『ようこそ実力至上主義の教室へ 』3年生編はとんでもない事態に!? リミッターの外れた綾小路の天才ぶり

0

2025年04月01日 08:00  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

衣笠彰梧によるライトノベル『ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編 1』(MF文庫J)

 Amazonの文庫カテゴリーで1位を走る小説が衣笠彰梧によるライトノベル『ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編 1』(MF文庫J)だ。本全体でも10位以内に入るその人気ぶりは、元からシリーズとして熱い支持を集めていたことに加えて、この巻から始まる「3年生編」でとんでもない事態が起こって、物語への関心をあおり立てたことがある。それはいったい何か? どうして「よう実」がこれほどまでに人気なのか?


 シリーズ最新巻にして「三年生編」の幕開けとなる『ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編 1』について紹介する前に、「よう実」がどのような話なのかを説明しておく。舞台となっているのは東京都高度育成高等学校で、そこに入学した生徒たちが様々な試験を受けながらクラスどうして競い合っていくストーリーが綴られる。


 クラスどうして競い合うのは、3年生の最後をAクラスで卒業すれば進学先や就職先の希望が100%かなえられることになっていたから。主人公の綾小路清隆はその高度育成高校にDクラスの1人として入学し、そこからAクラスへのランクアップを目指して動き始める。


 こう聞くと、落ちこぼれクラスによる下剋上ストーリー的なものが浮かぶだろう。トーンとしては間違っていないが、ここで重要なのが、綾小路が実は超天才である素性を隠して入学したこと。彼の父親が運営しているエリート養成機関「ホワイトルーム」の最高傑作だったが、そこを飛び出し育成高校のDクラスに潜り込んだこともあって、当初は前に出ずリーダーとなった堀北鈴音を支える形でDからのランクアップを目論んだ。


 縁の下の力持ちとも陰の実力者とも言えそうなそのポジション。自分には隠された実力があって本気を出せば凄いのだと思いたいティーンの感情を刺激する綾小路のキャラ設定が支持を集めた。いつの時代でも競争にさらされている若い世代にとって同時代性を持った作品として受け入れられたこともあって超人気シリーズへと躍り出て、「このライトノベルがすごい!2023」で文庫部門1位を獲得し、殿堂入りも果たした。


※以下、ネタバレあり

 ストーリーの方は、1年生編で堀北がリーダーとなったDクラスが様々な試験に挑む形で進んでいく。相手になるのはAからCまでのクラスとそれらを率いるリーダーたち。Aクラスは頭脳明晰で策謀家の坂柳有栖が葛城康平を退け率いるようになり、Bクラスは人望に優れた一之瀬帆波、Cクラスは暴力で支配する龍園翔といったリーダーたちが率いてDクラスの前に立ちふさがる。


 1年生編を通してさまざまな試験が繰り広げられ、その中で綾小路の陰の実力者としての存在感がジワジワと広がっていき、2年生編でクラスのランクを激しく変動させる原動力になる。結果、Dでスタートした綾小路清隆たちはBにまで順位を上げ、そして迎えた『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編 12』に描かれる学年末特別試験で最大の目標だった偉業を成し遂げる。それは……。


 ここからは、原作をここまで読んでいない人や、『ようこそ実力至上主義の教室へ 3rd Season』で1年生編の最後まで描かれたTVアニメで展開を追っている人にはまだ伏せておきたい事柄だ。まずひとつ。Bにまであがっていた綾小路のクラスがDにまで落ちていた一ノ瀬のクラスを退け、ポイントを獲得して待望のAクラスに上がる。そしてAだった坂柳のクラスが龍園のクラスにもポイントで上回られてCに落ちる。


 それだけではない。坂柳が退学してしまった。TVアニメの第3期で杖をついて儚げな中にとてつもない知略を秘めている姿を見せてくれたヒロインがシリーズから退場してしまった。堀北や綾小路が付き合っている軽井沢恵、そして一ノ瀬といった多彩なヒロインたちの中でも群を抜いた存在感を持っていただけに、どうしてと思ったファンも多かっただろう。


 ここで問題は、坂柳がどうして自ら退学を選ぶようなことをしたのといった点だ。クラスを暴力で支配しまとめて来ただけの龍園と、高度育成学園の理事長を父親に持ち、綾小路が「ホワイトルーム」出身の超天才であることを知り、自他共に綾小路に匹敵する実力者だと見なされていた坂柳とでは、坂柳の方がライバルとして手強いに決まっている。ところが、綾小路は相手にするなら龍園だと考えた。それを知って坂柳は身を引いた。


 ここでの綾小路の考え方が、予定調和から外れた波乱を求める彼の心情を表したものかが気になる。龍園に何があるのか? 単に自分と坂柳が2巨頭として飛び抜けてしまうことを綾小路が嫌っただけかもしれないし、どこか底知れないところがある龍園に心底から興味を示したのかもしれない。いずれにしても、坂柳が抜けてしまったことで今度はAになった綾小路のクラスが抜きん出る構造が生まれた。


 そこで驚きの展開がぶち込まれた。坂柳が抜けてCに落ちたクラスに綾小路が移籍したのだ。このことが示された『2年生編 12.5』を読んで、ファンは先が読めなくなって頭を抱えた。『3年生編 1』で全校生徒の知るところとなり、共にAクラスでの卒業を目指して突っ走ってきた堀北も、他のクラスメートたちも、担任の茶柱佐枝をはじめとした教師たちもひっくり返った。


 クラス間の均衡を保ちたいという綾小路の意図は分かっても、それが卒業という段階でどのような展開をもたらすのかが見えないだけに、最後の最後まで目が離せなくなった。『3年生編1』ではさっそく、綾小路のクラスと龍園のクラスが激突して、そこで綾小路の実力が試験の点数的にも、他のリーダーによる評価という点でも飛び抜けていることが示された。リミッターを取り払った綾小路の天才が、坂柳を斬り捨てて選んだ龍園を相手にどう炸裂するかに、今からワクワクさせられる。


 そこにもうひとつ、堀北とともに綾小路清隆のクラスメートだった高円寺六助も絡んでくるとしたら、これほど面白い展開はない。高円寺コンツェルンの御曹司で優秀ではあるものの協調性がなく唯我独尊を貫いていたが、コンツェルンを率いる父親と綾小路の父親との間で勝負が行われることになり、こちらも本気を見せる必要が出てきている。陰の実力者とトリックスターの激突が今から楽しみだ。


 2年生編の最終試験では人物を見る目が試され、3年生編の最初の試験では教科テストでメンバーを選び良い点を取ってもらうことだけではないリーダーとしての資質も試されるなど、「よう実」内で繰り出される多彩な試験の面白さも続いている。クイズ的でミステリー的な感性が求められる試験の描写と、めぐらされる策謀をくぐり抜けて勝利を掴むサスペンス的な要素、そして少年少女の恋情を探るラブストーリー的な要素が絡み合ったまま進む「3年生編」の終わりに何が描かれるのか。綾小路は何者になるのか。ドキドキしながら追っていこう。



    ニュース設定