2025年F1第2戦中国GP マックス・フェルスタッペン(レッドブル) ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、早ければ2026年にもマックス・フェルスタッペンがアストンマーティンに移籍する可能性があるとするうわさについて考察する。
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レッドブルRB21が中国グランプリにおいて4番目に速いマシンだったと言うのは公平な評価だろう。つまりマックス・フェルスタッペンの4位という結果は、マシンによるものというよりも、彼自身の力によるものだったと言える──もう一台のRB21を駆るリアム・ローソンがどこにいたかを見れば明らかだ。
4番目に速いマシンで4位という結果は、4回のワールドチャンピオンに輝いたフェルスタッペンにとって、F1にいる理由にはならないだろう。彼が現在のレッドブルとの契約を打ち切り、アストンマーティンに移籍するといううわさが盛り上がりを見せている。今回のコラムでは、そのうわさについて考察する。
2024年シーズン最終戦の週末、アブダビで、レッドブル代表クリスチャン・ホーナーがアストンマーティンのホスピタリティに入る姿が目撃された。ホーナーはそこに2時間も滞在したといわれている。レッドブルのボスはアストンマーティンで何をしていたのか? なぜそんなに長い時間そこにいたのか? その理由はフェルスタッペンに関することなのか?
うわさがさらに高まったのは、2026年からフェルスタッペンがアストンマーティンで走ることを、同チームが潜在的なスポンサーや現在のスポンサーに約束したとされる情報が1月に浮上したためだった。
私は、今のところ、フェルスタッペンとアストンマーティンの話を、“うわさ”として距離を置いて扱ってはいるが、考えれば考えるほど、それが理にかなった動きのようにも思えてくる。
■アストンマーティンを選ぶべき理由:高額なサラリー
フェルスタッペンが今シーズン後にアストンマーティンへ移籍する場合、その理由は何か。
理由のひとつは、サラリーだ。アストンマーティンのボスであるローレンス・ストロールは、F1チーム運営において、「やるべきことはどんな犠牲を払ってでもやる」という哲学を採用している──それはシルバーストンに建設された新しいファクトリーや、エイドリアン・ニューウェイを含む他チームからの多数の人材の引き抜きによって明確に示されてきた。
ストロールはフェルスタッペンとの複数年契約のために、10億ドルを用意しているという報道も出た。F1の世界においてさえ、それは途方もない金額だ。
少し前に私は、ルイス・ハミルトンのフェラーリ移籍についてのコラムを書いた。そのなかで、サー・ルイスにとってサラリーはおそらく大きな要因ではなかったと述べた。彼はすでに“レーシング・ビリオネア”のステータスに伴う“おもちゃ”を手に入れており、実際、すでにプライベートジェットを売却する段階に至っている。
フェルスタッペンの場合は事情が異なる──彼はハミルトンより13歳若く、まだ“おもちゃ”を買い始めてからの年月がハミルトンほど長くないからだ。最近、新しいプライベートジェットを購入し、次の買い物リストにはヨットが載っている。要するに、40歳のルイス・ハミルトンにとってはもはやお金が主な動機ではないが、27歳のフェルスタッペンにとっては依然として重要な要素なのだ。
■アストンマーティンを選ぶべき理由:ホンダエンジン
2026年に施行される新しいエンジン規則も、フェルスタッペンをアストンマーティンへと移籍させるかもしれない理由のひとつだ。
フォードの支援を受け、レッドブルは2026年向けの新しいエンジンを自社で開発している。これは、レッドブル・パワートレインズから生み出される初のエンジンとなる。レッドブルは最初から勝てるエンジンを作れるだろうか。不可能とは言い切れないが、しかしそれは考えにくい。2026年に成功する可能性がはるかに高いのは、豊富な経験を持つホンダであり、そのことをフェルスタッペンは理解している。
そして、新しいホンダ製エンジンを搭載するチームはどこか? そう──もちろん、アストンマーティンだ。アストンマーティンへ移籍することで、フェルスタッペンはホンダとの成功したパートナーシップを継続できる。これまで、彼の最初の4度のワールドチャンピオン獲得を支えたエンジンは、すべてホンダが供給したものだった。
■アストンマーティンを選ぶべき理由:エイドリアン・ニューウェイ
フェルスタッペンのワールドチャンピオン獲得をシャシー側から支えたのがエイドリアン・ニューウェイだった。ニューウェイは3月初めにアストンマーティンでの仕事を開始したが、その時点で2025年のマシンはすでに開発が進んでいた。そのため、彼は主に次のシーズンのマシン開発に集中することになる。このこともフェルスタッペンの将来の決断に影響を与えるだろう。
レッドブルとの契約を延長すれば、2026年、フェルスタッペンはニューウェイの影響を受けていない初めてのレッドブルに乗ることになる。しかも、それは未経験で実績のないエンジンメーカーが開発したパワーユニットを搭載するマシンだ。一方で、彼は7年間にわたり大きな成功を収めてきたエンジンメーカーと組み、ニューウェイが設計したマシンを選ぶこともできる。さて、彼はどちらを選択するだろう。
■アストンマーティンを選ぶべき理由:新たな挑戦
すべての偉大なF1ドライバーと同様に、フェルスタッペンも大きな自尊心を持っている。彼は、自身の数々のワールドチャンピオン獲得における個人的な役割を強調したいと考えている。その最良の方法は、異なるチームで勝利することだ。現在までにフェルスタッペンが挙げた63回のグランプリ勝利はすべてレッドブルで達成されたものだが、もしアストンマーティン(あるいは他のチーム)でも勝つことができれば、彼の評価はさらに高まるだろう。
それに、レッドブルだけで勝ち続けるのはフェルスタッペンにとって、少し退屈なことではないだろうか。まだ27歳とはいえ、フェルスタッペンはすでにF1で10シーズンを戦っており、新たな挑戦をする時が来ているのかもしれない。
■アストンマーティンを選ぶべき理由:父ヨスとホーナーの確執
そして、レッドブル内部の対立という要素もある。約1年前、対立は激化しており、フェルスタッペンがチームを去ると脅すほどだった。それ以来、状況は落ち着いたものの、特に父ヨス・フェルスタッペンとクリスチャン・ホーナーの関係は、多くの人々に「いつ爆発してもおかしくない時限爆弾」と見なされている。もし(というより、それは時間の問題かもしれないが)それが起これば、マックスが父親の側につくことはほぼ確実であり、家族の絆が彼をレッドブルから引き離すことになるかもしれない。
ヨスとホーナーの対立が最も激しかった時、フェルスタッペン・シニアは「ホーナーがチーム代表を続ける限り、レッドブルは崩壊の危機にさらされる」と発言した。当時、それはヒステリックな彼の戯言と見なされたが、その後、チームの最も重要で経験豊富な2人の人物がチームを去った。ニューウェイとスポーティングディレクターのジョナサン・ウィートリーだ。彼らは共に2006年からレッドブルに在籍していたが、ニューウェイは3月1日からアストンマーティンで働いており、4月にはウィートリーがザウバー/アウディのチーム代表に就任する。
■排除されるのはアロンソ
ドライバーの契約年数を見ると、来年に動きはなさそうに思われる。フェルスタッペンは2028年までレッドブルと契約しており、アストンマーティンは現在のドライバーであるフェルナンド・アロンソとランス・ストロールを2027年まで起用することを明らかにしている。
ただし、F1において契約は通常、新たな交渉の出発点と見なされるものだ。ローレンス・ストロールの強大な財力があれば、フェルスタッペンを現在のレッドブルとの契約から買い取ることは十分可能だろう。
フェルスタッペンがアストンマーティンに来年移るとして、誰と入れ替わることになるだろう。それはアロンソしかあり得ない。ニューウェイが設計するマシンとホンダ製エンジンという展望があるなかで、ストロール・シニアが「息子ランスをF1ウイナーにする」という野望を諦めるとは考えにくい。
『フェルスタッペンがアストンマーティンに移籍する』という話題は、まだただのうわさにすぎない。しかし、ハミルトンがフェラーリと実際に契約する前に、両者の関係が“うわさ”として長く取り沙汰されていたことを忘れてはならない。F1の大きなセンセーションはすべてうわさから始まる。なぜなら、パドックは小さな世界であり、常に「何か」を見たり聞いたりした誰かがいるからだ。
[オートスポーツweb 2025年04月03日]