NHK2025年前期 連続テレビ小説 あんぱん おたのしみブック/東京ニュース通信社◆新朝ドラ『あんぱん』の主題歌に「違和感」の声
NHK朝のテレビ小説『あんぱん』が3月31日から始まりました。アニメ『アンパンマン』の作者であるやなせたかしと小松暢夫妻の半生をモデルにしたストーリーです。戦禍に見舞われた時代で、正義のヒーロー「アンパンマン」を生み出すまでの波乱万丈を描いています。
ところが、2人組ロックバンド「RADWIMPS」による主題歌「賜物」に、一部から疑問の声があがっているのです。
RADWIMPSは、新海誠監督のアニメ映画『君の名は。』の「前前前世」や、つづく『天気の子』の「愛にできることはまだあるかい」の大ヒットで、幅広い世代から支持されるバンドになりました。
しかし、『あんぱん』の「賜物」を聞いた視聴者からは戸惑う声が。“新規の視聴者層を獲得したい気持ちは分かるが失敗だったと思う”とか、“やなせたかしのシンプルさと、ギチギチに言葉を詰め込んでよく意味のわからないRADWIMPS(野田洋次郎)とでは世界観が合わない”といった批判的な意見が見受けられます。
筆者もミスマッチだと思いました。意外性による化学反応を狙ったのかもしれませんが、ちょっとスベってるかも? RADWIMPSの曲が悪いとかではなく、単純に噛み合っていないと感じました。
引っかかった点を考えてみたいと思います。
◆やなせたかしと野田洋次郎の表現方法は“水と油”
まず、やなせたかしと野田洋次郎の表現方法が水と油だということです。
『あんぱん』がやなせたかし夫妻の物語だと聞くと、「アンパンマンのマーチ」が思い浮かびます。ドラマを観る人は、<そうだ うれしいんだ 生きる よろこび>のように、堂々とした明朗なシンプルさをまずイメージするわけです。
一方、「賜物」に出てくるフレーズはこんな感じ。<人生訓と経験談と占星術または統計学による教則その他、参考文献溢れ返るこの人間社会で道理も通る隙間もないような日々>
これが複雑なリズムで畳み掛けてくる曲調なのですね。「アンパンマンのマーチ」は長調、「賜物」は短調という違いもあり、「アンパンマン」とは真逆のイメージが展開されている。
ドラマの主題歌がドラマのモチーフをわかりやすく伝える役割だとすれば、「賜物」からやなせたかしやアンパンマンを想像するのは難しいと言えるでしょう。「賜物」は、作曲者の野田洋次郎のおなじみの作風であり、彼自身の個性を伝えることしかできていないからです。
なので、「賜物」が流れた時点で、ドラマと音楽が分離してしまう。本来ドラマに入り込むためのウォーミングアップとなるべきオープニングなのに、なんのことやらわからないまま物語が始まってしまうのですね。
◆やなせたかしと野田洋次郎の思想の違い
次に、やなせたかしと野田洋次郎の思想の違いについて。
RADWIMPSは、<この身体に流れゆくは 気高きこの御国の御霊>などの歌詞が国粋主義的だと指摘された「HINOMARU」や、SNS上での優生思想的な発言で物議を醸した過去があります。こうしたことから、やなせたかしの人柄や作風とはとても相容れるものではないとする意見もありました。
もちろん、これらの歌詞や発言には批判されるべき点はありますが、基本的には思想および良心の自由で認められる範囲のことです。それをもってRADWIMPSが『あんぱん』の主題歌にふさわしくないと断じるのは難しい。
むしろ、筆者が問題にしたいのは、両者における“世界”、そして他者の見え方に大きな断絶があるということです。
<そうだ おそれないで みんなのために>(「アンパンマンのマーチ」)というフレーズには、“私”とは他者のために存在するという、明確なメッセージが込められています。
一方、野田洋次郎の作風は、常に“世界”(他者)を“私”と区別し、対立するものとして設定しています。<何もない僕たちに なぜ夢を見させたか 終わりある人生に なぜ希望を持たせたか なぜこの手をすり抜ける ものばかり与えたか それでもなおしがみつく 僕らは醜いかい>(「愛にできることはまだあるかい」)のように、内面に映し出された箱庭の“世界”で、悲劇の主人公“私”が物語を展開していくのですね。
単なる主義主張の相違よりも、決定的な違いだと言えるでしょう。両者の表現者としてのスタンスやベクトルが、全く逆だからです。
ここに、野田洋次郎がやなせたかしの物語を歌うということのモヤッとした違和感が生じているのだと思います。
◆これから主題歌が馴染むようなストーリー展開を見せるのか?
たかがオープニングとあなどるなかれ。ドラマのトーンを決める顔が定まらなければ、視聴者もついていきません。
ともあれ、『あんぱん』はまだ始まったばかり。「賜物」が馴染むようなストーリー展開を見せるのか? 楽しみにしたいところです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4