、新たな試みの音楽伝記映画として見ることができた。
ただ、自分はロビーの熱心なファンというわけではないので冷静に見られたが、彼のファンにとってこの映画はどのように映るのだろうかという興味が湧いた。ロビーがフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」をカバーし、父と子の和解の象徴としたクライマックスシーンが心に残った。
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『ミッキー17』(3月28日公開)

失敗だらけの人生を送るミッキー(ロバート・パティンソン)は、地球から逃げ、何度でも生まれ変われる“夢の仕事”で一発逆転を狙うことを考える。
だがその内容は、権力者たちの命令に従って危険な任務を遂行し、ひたすら死んでは生き返ることを繰り返すという過酷なものだった。ところがある日、手違いで自分のコピーが同時に現れたことから、事態は一変する。
『パラサイト 半地下の家族』(19)のポン・ジュノ監督がブラックユーモアたっぷりに描いたSFスリラー。
何度も死んでは生き返る主人公というのは、例えば、トム・クルーズ主演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)などでも見られるが、この映画の場合は、過去の記憶をインプットされたコピー人間として生き返るところがユニーク。そんなミッキーを見ていると、人間の生と死やアイデンティティーについて考えさせられる。
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”一人十八役”のパティンソンはもちろん、独裁者夫妻役のマーク・ラファロとトニ・コレットが怪演を見せる。
地球外に移住したミッキーたちが遭遇する虫のような先住民が、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(84)のオームをほうふつとさせるところはご愛敬(あいきょう)。ただしこの映画、アイデアは面白いが、少々長くてくどいところが玉にきずだ。
(田中雄二)