ポン・ジュノ監督「映画を撮るたびに生まれ変わる」  “負け犬”の逆襲劇『ミッキー17』は「ポンハチです」

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2025年03月29日 11:30  ORICON NEWS

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映画『ミッキー17』(公開中)のプロモーションで3月下旬に来日したポン・ジュノ監督
 映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)で「第72回カンヌ国際映画祭」で韓国映画初となるパルム・ドールを受賞、「第92回アカデミー賞」では作品賞を含む6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞。歴史を塗り替えた稀代の映像作家ポン・ジュノが、アカデミー賞受賞後初となる最新作『ミッキー17』が今月28日より公開中だ。ポン・ジュノ監督は「映画を撮るたびに生まれ変わる」と、本作の主人公ミッキーに思いを重ねる。

【動画】映画『ミッキー17』特別映像

 失敗だらけの人生に嫌気がさしたミッキー(演:ロバート・パティンソン)が、投げやり気味に手を出したのは、身勝手な権力者たちの過酷すぎる業務命令で死んでは生き返る任務、まさに究極の“死にゲー”だった。ブラック企業の“使い捨て”ワーカーとなり、地獄のような日々を送るなか、17号となったミッキーの前に手違いで自分のコピーである18号が現れ、事態は一変。2人のミッキーは権力者たちへの逆襲を開始する。

 本作の原作は、アメリカの作家エドワード・アシュトンによる『ミッキー7』(2022年)。「“人体複製(プリンティング)”という概念」にひかれ、ポン・ジュノ監督自ら脚本を手掛けて映画化した。

■人生どん底、何の取り柄のない主人公の成長物語

――『ミッキー7』のストーリーにひかれ、この映画をつくろうと決めた理由を教えてください。

【ポン・ジュノ】原作小説のあらすじを読んだ瞬間に心を奪われました。そして、ページをめくるごとにどんどん引き込まれていきました。“人体複製(プリンティング)”という概念がとてもユニークだと思ったんです。クローンとは異なり、人間をまるで紙のように印刷する技術。この“人体複製(プリンティング)”という言葉自体に、すでに悲劇性が宿っていると感じました。そこで、「もし自分が印刷される側の人間だったら、どんな気持ちだろう?」と考え始めました。するとその世界観にすっかり引き込まれてしまったのです。

 また、主人公のミッキー・バーンズというキャラクターにも強くひかれました。原作でも彼は「ごく普通の人間」として描かれていますが、私はさらに“普通”にしたかった。もっと下層階級の人間にして、もっと“負け犬”感を強くしたいと思ったんです。そんなふうに、この物語を映画としてどう脚色するかのアイデアが次々に浮かびました。人体複製(プリンティング)のコンセプト、そしてスーパーヒーローとはほど遠い主人公ミッキーの存在――そのすべてが私を魅了しました。

――ロバート・パティンソン主演で、ワーナー・ブラザース映画より『MICKEY 17(原題)』のタイトルで2月28日に韓国で公開され、3月7日に全米公開されました。主人公は、アメリカ生まれの世界的に有名なキャラクターと同じ名前ですね。

【ポン・ジュノ】ミッキー・マウスのことですか(笑)。原作小説に「ミッキー・バーンズ」という名前があったので、私にとってはある意味で付随的なものだったとも言えます。原作者は「ラッキー7」を意識して、ユーモアを込めて「ミッキー7」にしたのかな、と勝手に推測していました。確認したわけではありません(笑)。それはともかく、私にとって重要だったのは「ミッキー」という名前の後に続く数字の部分でした。映画の中では「ミッキー18」まで登場します。最終的に「ミッキー・バーンズ」という本来の名前を取り戻して終わる映画になっています。この作品は、そんな彼の成長ストーリーでもあるんです。

――監督の作品は、社会のはみ出し者や、いわゆる“負け犬”と呼ばれる人々にスポットを当てることが多いですが、それには何か特別なこだわりがあるのでしょうか?

【ポン・ジュノ】私はこれまで、卓越した能力を持つ人物や、富や権力を持つ人物を描いたことがほとんどありません。ヒーローや権力者を描くことが、そもそも自分の性に合わないのかもしれません。そういったキャラクターを描くことに気持ちが乗らないんです。例えば、ヒーローが登場して、困難なミッションを簡単にクリアしていくような物語よりも、善良だけれどどこか欠けている人々が、到底抗えないような困難に直面し、もがきながら乗り越えていく――そんな物語のほうが、より“人間ドラマ”が生まれるのではないかと思っています。そこに本当の感情が込められる。私はそのようなストーリーに強くひかれるのです。

■登場人物はみんな「ちょっとおバカ」なラブストーリー

――本作では、何の取り柄のない普通の人間であるミッキーが、意図せずしてヒーローになってしまう。そのヒーローになる過程がとてもユニークですね。一方、ポン・ジュノ監督も『パラサイト 半地下の家族』で映画史を塗り替えるヒーローになりました。主人公ミッキーにご自身が重なる思いはありますか?

【ポン・ジュノ】『パラサイト』以降に起きたことは、私が計画してことではなく、目の前で次々とさまざまな出来事が起こっていった、という感覚に近いです。『ミッキー17』は確かにハリウッド映画ですが、私にとって英語圏の映画はこれが初めてではありません。『スノーピアサー』(2013年)、『オクジャ/ Okja』(17年)に続いて3作目になります。ですから、『パラサイト 半地下の家族』があったから今回の映画につながったというわけではないんです。

 本作のミッキーというキャラクターについては、置かれている状況こそ違いますが、私も映画を作り続ける“労働者”として、ミッキーに共感できる部分があります。1本撮るたびに、私は肉体も精神もすべてを注ぎ込み、まるで、一度死んで生まれ変わるような感覚で映画を撮っています。私にとって本作は8作目、つまり「ポン8」ですね。それくらい、自分の人生において1本1本の映画が大きな意味を持っています。映画を作るたびに、私自身の人格や性格、状態が少しずつ変化していくようにも感じます。そういう意味で、ミッキーと似ている部分があるかもしれません。「(日本語で)私はポンハチです」(笑)。

――これまでの作品と「ポン8」の違う点はありますか?

【ポン・ジュノ】これまで私が扱ってきた要素もありますが、今回初めて“人間の愚かさ”をより深く掘り下げました。そして、その愚かさが、時に愛すべきものになるという視点です。私の作品は、よく「冷酷でシニカル」と言われます。でも、今回の映画は「温かみがある」と言われることが多いですね。年を取ったせいかもしれません(笑)。本作の登場人物はみんな「ちょっとおバカ」なんです(笑)。これがとても面白い。スペースオペラのようにレーザー銃を撃ち合う作品ではなく、「愚かな愛すべき人たち」の物語になっています。

――年を取って丸くなってきたのでしょうか?また『グエムル-漢江の怪物-』(06年)のようなモンスターパニック映画を撮る可能性はありますか?

【ポン・ジュノ】私が丸くなったのは、年齢のせいなのか、それとも体重のせいなのか…(笑)。今作はラブストーリーでもあるんです。ミッキーとナーシャ(演:ナオミ・アッキー)の愛の物語です。何度も死んでは生き返る地獄のような任務を続けるミッキーが最後まで壊れずにいられたのは、ナーシャとの愛があったからだと思います。だからこそ、本作はこれまでの作品よりも「温かみ」があって「丸い」のかもしれません。

 が、これはあくまでも今作限定のことです。次回作として現在、アニメーション映画を準備しています。その後に控えている実写映画の企画が2つ、3つあり、そのうちの1本はホラー映画です。まさに“血の海、血の雨”が降るような作品です。現在制作中のアニメーションが「ポン9」なので、次の実写映画が「ポン10」か「ポン11」になります。私が死ぬまでに何本撮れるかわかりませんが……まだまだやりたいことはたくさんあります。

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