ドラマウォッチャー明日菜子が選ぶ、Netflixで観られるおすすめ作品3選。人生で一番良かった作品も聞く

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2025年03月29日 17:10  CINRA.NET

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Text by 廣田一馬
Text by 南麻理江
Text by 石原大輔

国内ドラマを中心に年間130本超を鑑賞するドラマウォッチャーの明日菜子さん。

ブログ「あすなこ白書」のほか、文春オンラインなどさまざまなメディアでドラマレビューを執筆するなど活躍の幅を広げているが、数年前までほとんどドラマは観ていなかったという。

今回の記事では、明日菜子さんがいまおすすめするNetflixで観られるドラマに加えて、活動を始めたきっかけや、人生で一番良かった作品について話を聞いた。

─今回はドラマを年間130本以上見る明日菜子さんに、配信で観られるおすすめのドラマをご紹介いただきたいです。

明日菜子:Netflixで見れるおすすめ3選という形でタイプが違う3つのドラマをご紹介させていただきます。

1本目はNetflixのオリジナルドラマの『阿修羅のごとく』(原作・脚本:向田邦子、監督・脚色・編集:是枝裕和、企画・プロデュース:八木康夫)です。今年の1月9日に配信されて、一挙配信でもう完結している作品なんですが、ほんと見終わった瞬間に「もう今年のナンバーワン出ちゃったな」と思いました。

向田邦子さんが原作で、何度も舞台化や映像化されてきた作品なんですが、今回は是枝裕和さんがリメイクされて、宮沢りえさん、尾野真千子さん、蒼井優さん、広瀬すずさんが四姉妹を演じています。

向田さんならではのホームドラマで、國村隼さん演じるお父さんがある日浮気をして、四姉妹はみな驚いたような顔をしつつも、心の中ではお互いに言えない秘密を抱えているという物語です。特に事件が起きるわけではないのに、どんどん物語が進んでいくのでめちゃくちゃ面白いですね。名作は何年経っても面白いんだと感じました。

明日菜子:ジェンダー観も女性の扱いもいまとは全然違うんですが、この四姉妹みたいに地に足つけて踏ん張って生きていかなきゃいけないな、とエンパワーメントされる作品です。

─時代のズレは見るときのノイズにならないのでしょうか?それとも、現代の感覚に合わせてある程度チューニングされてるんでしょうか?

私が作品を見た限りでは、決して向田邦子のエッセンスを消しているわけではなかったです。もう本当に、2025年は『阿修羅のごとく』をみんなが追いかける1年になると思います。

─ちなみに3月ですが、いまも1位を走ってる感じですか。

明日菜子:そうですね。今年だと大河ドラマの『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』もすごく面白くて、追いつけ追い越せの勢いでくるとは思うんですが、やっぱり『阿修羅のごとく』は圧巻で面白かったです。

明日菜子:続いてご紹介したいのが2014年にテレビ朝日で紹介された『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』(脚本:金城一紀、演出:橋本一、波多野貴文)という小栗旬さん主演の刑事ドラマです。

こちらはオリジナル作品で、映画化もされた直木賞作品『GO』の著者である金城一紀さんが脚本を書いています。冒頭に小栗さん演じる主人公の刑事が頭を打ち抜かれて死ぬんですが、すぐに生き返るんですね。その結果、不思議な力が身について死者と会話ができるようになって、その力を使って事件を解決していくというストーリーです。

主人公は刑事ではあるものの、事件が起きたら少し興奮するような一面があります。なので、犯罪者を取り締まりたい、懲らしめたいという衝動に駆られて、一線を越えて犯罪に手を染めちゃうんじゃないかとヒリヒリするダークヒーローものです。

最終回を見終わったら、たぶん背後を確認すると思います。ちょっとシャワーとか浴びてると気になっちゃうかも。

こういうなんとなく聞いたことがある設定のなかでも最高峰の作品で、すごく面白いと思います。

地上波での放送から数年経って続編も放送されたのですが、いまは待たずに観られるので、なんて便利な時代なんだと。この最終回に3年ぐらい「ううー!」ってなってた人がいたのかと思うと……。

明日菜子:最後はすごく迷ったんですが、『今夜すきやきだよ』(脚本:山西竜矢、今井慎一、本間かなみ、監督:太田良、山中瑶子)です。100人が観たら100人がいい作品と答える、傑作だと思います。

恋愛体質の太田あいこ(蓮佛美沙子)と他人に恋愛感情を抱かないアロマンティックの浅野ともこ(トリンドル玲奈)が同居するグルメドラマで、何回見ても最高です。この作品でリアルだと感じた部分ですが、友達とか親友とかって、好きなものだけじゃなく、ちょっと嫌なほうの価値観が一致したほうが、案外長続きすることありませんか?

─めっちゃあると思います。

明日菜子:この作品に登場する2人は、属性や恋愛観は異なるのですが、心のなかに通じている社会への生きづらさみたいなものが一緒なんです。具体的に嫌なものは2人ともバラバラなので、ときにはお互い踏み込んでほしくない柔らかなエリアに足を踏み入れちゃうときもありますが、対話でいいところを探っていくという。色あせない名作だと思いました。

─この2人の関係性はいいですよね。2人でいたらなんかちょっと強くなれるとか、ちょっと頑張れるとか、そういう共同体のあり方が、本当にさりげなく提案されていると思います。

明日菜子:あいこちゃんはその後結婚して、子どもも生まれたことでルームシェアを解散するんですが、結局同じマンションに住んでいるっていう。で、ときには面倒を見に行って。子どもの育て方も、こんなやり方があるんだなと思わされました。

─ここまでの3作品は現在配信されている作品から選んでいただきましたが、これまでの人生で一番良かった作品はありますか?

明日菜子:私は順位づけがすごく苦手なんですが、人生で一番良かった1本は決めていて、フジテレビの『恋ノチカラ』(脚本:相沢友子、演出:若松節朗、村上正典、村谷嘉則)が大好きなんです。

2002年の作品で、デザイン会社が舞台の作品です。深津絵里さん演じる主人公の本宮籐子はもともとクリエイティブ志望だったんですが、異動になって総務部で働いていたんですね。そしたらある日、そのデザイン会社で超売れっ子のクリエイターである貫井功太郎(堤真一)が独立することになって、なんと名指しで引き抜きされることに。

自分が引き抜かれたことに籐子は驚いていたのですが、なんと人違いだったんです。ただ、会社を辞めてしまったのでそのまま貫井の会社に籐子が入ることになるというストーリーです。

深津さんが演じる主人公がすごくキュートで……。彼女はくすぶっているアラサーの1人なんですが、夜な夜な世界の不幸映像を見ながら赤ワインをあおってるんです。「この番組好きですね」と聞かれて、「人の不幸って見てるとホッとするの」という場面があるんですが、その一言に惹きつけられましたね。ちょっとわかるな、みたいな。

でも、ときには平成ドラマの王道ヒロインらしく、挫折を前にしても「終わってないわよ! まだ始まってもいないじゃない!」と突き進んでいくんですね。恋愛ドラマとしても面白いですし、お仕事ドラマとしても激熱なんですよ。

明日菜子:途中の展開を言うと、意地悪をしてくる敏腕営業マン(西村まさ彦)が籐子の働く会社に入ってくるんですね。良いデザイナーはいたけど、それを売る営業マンがいなかったので、これで順風満帆にいくと思ったら、クリエイティブ対営業の戦いが発生するんです。クリエイティブを重視してあげたいけど、そんなんじゃ会社は回らないみたいな感じで。

当時のドラマは圧倒的にクリエイティブ側の視点が多かったと思うんですが、世の中の人は絶対みんな営業マン寄りなんですよ。西村さん演じる営業マンのプライドみたいなものが見える激熱展開がお仕事ドラマとしても面白いという、色褪せない名作だと思います。

─つくり手や俳優さんなどで、明日菜子さんの推している方や注目の方はいますか?

明日菜子:推しや注目なんていうのはおこがましい気もしつつ……俳優さんだと金子大地さんです。ずっと前から見ているんですが、いまの金子さんの演技はうっとりしちゃうんですよね。いまの俳優さんはみんな演技がうまいんですけど、どことなくちょっと線が細くて繊細そうなイメージがあるんですよね。

金子さんは体つきががっしりしてるイメージで、その男っぽさと繊細さが共存できる、なおかつどっちにも100%で振れるというのが改めてすごいなと。しかもどんどんキャリアを重ねてきて、20代後半でここに来れて、これからどうなっちゃうの⁉︎みたいな。

つくり手だと、プロデューサーの畑中翔太さん(dea inc.代表 / BABEL LABEL)という方に注目しています。もともとはドラマではなく広告畑の方でいろんなもののプロデュースをされていた方です。

最近は、テレ東のドラマで『お耳に合いましたら。』や『ポケットに冒険をつめこんで』の企画・プロデュース・脚本を担当されていたんですが、私はこの人のことを勝手に「エモの魔術師」って呼んでるんです。ほんとにもう、畑中さんの手にかかればなんでもいまっぽくなる。そしてちょっとエモいみたいな。

ドラマって、いまをどれだけ反映するかがすごく大事で。でもそれはセンスでしかないんです。それこそ私、生配信のシーンとかでも、流れてくるコメントをめっちゃ見ちゃうんですよ。ときにはこれ15年前じゃない? っていう電車男みたいなコメントが流れてくることも。

でも畑中さんは手がける作品は全部がいまどきっぽくなるというすごいバランス感覚の持ち主で、今年の4月期からTBSで『イグナイト -法の無法者-』という作品をプロデュースされるらしいので、すごく楽しみにしています。

─最後に、明日菜子さんについてもお話しを聞かせていただきたいです。ドラマウォッチャーという肩書きも印象的ですよね。

明日菜子:最近自分の名前を検索欄に入れると「明日菜子 何者」とサジェストが出てきて、そりゃそう思うよなと感じていたので、ちょっとお話させていただければと思います。

もともとはドラマはあまり観ていなくて、アニメのほうが好きでした。でも、仕事を辞めたときにすごく暇になって、何もすることがないからドラマを観てみたら、めっちゃ面白かったんです。それで友達に昨日のドラマ見た? って聞いたら、全然見てなかったんです。そのときに、大げさですけど、これは私が発信しないといけないんじゃないかな? っていう気持ちになり、Twitterとブログを始めました。

お仕事として依頼が来たのは、『野ブタ。をプロデュース』が再放送されたときに書いたブログがほんのちょっとだけバズったことがきっかけです。その時期はコロナで名作が再放送されていたんですが、ふと『ハケンの品格』を見て感想をつぶやいたら、当時の文春オンラインの担当さんからいきなり「原稿書いてみませんか?」とオファーいただいたのが始まりでした。

それから数年経って、『ルパンの娘』というドラマが映画化されるとき推薦コメントを書いてくれませんかという依頼をいただいて、そのときに肩書きをどうするか聞かれたんです。ライターとは自信を持って言えないな……と思い、ドラマウォッチャーと名乗ったのが、ここまで来ちゃったっていう感じですね。

─今後もドラマウォッチャーとして、100本以上の作品を観られるのでしょうか?

明日菜子:そこは続けられるか問題ですね(笑)。

ただ、活動を始めた頃はテキストが当たり前で表現の幅も狭かったんですが、いまは音声や映像などいろんな方法があるので、自分なりにトライしてみて、いろんな人とたくさんドラマの話ができればと思います。

─最後に、明日菜子さんにとっての「ドラマの魅力」を教えてください。

明日菜子:映画とか配信とかとも比較されがちなんですが、テレビドラマの魅力は基本無料で見れることと、その日、その時間にチャンネルを合わせた人が1番早く内容を知れることだと思います。それってすごいことだなと思っていて、ものすごい量の作品を、多くの人が同じタイミングで体感できるという身近さは、テレビドラマならではだなと思っています。

つくり手の皆さんには本当にいつも感謝していて、これからもいろんな人のいろんな話をつくっていってほしいなって思います。
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