親とボードゲームをして育った子どもと、そうでない子の“大きな違い”。開発者が語る意外な効果

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2025年03月30日 09:00  女子SPA!

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ボードゲーム専門店「すごろくや」の創業者・丸田康司さん
 近年、ボードゲームの人気が高まっています。ボードゲーム専門店「すごろくや」の創業者である丸田康司さんによると、2020年にコロナ禍の巣篭もり需要で急激に売上が上昇し、その影響が落ち着いた後も順調に伸び続けているといいます。

「昔はボードゲームといえば、一般的に『人生ゲーム』や『UNO』くらいしかありませんでした。しかし今は歴史や化石の発掘などをテーマにした、知的な能力を発揮しながら楽しめるものや、『ナンジャモンジャ』などの語彙力や発想力が問われるものなど、新しいボードゲームがたくさん出ており人気が広がっています。知育のために子どもに遊ばせたいという親御さんも多いです」(丸田さん)

 丸田さんは、「MOTHER(マザー)2」などのテレビゲームソフトの企画開発に15年間携わったあと、2006年に「すごろくや」を創業。ロシア発祥のカードゲーム『ナンジャモンジャ』の日本版を手がけて累計国内出荷150万個以上の大ヒットに導くなど、流通・販売だけでなくオリジナルのボードゲームの企画開発やイベント開催なども行いながら、「ボードゲームの総合商社」として普及に尽力しています。

 丸田さんがボードゲーム専門店の経営者に転身した経緯や、子どもがボードゲームで遊ぶことで育まれる力などについて聞きました。

◆テレビゲーム開発者からボードゲーム専門店へ

――テレビゲームソフトの開発者から、ボードゲーム専門店の経営者に転身したのはなぜですか?

丸田康司さん(以下、丸田):コンピューターゲームとボードゲームは、デジタルとアナログでまったく違うと思われがちですが、面白さの本質的な部分は変わらないと思っています。テレビゲームソフトの開発をやっていた当時も、面白いボードゲームから刺激を受けることが多くありました。

しかし、2000年以降テレビゲームの商業主義化が進みました。僕は「ゲームのパチンコ化」と呼んでいるのですが、確実に利益が出るかどうかが優先され、人気ゲームシリーズの2や3など、ナンバリングのタイトルばかり作られるようになり、新しい挑戦をすることが難しくなったんです。それでは仕事が面白くないし、むしろヨーロッパのボードゲームのほうがゲーム本来の凄みや面白さを体験できると感じるようになりました。

しかし、海外の面白いボードゲームを扱うのはマニア向けが多く、ファミリー層などを対象にした店はほとんどありませんでした。そこで、確かな知見を持って、もっと幅広い層にボードゲームの魅力を伝えたいという思いから「すごろくや」を立ち上げました。

――テレビゲームやスマホゲームと、子どもとの付き合い方について悩んでいる親御さんは多いですが、元開発者としてアドバイスはありますか?

丸田:一番注意していただきたいのは、「ゲームに遊ばされているかどうか」です。ゲームをする上で大切なのは、「自分の頭を使ってうまくやろうとすること」です。もしネズミが砂糖をほしがるようにボタンを押し続けているようであれば、問題のある状態だと判断していいと思います。

私が言うと意外かもしれませんが、頭を使う楽しいゲームであれば、テレビゲームでもスマホゲームでもいいと思います。むしろ親御さんも一緒に楽しむといいのではないでしょうか。「うまくいったね」と共に喜んだり、成長したりするのは、親子のいいコミュニケーションになると思います。

◆ボードゲームで育まれる、子どもの力とは

――子どもがボードゲームで遊ぶことで、どんな力が身に付くと思いますか?

丸田:論理的思考など、頭が良くなる効果を望まれる親御さんが多いのですが、実際には期待とは違うところが鍛えられるので、そこに気がつかなければ活かすことが難しいと思います。もちろん論理的思考なども伸びますが、ボードゲームで一番問われるのは社会性なのです。

ボードゲームの大きな特徴は、参加者たちが場を「小さな社会」と認識して支え合わなければできないことです。皆がルールや手続きを守ることで、楽しめる場を作っているのです。

――確かにコンピューターゲームは1人でもできますが、ボードゲームは無理ですね。

丸田:そうなんです、また社会性を身に付けることの中には、ゲームで負けそうになっても我慢して続ける忍耐力や、他人の勝利を尊重できるような情動の成長も含まれます。ルールを捻じ曲げてズルをすることと、ルール内で戦略を練ってゲームを有利に進めることの違いなども、楽しみながら少しずつ学べるといいですね。

しかし、「飽きた」とか「負けるのが嫌だからやめる」という身勝手な感情で場を壊してしまうのが子どもです。そこに気づいた上で親子で根気良く一緒に遊んでもらえると、社会性を育むことに活かしていただけると思います。

◆本質は「自分の頭で考えてうまくやろうとすること」

――海外発祥の面白いボードゲームがたくさんあるというお話がありましたが、例えば海外の方と一緒に遊んで交流することもできますか?

丸田:文字が使われているゲームでなければ大丈夫だと思います。特にドイツやフランス発祥のボードゲームは、さまざまな言語が使われているヨーロッパ全体に受け入れられるように、できるだけ文字を使わず、抽象化された記号や図を使って遊べるようになっています。「外国語が分からないから無理」と怖気付いたり照れたりせず、やってみるといいと思います。

――他にも、ボードゲームで育まれる力はありますか?

丸田:これはボードゲームに限らず、ゲームの本質だと思っているのですが、「自分の頭で考えてうまくやろうとすること」だと思います。自分で考えた方法をやってみて、うまくいったら「やっぱり自分の発想は当たっていたんだ」と自信がつくし、失敗したら「どうしてだろう?」と考えるきっかけになります。

 ボードゲームで育まれるのは、皆で成り立たせる「社会性」と、「自分の頭でうまくいく方法を考えること」、この2つに尽きると思います。ただ、親御さんの中にはそこを理解せず、とにかく自分の子どもを勝たせるために、強くすることを目的にしてしまう方もいます。

◆子どもを勝たせること・強くすることを目的にしない

――親が子どもを勝たせようとすることは、なぜ問題なのでしょうか。

丸田:勝たせることに目的がすり変わってしまうと、親御さんが自分で気付いた攻略法を子どもに教えようとすることが多いのです。皆でゲームならではの考える楽しみを発揮しようとしている場に、「パターンに応じた対処法」を持ち込んでしまう。それは、迷路を解こうとしている子どもに「次は右だ」と教えるようなものです。子どもに考えなくさせてしまっているのは誰なのでしょうか。それでは「自分でうまくいく方法を考える」という本質の部分が台無しになってしまいます。

また、親が自分がやりたいからといって難しいゲームを買ってきて、「このくらいできるだろう」と子どもに押し付けてしまうこともよくあります。子どもができないでいると、「こうしたら勝てるから」と、勝つためのパターンを教えてしまう。パターンを覚えると、難しいゲームでも何となくできるようになります。しかし、自分で考える経験を積むことができていないので、他のゲームをやらせてみると、年齢相応のもっと簡単なものもできないということがよくあります。

――そうならないためには、どんなことに注意するべきですか?

丸田:子どもが楽しく遊びながら社会性や、自分で考える力を身に付けるためには、今のその子に合った適切なボードゲームを選ぶことがもっとも重要です。

そのためには、「うちの子はこのくらいならできそうかな」と把握する必要があります。「このゲームはこういう力が必要だな」と読み取った上で、できる・できないを判断することは実はとても難しいことです。だからこそ、親御さんにはそこに注力していただきたいと思います。

子どもは1歳年齢が上がると、できることが大きく変わるので、対象年齢を無視して選んでしまうと、難しすぎたり、逆に簡単すぎて楽しく遊ぶことができないことがあります。

うちの店舗ではお子さんの年齢などに応じたボードゲームを選んでいただくために、スタッフが詳しくアドバイスを行ったり、店内で試しに遊んでいただけるようにしています。

◆もし購入したボードゲームが子どもに合わなかったら?

――もし購入したボードゲームが、子どもにはまだ難しかった場合はどうしたらいいですか?

丸田:対象年齢が合っていても、子どもの成長はそれぞれ違うので、できないこともあります。そういうときは一旦置いておいて、1か月単位くらいでときどき出してきて遊べるか試してみてください。そのためにも、最初に無理強いして「こんなもの見たくもない」と思わせないよう、お子さんの様子を見ながら勧めていただきたいと思います。

子どもに合うボードゲームを見極めるのは難しい作業ですが、3歳くらいから親と一緒にボードゲームで遊んでいたお子さんは、まったくやっていなかった子と比べると、5歳、6歳になったときの社会性や「自分の考えを発揮しながら楽しむ力」に大きく違いが出ます。ちゃんと座って自分の番を待つことができたり、自分で考えようとする姿勢が違ってくるので、少しずつでもやってみてはいかがでしょうか。

<取材・文/都田ミツコ 撮影/鈴木大喜>

【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。

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