
岡山県内で撮影され全国公開中の映画「劇場版 トリリオンゲーム」。「ロケ地、巡ってみたくない?」。先輩の提案に一瞬で胸が高鳴った。
何を隠そう、記者(23)は出演する目黒蓮さんの大ファン。登場するテレビ番組は全てチェックし、自宅のCDやグッズは日に日に増えている。彼が見た景色を見られる―。はやる気持ちを抑え、笠岡諸島(笠岡市)に向かった。
映画は人たらしで口八丁の青年ハル(目黒さん)と気弱だが、すご腕ITエンジニアのガク(佐野勇斗さん)が「トリリオン(1兆)ドル」を稼ごうとする物語で、人気漫画を実写化したテレビドラマの続編。ハルらがカジノリゾートを建設しようとした架空の島「岡山県桃木島」のロケは2024年2月、多くのエキストラが参加して笠岡諸島の白石、北木、真鍋島で行われた。
■真鍋島 「ここにいたんだ〜」高まる鼓動
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潮の香りが漂い、鳥の鳴き声が聞こえる。「ここに『推し』がいた」と思うと鼓動が高まる。同じ空気を全身で感じたいと、深呼吸を繰り返してみた。
笠岡港から船で約1時間。島民運動会などが撮影された真鍋島に到着した。
「たくさん写真撮って帰ってね」。運動会のシーンで登場する真鍋中で、教頭の虫明寛文さん(55)が迎えてくれ、ロケ地に選ばれた経緯を教えてくれた。
生徒が少ない真鍋中では毎年、島民が参加して運動会を開催。島外で暮らす人も帰省し島全体が盛り上がる一大イベントだ。村尾嘉昭監督がそのエピソードを聞き作品に盛り込みたいと撮影が決定したという。
当日はエキストラ約100人が綱引きや大玉転がしをして運動会を再現。虫明さんは「運動会が映像として残せてうれしい。少子化が進む島の現状を知ってほしい」と話した。
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昼食は、出演者らに看板メニューのカレーを振る舞ったという「モトエカフェ」へ。
正午過ぎに着くと、すぐ後に女子高校生4人組が来店。目黒さんと佐野さんが座った席に、店主の近藤民子さん(49)が案内すると、ぬいぐるみやアクリルスタンドといったグッズを出して撮影会が始まった。何枚も撮影した後「失礼します」とつぶやき、いざ着席。「わぁ」と脱力したように天を見上げた姿に共感した。
■白石島 出演者になりきり高校生と写真
次にハルたちがフェリー「金風呂丸」に乗って「桃木島」に到着する場面が撮影された白石島の船着き場へ。
ここでは島民が普段使用しているバイクや軽トラを5台使用し、フェリーから降りる様子を撮った。
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金風呂丸は全長約40メートル、水面からの高さ約5メートル。汽笛を鳴らして岸壁に近づく様子は大迫力だ。実際に島民らが船を乗り降りする姿は映画のシーンそのものだった。
金風呂丸に乗船すると、デッキに足跡の張り紙が四つ。船員の神村慧さん(42)に尋ねてみると、出演者が撮影時に立った位置だという。ファンらが出演者になりきって写真を撮るスポットになっている。
記者と同じくロケ地巡りをしていた岡山龍谷高3年の生徒(18)と一緒に写真を撮った。フェリー乗り場で出会い、「推し」という共通の話題で意気投合。体の角度や顔の向きなど映画の場面を思い出しながらの撮影は至福のひとときだった。
■笠岡到着 忘れられない島の人たちの優しさ
潮風が心地よく、島の人はみんな温かくておしゃべり好き―。「映画を見てきたの?」「撮影していた所まで案内しようか?」と声をかけてくれたり、「家の前を麦わら帽子をかぶった目黒さんが歩いていたよ」と裏話を教えてくれたり。島の人の優しさが身に染みた。普段はテレビや雑誌でしか見ることができない「推し」を身近に感じ、たくさんの思い出を持ち帰ることができた。
実際に見た景色を忘れないうちにもう一度、映画館に行こう。心に決めて眺めたフェリーからの夕日の美しさが忘れられない。
(まいどなニュース/山陽新聞)